第四話:マサの願い

 ――そして、いよいよ期末テスト前日。


「アオ、今までありがとう、俺マジで頑張るから」


「ありがとう、はまだ早いでしょ?ちゃんと赤点回避してから言いなさい」


 といつものように喋っていると急にマサが真面目な顔になって、こう言った。


「アオ、もし俺が全部のテストで赤点回避して、アオよりも一つでも点数の高いテストがあったら俺のお願いを聞いてくれるか……?」


 いつもと違い、真面目な顔つきのマサに私は内心驚いたが、すぐにこう答えた。


「いいよ、但し赤点とったら、許さないからね!」


 ――そして、期末テストが全て返された。いつも通り烏羽さんの喫茶店でマサと待ち合わせをした。マサは私より早く来ていたらしく、私に気づいたマサが手を振っている。私が席に着くと、


「ごめん、アオ……。俺、俺さ」


 自信なさげに下を向いてそう言った。ダメだったのかな……?そう思った時、


「赤点なかった!!」


 と顔を上げ、満面の笑みで言った。


「嘘!?」


 私は驚きの余り、マサの解答用紙を見るまで、信じられなかった。国語:五十六、数学:七十五、社会:四十九、理科:六十八、英語:五十七……。その他の教科も赤点はなかった。私も自分の解答用紙をテーブルに並べ、見せ合う。


「んでさ、俺、数学アオに一点勝ったぜ!」


 と言って、解答用紙を私の前へ突き出す。私は数学がちょっと苦手なのだ。


「ったく、やれば出来るじゃないの。」


 内心少し嬉しかった。教えた甲斐があったんだって素直に思えた。


「それで、お願いって何?」


「俺と、花火大会に行ってくれる……かな?」


 マサは顔が少し赤くなってて、可愛かった。でも視線は真っ直ぐとこちらを見据えていてなんだか別人のようにも見える。


「うん!約束だしね!」


 と私も笑顔で答えた。すると、


「フッフッフ……」


 と何処からか不敵な笑い声が聞こえてくる。


「じゃじゃーん!私も二人のお祝いしちゃうよぉぉ!!」


 いつの間にか隣にメイがいて、ケーキとドリンクを用意してくれていた。でも、そのケーキはいつもと違っていて、手作りのホールのチョコレートケーキの上に


 *アオ・マサよく頑張ったね!!お疲れ様!!*


 と書かれているプレートが乗っかっていた。


「えぇっ!?なんでメイがここに居るの!?ってか、なんで店員の格好をしてるの!?」


 私は状況が理解出来ず、思わず大きな声を

 出してしまう。メイは手際よくテーブルの上にトレーに乗った物を並べていく。


「あれぇ。アオに言ってなかったっけ?私、休日にここでバイトしてるんだよ。だから、君たちのイチャつきもお見通しなのさぁ」


 なんて笑いながら言っている。


「まぁ、それでこれは私から2人へのご褒美だよ!!これからもアオと仲良くしてあげ……」


「メイーッ!おーい、いるのか!?お前だろ!冷蔵庫の中にある材料全部使ったのはぁぁ!!」


 と言いながらカラ兄は厨房から出てきたが、

 テーブルの上に置かれたケーキを一目見ると


「なんだ。そういうことかよー」


 と言って、メイの方に向き直ると


「メイ。今度無断で材料使ったら即クビな」

 なんて冗談を言いながら厨房へ帰って行った――


 私たちは、メイが持ってきたケーキとドリンクを受け取り、半分に分けてお皿に置いた。もちろんプレートも半分にした。


「「いただきますっ!!」」


 と手を合わせて、二人で美味しそうに

 ケーキを頬張った。この日のケーキの味は今となっても忘れられないくらい、思い出の味となった。

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