一章 ゆとりルート 鮮やかなる季節

おれたちを切り離したあいつらの事がどうしても許せなかった。


「真紅さんがこの屋敷の人たちを殺しました」


そこまで追い詰められていたのに、おれには何もしてやれなかった。


「あなたが気に病む必要なんてないんですよ。

全て真紅さんが決めた事です」


だが、おれには何かできたはずなんだ。


「それは今更ですよ」


何かできたはずなんだ。


「ではどうしてこんな結果に?」


何かできたはずなんだ。


「何かできたというのなら、何故そんなにも後悔しているのですか?」


何かできたはずなんだ。


「どうしてすぐにでも真紅さんを迎えに行かなかったのですか?」


何かできたはずなんだ。


「真紅さんは貴方を待っていたんです」


…………………………………

………………………

………………

………


今からでもあいつのために何かしてやりたい。


「簡単なことですよ」


顔を上げると満面の笑みのゆとりちゃんが立っていた。



今日も変わらずおれは縁側でぼーっとしている。

近くに人の気配を感じる。

そちらに視線を寄こす、ゆとりがお茶を運んでいるところだった。

おれの隣にしゃがみこむとどうぞと言って茶を差し出す。


「ああ、ありがとう。ゆとり」


「いいえ、今日もいい天気ですね」


ゆとりは俺の横に腰掛け、空を見上げる。

特に何を見ているわけでもない。

ここ最近の習慣だ。

ただ静かで穏やかなひととき。


「ねえ、暁さん」


「ん、どうしたの?」


「この先ずっと、いつまでたっても、暁さんは生きてくださいね」


「なんだ、またその話。

もう何回も聞き飽きたよ」


「でも、生きていて欲しいんです。

ね、約束です」


そう言って小指を差し出してくる。

おれは戸惑う。

ゆとりにから直接本心を聞いたことがあっただろうか…。

それはおれにとっては生き地獄とも言うべき言葉。

分かっていて言っているんだろうか…。


いや、そんなはずないだろう。

ゆとりは純真に心からおれに生きていて欲しいと思っているんだ。

だからおれも心に決める。


「…しょうがないなあ」


そうして小指を差し出す。

それは絡み合い、固く約束される。


「ふふ、約束ですよ」


「うん…」


指は開放され、ゆとりがおれの肩に寄りかかってくる。

以前のおれだったらそれだけでずいぶんとうろたえてしまったに違いないな。

ゆとりがつぶやくのが聞こえる。


「ずうっと…生きてくださいね…」


こんなにもおれの生を望む少女に慕われて、おれは絶対に死ぬ事なんてできない。


真紅…君がいないこの世を生きている意味などない。

そう思っていたよ。

でも今は生きている事で君に罪滅ぼしできるように思う。

だって、死ぬ事よりも生きている事の方がずっと辛いんだ。

そしておれが生きている限り君が死ぬ事はない。


だっておれ達は双子。

もともと一人の人間じゃないか。


ああ、今日も山は彩り豊かで綺麗だ。

君の好きな景色だよ。

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