命懸けのゲームをしよう ②

《前回のあらすじぃ!》

ジョンが変なゲームを持ってきた!その名も何と『デビルズクエストハンター2B』!クソゲーの臭いがプンプンするぜ!

早速プレイし始めた僕たちだったけど……

いきなり表示される正体不明のアラビア語!

”ウンコぶりぶり丸”という意味のわからないデフォルトネーム!

この時点でクソゲー確定だ!

そんなこんなで始まるウンコぶりぶり丸の冒険!

果たして僕らはエンディングを見られるのか⁉







『ここは……とある王国の……とある村……』


そんなこんなで画面が暗転し、文字列だけが表示されるようになった。プロローグが始まったようだ。やれやれ、やっとか……


『魔王が世界を支配しようと企む中……その野望を阻む運命を背負った勇者が……生まれようとしていた……』


ああ、はいはい。それが主人公ね。つまり僕が操作するプレイヤーか。


『>>おぎゃあ! おぎゃあ!

 >>おめでとうございます! 男の子です!』


お、主人公が生まれたな。


『>>おぎゃあ! おぎゃあ!

 >>名前はずっと昔から決めていました。この子の名は……「ウンコぶりぶり丸」

 >>おぎゃ……

 >>おお! なんと言うことだ! この赤子、もう泣き止んだぞ! しかも、こんなにも凜々しい顔つき! 眉間に皺までよっている! 間違いない! この子はきっと強い子に育つぞ!


こうして人々の期待を背負い、ウンコぶりぶり丸は生まれたのでした……』 


いや『泣き止んだ』つうか、なんか名前が気に入らなかったみたいになってるんですけど⁉ 

そりゃそうだよね! ウンコぶりぶり丸とか名付けられたら誰だってそうなるわ!


『そしてなんやかんやで15年が流れ……ウンコぶりぶり丸は魔王討伐の旅に出ることとなった……』


な、なんやかんや⁉ ちょっと待て! 確かにあんまりこの部分は大事じゃないかもしれないけど! でも『なんやかんや』はねえだろ⁉ 

ウンコぶりぶり丸の15年をなんだと思ってやがる⁉


これじゃあ感情移入なんて出来やしねえよ! 

……いや、名前がウンコぶりぶり丸の時点で感情移入なんて出来ないけども!


「とりあえずこれで、第1章はクリアだな。さすがだマコト」


……え⁉ これで第1章終わり⁉ まだ、主人公生まれて『ウンコぶりぶり丸』って名付けられただけだけど⁉


「ああ、ここまでが第1章だ。ちなみにだが、俺様はこの時点ですでに『やめたい』と思っていた」


名前が『ウンコぶりぶり丸』になっちゃったこと気にしてんじゃねえかお前!


ていうかもしかして、このゲームが『難しい』ってのは『精神的に』て事なのか⁉どんなゲームだよ⁉ 嫌だよそんな文字通りの体感型ゲーム!


「まあそれはそうと、次は第2章だ。準備しろ」


ジョンがそう言ったのとほぼ同時に、暗転していた画面が明るくなった。

だだっ広い荒野に、主人公が一人だけ。どうやら冒険に出たらしい。


「とりあえず南に向かえ。ずっと行ったら、次の町にたどり着ける」


どうして良いかわからず迷っていた僕に、ジョンはそう教えた。

うん、やっぱりなんだかんだ言っても、序盤は攻略法を知ってる奴がいると心強いな。まあその攻略法を知ってる奴のプレイヤーネームもウンコぶりぶり丸だけど。


『ピロロロン!』


おっ、歩いてたら急に画面が切り替わったぞ。もしかしてモンスターとの戦闘か?


