第13話テロリストとの対峙

夏のうだるような暑さが過ぎ今度は台風が訪れ

連日雨が降り続いていた。今年は大陸からの寒気と

太平洋高気圧に挟まれ日本各地では線状降水帯のせいで豪雨災害が頻繁に発生していた。

東京でも連日の雨で電車の遅延や運休が発生していて通勤や買い物に行く客達の脚を直撃していた。


この日、学校の創立記念日のため休講となった蓮は下北沢にある古着屋を見ようと新宿駅へ向かった。

駅に着くと驚くほど沢山の人でごった返していた。

新宿駅は1日で350万人もの乗降客が利用するし、それ以外にも乗り換えの客を合わせるとすごい数になる。連日の雨で電車の本数が減らされたり、遅延したりとでいつも利用している人だけではなく観光客も混ざり駅の中はすごく混雑していた。

蓮が利用しようとしている小田急線は特に遅れもなく動いているようなのでひとまずそれに乗り込んだ。小雨がぱらついていたけれど下北沢の駅で降り目的の古着屋へ来た。久しぶりに色々商品を購入し

店を後にした蓮はそのままブラブラと小田急線沿線を散策した。

気がつけば陽が傾き時間も6時を過ぎていたのでそのまま引き返す事にした。

新宿駅に着いたのは7時を少しまわった所だった。西口出口の近くにあるベーカリーが併設されたカフェに入りコーヒーを買って表にある席に腰かけた時

後ろから声がかかった。「蓮君?何してんの?」

蓮は一瞬何してるか見てわかるだろう!と思ったが野中の様子を見て言うのはやめた。

野中は蓮にそう問いかけたが誰かを追っている途中なのか蓮の方は見ていなかったからだ。

「野中さんの方こそ仕事ですか?」

「あ?いや、まぁそれじゃまた。」そう言って小走りに去っていった。野中の後ろ姿を見送りながらテーブルの上に手帳があるのに気づいた。慌てて野中を呼ぼうとしたがすでに雑踏の中に消えた後だった為、明日届ける事にして蓮も家へと帰るため席を立った。

翌日の放課後新宿署へ出向いた蓮は受付に野中を呼んでもらったが、現れたのは岩山だった。

「蓮君、どうしたの?」

「これ野中さんのじゃないかと思うんですが?

届けに来ました。」

「蓮君どこでこれを?」手帳を岩山に渡すと、岩山は驚いた様子で尋ねてきた。

蓮は昨日の新宿駅での事を話すと岩山は少し考えた様子で「どこへ行くかは言っていなかったか?」と問われた。

岩山によると昨日野中は公休日だったが今朝になっても署に現れなかったので野中のアパートに行ってみたけど留守だったらしい。

蓮は手帳を岩山に預けて野中を見たら連絡する事を約束して警察署を後にした。

新宿署を後にした蓮はそのまま近くにあるネットカフェに入りアランに電話をかけた。

野中の件を話してからいくつかの指示を出した。

「今から、新宿駅にあるカメラをハッキングするからアランはここの防犯カメラの映像をさしかえてくれる?」ハッキングがバレた場合ここのパソコンから身元がバレる可能性があった。その為の予防策だ。

「わかりました。何かわかったら必ず連絡してくださいね!」そう約束させられた。

蓮はパソコンから新宿駅に設置されている膨大な量のカメラをハッキングして昨日野中と会った時間と場所を調べた。調べていくうちに野中は誰かの後を追って動いていた。

野中の映像を追っているうちに一人の作業服を着た男を追っていることがわかった。見ている野中が新宿駅の西口階段脇にある工事関係者用のドアからその男を追って中に入っていったのが見えた。ほかにも出口があるのかその男も野中も今現在に至るまで出て来てはいなかった。

もう一度よく映像を見てみると中に入って行くのは外国人だけだった。確認できただけでも10人くらいはいるようだ。蓮はその映像をコピーしてアランに送ると電話して今からそこへ向かう事を告げた。

新宿駅まできた。今度は自分で確かめる為、少し離れた場所からそのドアを見張った。しばらくすると中から3人の作業服を着た男達が出てきた。やはり3人とも外国人だった。その後は誰も出てくる気配は無かった。そこで蓮は周りの人に気付かれないようにそのドアから中に滑り込んだ。中に入ると想像とは違い下へと階段があった。階段はずっと下まで続いてるようだった。慎重に下へと降りて行くとそこには工事中の路線があり遠くに電車の光が見えた。線路はまだ敷かれてはいないらしく奥の方に事務所らしきプレハブ小屋があった。

近づいて中を覗くと後ろ手に縛られた野中の姿が見え中に数人の男たちがいたる。幸い中に電気がついていてこちらは暗かったので気配を消している蓮に気づく者はいない。かなり殴られたのか野中の顔には痣があり血が出ていた。

蓮が降りてきた階段を誰かが降りてくる音がして蓮はそっと柱の陰に隠れて様子を伺う。降りてきたのは先程出て行ったあの3人だった。3人は蓮には気付かずに中に入った。3人の中の一人が野中に近づき野中に何か話しかけ、又野中を殴った。殴られた拍子に野中が座っていた椅子が倒れ野中も又床に倒れこんだ。その後もそのその男は野中への暴行をやめなかった。

