三章 万里編 真実

俺はある女性に馬乗りになりその首を絞めている。

女の人は苦しそうに顔をゆがめている。

これはあのときの光景。

このまま体重を掛け続けたら、間違いなく訪れるのは死。

記憶の中の俺はその行動を止める事もできない。

しかし急に部屋の外が騒がしくなる。

入ってきたのは数人の大人たち。

俺たちの様子を見てひどく驚いている。

そして近づいてきて俺たちを引き離した。

和姉と離れたくない。俺は暴れて抵抗する。

しかし子供の俺には大人の力に抗う事は難しい。

必死の抵抗も空しく俺はそのままどこかに連れてかれていく。


「和姉!!!!」


和姉に必死に手を伸ばし叫ぶ。

和姉も俺に手を伸ばしている。

離れたくない、しかしその思いも空しく俺たちは引き離され…。

その日以降和姉は消えた。

そうだ、これがあの日あった事の真相だ。

俺は和姉を手に掛けていなかったんだ。

だがそうなると和姉は村の連中に殺されたというわけか。

これで全て分かった。

だから俺はこのあと真紅の望みを叶えるだけで全て済むはずだった。

だってのに何でこんな事に…暁。




「万里…」


声がした。

振り返ると暁がいた。

その目は驚きで大きく見開かれている。


「なんだよこれ…なんでこんな…なんで真紅がそんなことになってるんだ!!!!」


暁。お前は…なんでここに来ちまうんだよ。

お前がここに来なければ、知らなければ全部うまく行ったのにな。

暁はふらふらと室内に入ってきて、血溜まりに沈む真紅に近づく。

その体を抱き上げすでに命のないその身を見つめその頬を優しく撫でる。

暁の頬は濡れていた。


「万里…どうしてお前なんだ。あんまりじゃないかよ。

俺お前の事、本当に親友だと思っていたのに…こんな仕打ちはあんまりじゃねえかよ!」


暁は俺が握っている小刀を見て言う。

こいつにはここでの出来事が全て分かってしまったようだった。俺はただ攻め立てるその言葉を受ける事しかできない。


「暁…」


「呼ぶな!!気安く俺の名前を呼ぶなぁ!!」


小刀が手から滑り落ちて床に音を立てて落ちる。

その言葉ほど俺を打ちのめしたものはないかもしれない。

もう何を言っても聞かないのだろう。


「真紅がおれの全てなんだ」


暁は真紅のその体を優しく抱きしめ言う。

紅いものが染みとなり暁の着物に広がる。


「だから、お前を殺す…」


俺は後退る。

暁は床に落ちた小刀を拾い俺のほうを向く。

その目は何も写さず虚ろだった。

ただそこには憎悪と絶望しかなかった。

分かってもらえないのが何より悲しい、そして真紅の願いを適えることができないその懺悔。


「あ………」


暁は近づいてきて刀を振り上げる。

暁には見えているのか、真紅が隣に居るのか。

それが振り下される。

だんだんと刀身が近づいてくる中、俺は…。


「あかつきいいいいいいいい!!!!」


最後の叫びを振り絞る。

目の前を飛び散る赤い飛沫。

朱が俺の視界を染めていく。

その鮮血を浴びて段々と朱に彩られていく暁。

その目はまるで汚いものでも見るように俺を刺す。


そんな冷たい目で見ないでくれ。

頼む、頼むから、暁…。

薄れゆく意識。


俺は残されるお前が心配だった。

一人残されて、何も知らずに、この後お前はどうするんだ。

俺に覚悟があったなら、お前をこんな目に合わすこともなかったかもしれない。

悪いな。俺はもう駄目みたいだ。

この世には未練たらたらだが先に逝かせて貰う。


そして、ゆとり。本当にすまない。

兄ちゃんはお前を連れて帰ることが出来ない。

だからこれだけは暁に頼もう。


「暁…ゆとりを…頼む…」


ちゃんと声に出せたか分からない。

目の前はもう真っ暗で暁の顔を見ることもできない。

だが最後の最後に俺の脳裏を霞んでいったのは暁、真紅、ゆとり、そして…和姉。

楽しかった記憶。

走馬灯のようにそれは流れていった。

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