『スライムが現われた!』


どうやらそうらしい。画面には、半液状のモンスターが表示されていた。

RPGの定番モンスター、スライムか。


「スライムは序盤の雑魚モンスターだ。まあ問題なく倒せるだろう」


僕の隣でジョンが、そんな解説を入れた。

ほう、それならサクッと倒してしまおう。さてさて、コマンドは……


『>>たたかう 

   どうぐをつかう

 しゃざいする』


ちょっと待て! なんだよ『しゃざいする』って⁉ どういう選択肢だ⁉


「このゲームでは『しゃざい』が『にげる』の代わりだ」


なんでだよ⁉


「普通に考えてみろ。現実世界で、それまでずっと戦ってたのに、急になにも言わずに立ち去るなど、そんなのもはや通り魔じゃないか?逃げるにしてもまず謝罪。許して貰えて、初めてさよならだ」


いいだろ別にそんなリアリティー再現しなくても!普通に逃げればいいだけじゃん!ていうかお前、それまでモンスターを殺そうとしてた奴が謝罪しただけで、モンスターに許して貰えるとでも思ってんのか⁉ 脳内お花畑なのか⁉


「そこはほら、モンスターの良心に訴えかけて……」


良心に訴えてそれがまかり通るんなら、そんな優しいモンスターとはそもそも戦いになっちゃいねえだろうよ!


ああクソッ! もういい! 謝罪については後回しだ! とりあえず今はコイツを倒すのが先決だ!


僕はコマンドの『たたかう』を選択してボタンを押した。


『>>こうげき 

魔法』 


どうやら、直接攻撃と魔法攻撃を選べるらしい。

うーん……ここはやっぱり“こうげき”かな。初戦だし、どれくらいの威力か確認しておきたい。


――――ポコッ!


『ウンコぶりぶり丸はスライムにこうげきした! しかしスライムには効かなかった……』


なんでだよ⁉ なんでスライム如き雑魚モンスターに“こうげき”が効かないんだよ⁉


「あーあ、やっちゃった。あのなマコト、スライムは確かに序盤モンスターだが、でも“こうげき”は通用しないんだぜ? なんたって奴ら、体がニュルニュルだからな。斬っても叩いても意味がない」


そういうことはもっと早く言えよバッキャロウ! 

くそっ! ジョンが黙ってたせいで一ターン無駄にしちまったじゃねえか……!


……い、いや。まあでも問題ないだろ。なんたって、敵は所詮スライム。一ターンの猶予を与えたところで、負けるわけも無し……


『スライムのこうげき! ウンコぶりぶり丸は10のダメージを受けた!』


ぎゃああああああああ! 一気に体力半分近く持っていかれたああああ! 

ちょっと待て! なんで序盤の雑魚モンスターの攻撃がこんなにも痛いんだ⁉


「いや、だってそれはほら。キサマだってまだ序盤のレベル1だろう?」


だとしてもだろ! 完全に敵の強さ設定間違えちゃってんだろうが! ゲーム序盤で詰んじゃうヤツだよコレ! 


どうすんだ⁉ 多分あと1回攻撃食らったらやられるぞぶりぶり丸!


「そういうことなら回復だな。“どうぐ”を選択してみろ。確か、最初から薬草を10個持っていたはずだ」


おぉ! ここに来てようやくジョンが役立つ情報をもたらした! 

よし、そうとわかれば早速回復だ!


『ウンコぶりぶり丸は薬草を使った! HPが1回復した!』


「まあ、普段から薬草を常用してないと、1しか回復しないんだけどな」


――――ボカッ!


僕は力一杯、ジョンにグーパンをぶち込んだ。


「ぐはぁ……キ、キサマなにをする……⁉」


『なにをする⁉』じゃねえ! こっちのセリフだボケ! 

1しか回復しないなら先に言えよ! 10ダメージ食らうのに1回復って、完璧に焼け石に水だろうが!

つーかなんで1しか回復しないんだよ⁉ 少なすぎだろ回復量!


「だから言っただろう? 薬草は常日頃から服用していないと効果がないんだ。ぶりぶり丸はこれが初めての服用だから、まだ1しか回復しない。そして一回使うごとに回復量が1ずつ上昇していき、最終的には一度に100まで回復できるようになる。ちなみに、服用してから次の服用までのリミットは1分だ。それを過ぎると、また回復量が1に戻る」


なんだその無駄システム⁉ 最大値回復できるようになるまで100個も薬草食わないといけないじゃねえか! 

しかも一分ごとの服用って、もはや中毒だよそれ! 薬草の中に絶対、何らかの麻薬成分が含まれてるよ!


『スライムのこうげき! ウンコぶりぶり丸は11のダメージを受けた!』


ぬわあああああ! そんな事言ってる内に、ウンコぶりぶり丸の残り体力が1になっちまった! もうだめだこれ! ぶりぶり丸死んじゃうよ! 

