万里ルート

一章 万里ルート 外は雨。気は沈み、憂鬱だ

真紅の夢を見ていた。

外はしとしとと雨が降り続け余計に気が滅入ってしまいそうだった。

朝からの雨に気が沈んでいたが、こんな時だからこそ家に篭っていては余計病みそうだ。


「出よう…」


外は土砂降り。

あまりの雨の多さに先の景色は霞がかかったように見えない。

向うからゆとりちゃんが駆けて来る。

あんなに濡れてしまって、何をしてるんだ…。

その人影が…こけた。

え………。


「ゆとりちゃん!!」


おれは急いで駆け寄り抱え起こす。


「ゆとりちゃん!大丈夫!?」


怪我はない様だが、着物が泥でひどく汚れてしまっている。

ゆとりちゃんはおれの姿を見てひどくうろたえている。

視線はさまよい、焦点があっていない。


「あ…暁さん…違うんです。

私、暁さんを困らせたいわけじゃないのに…。

ああ……うう……うぇええ………うわあああん!!!!」


泣き出してしまった。

いつも気丈なゆとりちゃんが泣くなんて。

それに様子がおかしい、どうしてこうまで取り乱してしまっているのだろう。

こういう時どうしたらいいか分からない。

どうすればいいのかあたふたするばかりだ。


「ゆとりちゃん…。

そんなに泣かないで、大丈夫どこにも怪我はないよ」


そんな言葉しか思いつかない。


「うわあああん!ごめんなさい、ごめんなさい!」


次第にゆとりちゃんの泣き声が大きくなる。

ふと周囲を見ると村の奴らがじっとおれたちの事を見ている。

遠巻きに見ているだけでまるでどうにかしようという気がないようだ。

そこへまた見知った影が近づいてきた。


「ゆとり!お前傘も差さずに飛び出すなんて無鉄砲にもほどがあるぞ!」


「おい、どうしたんだよ?びしょぬれじゃないか」


万里だった。

急いで出てきたのか万里こそ傘も差さずに濡れてしまっている。


「ごめんなさい…ごめんなさい暁さん!!!」


一向に泣き止まないゆとりちゃん。

その様子を見て怪訝そうな万里。

何がなんだか分からないといった様子だ。


「すまん万里…」


こう言う事でしか取り繕うことが出来なかった。


「何でお前が謝るんだよ」


しかし万里はおれを怒鳴ることもなく逆に笑みを浮かべる。


「お前のせいじゃないってのは分かってるさ。

それにお前にそんな度胸があるとも思えねえ」


嫌らしい笑い方だ。

やっぱりこいつの方がおれより一枚上手だというのが悔しい。


「ゆとりをこのままほっとくわけにもいかねえからな、家につれて帰るよ。」


「お前もいつまでもこんな雨の中歩き回ってんじゃねえよ」


そういってゆとりちゃんを連れて行く万里。


「あ、待てよ。おれも一緒に行くよ」


しかし万里はおれを押し留まらせる。


「いいって、お前の気にすることじゃねえんだから。それに…」


万里はおれの耳元に顔を寄せて言う。


「ゆとりの気持ちも汲んでやれ、お前に気を使わすのを人一倍居嫌がるんだからよ」


そうして、くくっとあの変態的な笑みを浮かべる。


「わかったよ…」


こうまで言われてはこれ以上無理強いすることも出来ない。


「じゃあな」


行ってしまう万里とゆとりちゃん。

しかしおれの中ではまだ納得できなかった。

後味が悪い。

俺がもっとちゃんとしていれば…。

うじうじといつまでも同じ思考を繰り返す。


しかしふと疑問に思う。

一体ゆとりちゃんは何をしようとしていたのだろうか…

とりあえずあとでまた様子見に行ってみよう。

再度、村を彷徨う…。



途中。

水車小屋の音に気を引かれ近づこうとした。

だが何か引き止められるような気がしてやめる。

こんな天気の悪い日には近づかない方が無難かもしれない。

おれは後ろ髪が引かれる気分でその場を後にした。

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