絶滅危惧種とアイ・ジー(10)

 それよりさっきの謝罪しろ謝罪を。ってパス通知とかあるのか?


「あぁ。初めてだけど……」


 門番である二人は、同時に困ったような表情で見つめ合う。


「一つ教えといてやるが、ちゃんと役所で申請を済ませないとフィールドには通せない決まりなでな」

「役所で何を申請するんだ?」

「何をって……誓約書を書いて役所に通して、フィールドに出る為のパスを作るんだ。そんなことも知らないのによくフィールドに出ようとしたな」


 誓約書を書いてパスを作らないとフィールドに行けないって会員制かよ。しかも役所ってそれじゃあどんどん軍団から離れちまうじゃねぇか。

 先の詫びで通せって言いたいが、体格的に俺がこのドワーフにボコボコにされて終わりだ。

 悔しいがとにかく永聖軍団に逸早く追いつかないといけない。決して俺は臆病チキった訳ではない。


「分かった。でも今は本当に時間がないんだ‼ 頼む、今日だけ通してくれ! 次からはちゃんと申請を通してくるからさ」


 俺は出来る限り申し訳なさが伝わるように両手を合わせて頼み込んでみる。

 しかし、そんな俺の願いなど叶うはずもなく。


「駄目だ。こればっかりは絶対に通せない。ちゃんと役所でパスを作ってから出直すんだな」


 そう言って門番の二人は、俺を邪魔者扱いするようにシッシッと手を振った。

 チッ、これだから頭の硬い会社の犬は嫌いだ。

 でもまぁ俺が門番だったら即ブチギレて、俺みたないはガキは絶対に追い返す。

 こいつらはまだいい奴らなのかもしれないな。


「分かった、分かったから。少し待っててくれあんた達! せいぜい首を洗って待っておくんだな‼ ハッハッハッハッハッハッ」


 俺はポジティブ思考を上昇させて、すぐさま役所へと軽快に走り出した。

 あれ、ちょっと待て? 役所ってどこだ? 


「ハァハァ。これで、いいか? ゼェ~」


 三十分後。

 俺はアイ・ジーでマップを開き、ナビに教えてもらいながら役所へ赴いた。貧乏ゆすりを役所の人にちらつかせ、早急にパスを作ってもらい、再び全力疾走でこの門に戻ってきた。

 役所では『フィールドによる戦闘行為で生命の損傷、死亡については一切責任を負いません』的な、まるでスカイダイビングをする時と同じような誓約書を書かされた。

 因みにスカイハイは経験済みの俺だが、スカイダイビングはしたことがないのでこういうのも初めての経験だった。


「あぁ。アイ・ジーのパスの承認は完了だ。これであんちゃんも晴れてフィールドデビューだ。それとつかぬことを聞くが、装備はそのままで行くつもりなのか?」

「んぁ。そうだけど」


 そう、俺もさっき役所行く時に窓ガラスに映る自分を見て気付いたんだが、上着がTシャツからブラウン色のチュニックになってて、ジーパンが布製の黒ズボンに変わっていたんだ。

 おまけに革製のブーツを履いている。途中、気になってスマホがどこかにあるか確認したが、やはり無かった。


「本当にその装備で大丈夫なのか? あ、もしや武術スキルの達人とかなのか?」


 ちょっと門番が何を言っているかよく分からないので、適当に薄ら笑いを浮かべて相槌を打つ。今はそれより時間が無いので。


「あーそんな所だ」

「そうだったのか。すまない、余計なことを聞いたな。でも、いくら街で腕っぷしが強くても油断するなよ? この草原フィールドは奥に進めば進むほどモンスターが強くなるかなら。

 あとこれは既に知っているだろうがフィールド最奥にあるにだけは近づくなよ。あそこは【十億】の住処だからな」


 十億? なんだそれ。まぁ移動中にどこに何があるかくらいは確認しとくか。

 それと後もう一つ聞いておかなくてはいけないことがあったな。


「あのさ、さっきまでいた永聖軍団はどこに向かったか分かるか?」

「あぁ。軍団ならここから北東のスキナカス大森林へと目指して行ったが」

「そうか、ありがとう。じゃあ門を開けてくれ」


 あんまり距離を開けすぎると俺がモンスターに襲われちまうが、向こうは千人を超える隊列だ。

 俺の足は平均的な速さだが、走ればなんとか後方まで追いつくだろう。


「では、門を開ける!」


 威勢のいい声でドワーフみたいなおっさんが巨大な門の目の前に立ちはだかる。すると急に中腰姿勢で失礼します、コンコンとまるで面接の時みたいに門を叩いた。

 するとフィールド側に居たのだろう門番が、どうぞ~みたいな感じで二人分くらい通れそうな門を開けてくれた。


「あれ? 巨大な門が豪快に開いて、いざ冒険! て感じじゃないの?」

「何を言っておる。あんちゃん一人の為にこんな馬鹿でかい門を開ける必要がどこにあるんだ?」


 まぁそうなんだけど。互いに顔を見合わせて笑いあう門番二人。

 先から思ってたけど仲いいなこいつら。


「それもそうだな。とにかく行ってくるよ」


 俺は少し気恥ずかしさを紛らわそうと、急ぎ足でゲートをくぐった。

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