死んでウンコぶりぶりしちゃうよ!


「まだ諦めるのは早いわマコト!」


な、なに⁉もしかして何かこの状況を打破できる方法があるってのかユッキー⁉


「そうよ! ぶりぶり丸にはまだ、選択肢が残されてるじゃない!」


ま、まさかそれって……!


「『しゃざい』よ! こうなったら、謝って見逃して貰うほかないわ!」


マジかよ! もうそれしかないのかよぶりぶり丸! 勇者のくせにスライムに謝らなきゃならないのかよ!このウンコぶりぶり野郎は⁉


「はっはっは、情けないなマコト」


テメエは笑うなジョン! 誰の所為でこうなったと思ってんだ⁉ お前はトイレでウンコぶりぶりしてやがれ!


僕は決死の覚悟で、コマンドカーソルを移動させる。


『  たたかう 

   どうぐをつかう

 >>しゃざいする』


よし! 謝罪するぞ! ウンコぶりぶり丸がスライム如きに頭を下げる勇姿をその目にしかと焼き付けやがれ!


『>>土下座して謝る

   立ったまま謝る

   平謝りする

 謝ったフリしてこうげき』


ぬおおおい! 『しゃざい』の選択肢多すぎだろ! 『たたかう』よりもコマンド数多いじゃねえか! どこに力入れてるんだよ製作者⁉ 


と言うか最後の選択肢! お前、なにちゃっかり不意打ちしようとしてるんだ

ぶりぶり丸! それでも勇者か⁉ 正々堂々戦わんかい!


クソッ! ここはとにかく土下座だ! 土下座が一番効果的なはずだ! 多分!


『ウンコぶりぶり丸は土下座した!』


よし! お前の最高の土下座、もとい命乞いを見せてやれウンコぶりぶり丸!


ぶりぶり丸『くぅぅぅぅぅ……! がぁぁぁぁぁぁぁ……! 申し訳……ござい       ま……せぇぇぇん!』


ぶりぶり丸ゥゥゥゥ! おまっ、なにいっちょ前に悔しがってんだよ! なにスライムに謝罪するのを嫌がってんだよ! 


土下座が完璧に半沢◯樹の奴みたいになってるだろうが!バカか⁉そんなんで許して貰えると思ってんのか⁉ 社会はそんなに甘っちょろくないんだよバカヤロウ!


スライム『……ふっ、ザコめ』


ぶ、ぶりぶり丸ゥゥゥゥ! スライムに鼻で笑われちゃったよぶりぶり丸! 可哀想すぎるよウンコぶりぶりさん!


『スライムは哀れむような目でこちらを見ている』


哀れむような目で見るな、ぶりぶり丸を! これ以上彼を傷つけてやるな!

そしてちゃっかりド◯クエの仲間になるシーンをパクるなよ! 仲間になるどころか憐れまれてるし!


『スライムは唾を吐きつけると、どこかへ去って行った』


唾まで吐きかけられちゃったよぶりぶり丸! 唾付きウンコになっちゃったよ! 憐れすぎるわ!


『ウンコぶりぶり丸は5経験値を手に入れた! ウンコぶりぶり丸のレベルが2になった!』


いや、レベルが上がったというよりも、人としての尊厳が地に落ちたような気がするんですが⁉ 色々と大丈夫なのぶりぶり丸⁉ 僕なら死にたくなってるよ多分!


『ウンコぶりぶり丸は新しく『じさつ』の技を手に入れた!』


全然大丈夫じゃなかった! 完全に病んじゃって、とんでもない技手に入れちゃったよぶりぶり丸! 世界救う前にお前が救われろよぶりぶり丸!


『ウンコぶりぶり丸は何か大切な物を失った。しかしウンコぶりぶり丸は涙をぐっとこらえた』


こらえなくて良い! こらえなくて良いからぶりぶり丸! 

悲しいときは泣いちゃって良いんだぞぶりぶり丸!


ぶりぶり丸『絶対に……この世界を滅ぼしてやるぅぅぅぅ……!』


ぬおおおおおい! ついに悪堕ちしちゃったよ! 憎しみのあまり、魔王より魔王っぽいこと言っちゃったよ! 世界滅ぼすつもりだよこの人! 

