第二話:新たな出会い

 そして私はいつもの帰り道から一本外れ道を通り日差しを避けて帰ることにした。途中、路地裏を通ると三毛猫を見かけた。ちらっと、私の方を見たかと思うと尻尾を立てながら小走りに行ってしまった。


「あっ……」


 私は思わず声を出し、慌てて猫を追いかける。猫は意外にも速くて、軽やかに右へ左へとクネクネ曲がっていく。路地裏から出ると、やっと猫に追いつくことが出来た。


 気づくと私はお洒落な喫茶店の前に立っていた。朝顔が入口脇に植わっていて花弁についたつゆが太陽の光を反射してキラキラと輝いている。先程の猫はどうやらここの猫らしく、店の前で我が物顔でくつろいでいる。猫を撫でながら、私は店の入口の近くへ目を向けてみる。入口の近くにはブラックボードが置いてあり、白文字で、


『今日のオススメは俺の日替わりランチ!』


 と殴り書きしてある。ちょっと興味が湧いた私は、勇気をだして店のドアを開けてみる。カラン、カラン……。

 ドアのベルが心地よい優しい音を立てた。


「いらっしゃいませ、お客様は一名様ですか?」


 女性の店員さんがにこやかに出迎えてくれた。


「あ、はい……。そうです」


 ぎこちなく視線を下に向けて私は答える。


「では、カウンター席へどうぞ」


 と彼女は言うと私を案内した。案内されるがまま、私は席につく。エアコンが効いており、店内はとても涼しい。私は何か頼もうと思いメニューを手に取り開いてみる。メニューは、手描きのイラストと文字での説明があり可愛らしいものだった。日替わりランチを

 食べたいところだけれど、生憎あいにく、さほどお腹がすいてない。そこで、私は人気No.1である苺のショートケーキセットを頼むことにした。

 注文を終えると、店内をぐるりと見渡してみた。店内はいわゆる古民家を改装したカフェのようで、落ち着いた良い雰囲気だ。窓には、フリル付きのカーテンがかけられている。また、どこのテーブルにも綺麗なお花が飾ってあった。BGMもこのお店にあったゆったりとした曲調で、聞いているだけで落ち着く。


「お待たせ致しました、苺のショートケーキセットです」


 と言って、テーブルにケーキとカフェラテが置かれた。


「ありがとうございます」


 私はニコッと笑い彼女に軽く会釈する。


「ごゆっくりどうぞ」


 彼女はそう言うと来た道を戻り厨房の方へ入っていった。


 テーブルの上に置かれたケーキとカフェラテを一瞥いちべつし、写真を撮る。


 *では、いただきます!*


 まずはケーキから食べてみる。スポンジがふわふわとしていて、生クリームの上に乗っている苺も甘くて美味しかった。カフェラテも美味しい――!!食べ終えた後の余韻にしばし浸っていると、


「ねぇ、君、もしかしてこの近くの高校の生徒だったりするのかな?」


 と、不意に後ろから声をかけられた。


「ふぁっ!?」


 私は驚き、咄嗟に変な声を上げてしまった。声のした方を見ると、20代後半くらいの男性店員が口元を抑えながらクスクスと笑っていた。


「あっはっは。そんなに驚かなくても。ごめんな、あ、そうそう、俺こう見えてもこの喫茶店の店主。烏羽湊からすばみなとって言うんだ。気軽にカラ兄って呼んでくれて構わないよ!んで、君の名前は?」


 と優しく話し始めた。悪い人じゃないみたいだ。


「そうなんですね、えっと、私は月夜葵つくよあおいです」


 と簡単に、自己紹介をした。


「ごめんなぁ、葵さん、驚かせちまって」


 と言いながら、烏羽さんは私の隣の席に座り、ニコニコしながら色々な話をしてくれた。話が終わる頃には、お互いに打ち解けあっている感じで、気づけばあっという間に陽は傾き、夕方になってしまった。私は慌てて時計を見ると、


「ご馳走様でした。凄く美味しかったです。遅くなってしまうと母が心配するので私、帰りますね」


 と言って会計を済ませて帰ろうとした。すると烏羽さんが私を呼び止めた。


「葵さん、ちょっと待って。実はね、君と同じ位の年の男の子がよくこのお店に来てくれるんだ。朝凪雅あさなぎまさって子なんだけど知ってる?」


 と聞かれた。


「いいえ、知らないです……」


 聞いたことの無い名前だ。そんな子いたっけ――?私は一人考えながら答える。


「そうかぁ、じゃあまた明日おいでよ。君とあの子を会わせたいんだ」


 と烏羽さんはニコッと笑いながら言った。


「分かりました。では、また明日!」


 烏羽さんに手を振って店を後にする。カランカラン……。心地よい音が風に乗って夕日まで響いた――。

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