その内先に中にいた男が止めに入りやっと野中は暴力から解放された。

男達は今しがた買ってきたと思われる食料を分け食べ始めた。蓮は柱の陰でカバンから取り出した覆面を被り目の下まで隠しキャップをかぶってから何食わぬ顔でその事務所と思われる小屋に入った。

蓮の登場により男達は一瞬戸惑いはしたがすぐに奥にいた男の命令で蓮に襲いかかってきた。

蓮は容赦なくひとりひとり叩きのめして行った。

男達はみんなすぐに動かなくなった。野中は覆面姿の男の登場に助けが来たのかもしれないという思いが湧いたがそれはすぐに絶望へと変わった。

覆面姿の蓮は命令を出した男以外を叩きのめした後

悠然とその男の元へ近づいて行った。

男は懐から銃を出し蓮に向けて撃ったが、その銃弾は空を切った。その瞬間男の懐へと飛び込んだ蓮は

前でしゃがみこみ男の顎に向けて拳を叩き込んだ。

その勢いで倒れ込んだが、態勢を整えると側にあったナイフを掴み切りかかってきた。蓮はすぐさま相手からナイフを奪い取ると攻撃をかわしながら少しずつ男を傷つけて行った。


野中は二人の戦いを息を吐くのも忘れるくらい見つめていた。その時、覆面姿の男から煙のようなもやが立ち昇りそれは次第に濃さを増し銀色に光るオーラの様に見えた。目の錯覚ではと思い瞬きしたがそれは錯覚ではなかった。オーラを纏うその男は相手に何か話しかけているように見えたが野中のところからは何も聞こえなかった。ただ野中をいたぶった男の表情が次第に驚愕から恐怖へと変わっていくのが見てとれた。


蓮は相手からの攻撃をかわしナイフを奪い取ると先ずは男の右足首の腱を斬った。男はよろめきながらも反撃しようとしてきたので次は左肩の筋をそして耳を切り落とした。男の威勢は無くなり顔は恐怖に変わった。

『お前達は何をする為にここに来た?』蓮が男の母国語で問いかけた。

『アブドゥール・ナイーフかお前?生きていたのか。

でもなぜ俺たちの邪魔をする?』

アブドゥール・ナイーフそれは蓮を育てた、そして蓮に殺された男の名前だった。

蓮はそれには答えずもう一度目的を聞いた。それでも答えない男の目に向かってナイフの切っ先を近づけた。

『その時限爆弾でこの新宿駅を爆破する。アメリカの言いなりの日本をやればそれこそジハードだ。

頼む!手伝ってくれ。』男は観念したのかあっさりと白状した。

蓮は立ち上がると男の膝めがけて自分の体重をかけた脚を下ろした。ヴァキッという鈍い音がして男は気絶した。蓮はボストンバッグの中にあった時限爆弾を机の上に取り出すと椅子に座って爆弾の解除を始めた。それは蓮が幼い頃に扱っていた形式のもので解除するのにさほど時間はかからなかった。


野中は二人のやりとりを見ながら恐怖を感じていた。最初は二人ともお互いに攻撃したりかわしたりしていたが次第にそれは一方的な攻撃へと変わって行った。覆面姿の男からの攻撃だ。段々と拷問に近い攻撃になった。それは見ていると相手に同情したくなるような酷い有様だった。そのうち野中を連れてきた男の声が聞こえてきたが外国語だった為野中には分からなかった。そのすぐ後に鈍い音がして静かになった。覆面姿の男は机の横にあった黒いボストンバッグの中から何かを取り出すとそれを机の上に置き椅子に座ると何かを始めた。しばらくカタカタという音や何かを切った様な音がした。

野中は恐怖で体が震えて見ていることもできずにいると覆面姿の男がこちらに近づいてくる気配を感じ恐怖に身を縮こまらせていると、

耳のすぐ横で聞き慣れた声が聞こえた。

「野中さん、大丈夫?立てる?」

聞き慣れた声に驚き目を開けるとそこに蓮の姿があった。

「れ、蓮君?何でここに?」

一瞬夢かと思って蓮の顔を見た。蓮はにこりと笑って野中を抱き起こしてくれた。向こうに見えるその光景と蓮の姿を見て野中はやっと我に帰ってあの覆面姿の男が蓮だった事に気付いた。絶句してしまい言葉が出てこなかった。あれほどの事をしたのが蓮だったのだ。

「岩山さんが随分心配してましたよ。さあ帰りましょう!」

蓮が肩を貸してくれ野中は事務所を出て階段を登っていった。階段の一番上まで来ると蓮は後は一人でも大丈夫かと確認した後警察に電話させ野中をそこに残してドアから外へと出て行った。


野中はドアを開けてそこに座り込んでいた。自分が見た事をもう一度思い返していた。まるで悪い夢を見た気分だった。遠くから走ってくる警官を見ながらこれからされるであろう事情聴取の事を考えていた。























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