スライムに負けただけなのに!



「うむ、戦闘が終わったな。よし、それでは当初の目的通り、南の町を目指して探索を続けようマコト」


イヤだよ! もうやりたくねえよこのゲーム! こんなにも主人公が憐れすぎるゲームなんて誰がやるか二度と!



僕は持っていたコントローラーを放り投げた。そしてそのまま、この不幸を僕に与えたジョンにキックをお見舞いしてやった。


「なんだ、諦めるのかキサマ。一度始めたことを放り出すつもりかウンコぶりぶり丸?」


誰がウンコぶりぶり丸だ!とんでもねえあだ名を定着させようとするんじゃねえ!


「そうよ。こんなところで諦めるなんて勿体ないわ。主人公のウンコぶりぶり丸が何のために人としての尊厳を失ったかわかってるの、ぶりぶり丸?」


だから僕をぶりぶり丸と呼ぶな! ややこしいだろ!

つーか、なんと言われようとも絶対二度としないからなこんなクソゲー!


「ふむ、そうか残念だ…仕方ない。面倒だが俺様が自力でクリアするしかないか」


お前今『面倒』つったか? 

やっぱりお前もこのゲームがクソだと思ってんじゃねえか!


すると、それまで見ているだけだったユッキーが、突然「ねえ、これ持って帰っても良い?」とジョンに聞いた。


「うん?別に構わんが…もしかしてキサマ、このゲームをプレイするつもりか?」

「まあね。見ててちょっと面白そうだったし」


お前は一体なにを見ていたんだユッキー? どこをどう見ても面白くなさそうだっただろこんなもん。ドブに捨てるレベルでつまんなそうだったろ。


「ふむ、まあクリアしてくれるなら全然貸して構わないが……大丈夫か? 多分このゲーム、一人でやってたら死にたくなるぞ? 俺様も危うく、自己嫌悪のあまり自殺するところだったからな」


何やってんだよジョン。たかがゲーム如きでなにを自殺考えてるんだ。

ぶりぶり丸かお前は。


…というかここに来て、このゲームの前の持ち主の死亡説が濃厚になってきたな。怖いよ。


「大丈夫大丈夫。こんなのでへばるような柔な精神してないから私」

「……なら貸してやろう。でも絶対、無理だけはするなよ?」

「まっかせときなさい! ちゃちゃっとクリアしたげるわよ!」


ユッキーはそう言うと、ゲーム機を受け取った。そしてそのまま、家に持って帰ってしまった。







《後日》


「あのゲームね、クリアできたわよ」


最初にプレイしてからかなり時間が開いていたので、ユッキーが突然『あのゲーム』なんて言ったときは、一瞬『何のこと?』となった。


しかしすぐに僕達は、それがあのクソみたいな『デビルズクエストハンター2B』の事だと気がついた。


え、マジで⁉ あのクソゲーをクリアしたのかよユッキー⁉


「うん、相当時間かかったけどね。SAN値もとんでもなく持って行かれたし……でも、なんとかクリアしてやったわよ」

「それは本当か⁉ それで⁉ エンディングはどうだった⁉ ウンコぶりぶり丸はどうなったのだ⁉」


ジョンが異様に食いつく。まあコイツが持ってきた物だし、それもそうか。


しかしかく言う僕も、ちょっと気になっていた。あの不幸のどん底、社会の最底辺に居た、勇者ウンコぶりぶり丸が、あの後どうなったのかについては。

魔王を無事に倒せたのだろうか?


「ああ、うん。それについては大丈夫。ちゃんと倒したわよ。魔王”は”」


……魔王”は”?


「なんて言うかね……魔王を倒した後に……その……ぶりぶり丸が魔王に成り代わっちゃって」


……は?


「スライムにやられた件が相当尾を引いてたみたいで……それで魔王になった後、ぶりぶり丸暴走しちゃって……」


暴走しちゃって……?


「……古代兵器で世界滅ぼしちゃった」

「………………」

 ………………。




今回の教訓。

人を貶したり、子供にキラキラネームをつけるのは絶対にやめましょう。

最悪の場合、世界滅びます。

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