絶滅危惧種とアイ・ジー(3)

「それに最近はずっと家に帰ってこないの。ご飯も仮想世界あっちで食べてばかりでね。帰ってくるのはお店のお手伝いの時だけで、ここ半年くらい家に帰ってきてもずっと元気ないの……」


 ・・・ はい? ちょっと待ってくれ。


 色々意味不明な単語が俺の思考速度をフリーズさせ、再起動するのに少し時間が必要だった。少しして動きだした思考をゆっくりと回しはじめてもなお、処理速度はいつもより遥かに遅い。

 咲華が高校から不登校、家に帰ってこない、家出か? まだこれの意味は理解できるとして。

 ご飯はあっちで食べてくる、うん・・・どうゆうこと? 

 とりあえず俺は口内がカラカラに乾燥しかけているのを感じて、それを少しでも潤そうと唾をゴクリと飲み込む。


「へぇ~そうなんだ……」


 その時の俺は全くどう答えたらいいか分からず、とにかく脳から絞り出した言葉は素っ気ない返事だった。


「だからね、綴君も色々悩みがあるのだと思うのだけど、もし嫌じゃなかったらあの子とまた仲良くしてあげて欲しいの……。

 あの子、綴君の話をしてる時だけは、昔からつーちゃんはねって自分の事のように凄い笑顔で話すのよ、私もその笑顔がもう一度見たくて……。

 あら、やだ私ったら。こんなこと、相手の親から言われても厚かましいだけよね。気を悪くしたらごめんなさいね」


 叔母さんは恥ずかしそうに閉店作業を再会する。


「いや大丈夫。また来るよ……」


 とにかくいち早く思考を整理する為に俺は、足早にシギフラワーを後にした。

 帰り道のたった数メートル間に咲華と叔母さんの悲しみの顔だけが、何度も俺の頭の中をよぎらせた……。


 ***


 久しぶりに咲華に会ってから一週間と二日が経った。

 気が付けばゴールデンウイークも終わり五月二週目の水曜日午前十時。

 さて俺は何しているかというと、ベットに包まっていた。

 うーん、気持ちいい、出たくない、この体温の温もりがたまんないねぇ。そう、咲華のマネをしていた。

 だがしかし、これには深い訳がある。

 俺は自殺未遂をしたものの、別に不登校という訳では無い。たまにサボるどこにでもいる普通の学生だ、思考速度以外な。

 舞咲スカイハイからスカイハーイ‼ してからゴールデンウイークが終わり、俺はいつも通り学校に行った。普通にだ。


 でも周りの生徒達は、例の件について既にSNSなどで噂が広まっており、俺が飛び降り自殺スカイハイしようとした頭のネジがぶっ飛んだヤバイ奴という認識で、誰も俺に近づこうとはしなかった。

 元から俺の周りに近づこうしてきた輩は、邪魔だから一年の時に振り払ってやったし、正直友達と呼べる者もいなかった。あとクラスで俺だけアイ・ジー付けてない変わり者だっていうのも確実にあるのかもしれない。

 でもたまーに喋るくらいのモブキャラもいて、でもその日からモブキャラその①にしゃべり掛けた瞬間、そいつは飛んで逃げていった。

 フハハハハ、俺の真の力に今頃気付きよったかこの愚か者め。だからお前はモブキャラその①なんだよ、とは思ったけど素直にちょっと寂しかった。

 でも皆、自分が主人公だからこれは仕方ないよね、多分あのモブキャラその①君も俺のこと完全に敵キャラだと思っているだろうし。

 そして一時限目が始まる前のホームルームの時、担任の女の先生がやたらと俺の顔を伺ってくるし、多分クラスメイトの奴ら皆、俺のことチラチラ見てきやがった。

 確実に自分の目で確認している訳じゃないし、俺の目が頭の後ろにある訳ではないが、そういうのって被害妄想って言われるけど何となく分かるだろ。

 空気という目には見えないけど確かに教室に空気それはあって、兎に角それが俺には耐えられないくらい気味の悪いものに感じた。

 とまぁ結論を言うと俺は晴れてお先に高校を卒業しようかと思っているのだ。

 俺にあの狭い箱は似合わない。あと一つだけ言わせてくれ、別に学校に居づらくなって追い出されたとかじゃないからな、こっちから出て行ってやるだけだ。

 そういう誠実な経由で俺はベットに包まっている。

 何か文句ある人いたら俺の前に来なさーい。

 その時、コンコンと自室の扉からノックする音がした、来ちゃったよ(汗)。


「おにーちゃん、今日も学校行かないの? ママがお昼ご飯どうするのだって」


 扉越しに話しかけてくるのは小五の妹・瑠琉るるだ。

 因みに優等生で中三の弟・わたるもいる。


「今日もじゃない、これからもずっとだ。ていうかお前は義務教育だからさっさと学校行けよ。あと昼飯はラーメンで」


 そう午前十時過ぎのド平日に家にいる瑠琉こそ本当の引き籠り不登校児スペシャリストだ。多分、男の俺なんかより女同士のSNSでの陰口、いじめの闇が深い世界で傷を追っているみたいだ。

 JSマジ怖い。JSマジ可愛い。JSマジカオス。

 というより三兄妹で、そのうちの二人も学校に行ってないこの家庭にも色々問題がありそうだが、いつもフワフワ能天気系母親は、「辛かったら無理して行かなくても良いのよ~ウフフ」と言ってくれた。多分行って欲しいのが本音なのだろうけど。


「はぁぁ⁉ 瑠琉に義務教育なんていらないし、別に今は勉強したからっていい仕事につける時代じゃないの! 

 AIが仕事する時代なの! 

 おにーちゃんの時とは時代が違うの! 

 何よ、引きこもり初心者のバカおにーちゃんのくせに‼ ラーメンね‼」


 なんかついでに酷い罵られを受けた気がする。それに引きこもり初心者って……どこにプライド持ってるんだ我が妹よ。

 まぁラーメンが伝わったらそれでいいよ。

 しばらくしてる間にまたボーっとしてきた。これはきっと自然睡眠麻薬が、俺の脳内にドバドバと分泌し始めている。

 キタキタキターッツツ!! 

 仕方ない、昼飯までもうひと眠りしますか。俺はきっとニートじゃない、おやすみなさい。

 そう心に強く呼びかけると共に俺の瞼は、ゆっくりと落ちていった。

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