至高の書物を汚すべからず ②

《前回のあらすじ》

ユッキーの「エロ本ってゴミじゃ無い?」なんていう神をも恐れぬ発言で、僕の怒りのボルテージは爆上がり。一触即発の空気が立ちこめる。

しかし僕は、ユッキーの前で”実戦”することで彼女を閉口させることに成功した。

にもかかわらず、負けを認めないユッキー。

すると突然、ユッキーが下着姿になったのだった! 

YES!ラッキースケベ!ビバビバヒーハー!




いやいやいやいやいや! 

なにしてんすかユッキーさん⁉


僕は突然服を脱ぎ捨てたユッキーをガン見しつつ、そう叫び聞いた。

しかしユッキーは、眉をピクリともさせず平然としていた。


「言ったでしょ“実戦する”って。こうなったら私自ら体を張って、『音や動き』がエロにとってどれほど重要か思い知らせてやるわ」


なんでだ!なんでお前はそこまでするんだユッキー⁉一体なにがお前をそこまで駆り立てているんだユッキー⁉

いくら『エロ本はゴミ』って言いたいからって、普通そこまでするか⁉ 頭おかしいんじゃねえのか⁉


しかしユッキーはやはり平然としていて、まるでそれが当り前のことのように、変なポーズを取り始めた。


「じゃあまずは、エロ本っぽくエッチなポーズ取るわよ。その目にしかと焼き付けなさい」


ユッキーはそう言うと、M字開脚をして、いかにも童貞男子が喜びそうな格好をした。


だから一体なにがお前をそこまで駆り立てているんだユッキー!

そういう病気なのかもはや⁉


だいたい、あまり僕を見くびってくれるなよユッキー。お前は親友だ。心の友なのだ。そんなお前がエッチなポーズを取ろうとも、僕がエッチな気持ちになるようなことは断じて無い。友達を見てエロい気持ちになるようじゃ、そんなの友達とは言えないからな。


ジャイアンがスネ夫のシャワーシーンを想像してエロい気持ちになるか? ならないだろ? それと同じだ。


……いや、なにを言ってるんだ僕は。自分でもなに言ってるかわからないぞ。どうやら突然舞い降りたラッキースケベに混乱しているようだ。うふふ。


いかんいかん。友人を見て興奮するなんて、そんなの人間失格じゃないか。気をしっかり持たねば。僕は品行方正な真人間なのだ。


「はい、じゃあここまでが『静止画』ね。じゃあここに、エロビデオみたく動きと声を付け足していくわよ」


僕の心の葛藤も露知らず、ユッキーはそう言った。


ふん、どうとでもしやがれ。お前が何をしようとも、僕は絶対に興奮したりしないからな。出家僧のように、自分の中の煩悩を押さえ込んでやる。


するとユッキーは、いつものツンケンした表情はどこへやら、エロビデオに出てくる女優がするような、凄まじくエッチな顔つきになった。

そして、体を悶えさせながら恥ずかしそうに言った。


「あ、あんまり見ないでよ……ばかぁ……」


ぐっっっっっはあああああああ!こ、こいつ!なんてエロさをしてやがる⁉

今一瞬、理性が吹っ飛びかけたぞ! 


何という女だ……!まさかこの僕をここまで興奮させるとは……!今まで数多のエロを見てきた僕でさえも。鼻腔からの出血多量で死ぬところだった!危ねぇ!


……って、ちょっと待て!僕は無事だったが、ジョンはどうなんだ⁉

アイツたしか、僕と違ってエロに全く耐性無かったよな……!


――――ドクドクドク……


僕が見たときにはもうすでに、ジョンは鼻から大量の血を流してぶっ倒れていた。そして弱々しい声で「ふぁ、ふぁぁぁぁぁ……」と断末魔をあげていた。


あ、ダメだこれ。もう手遅れだわこれ。南無南無……


しかしジョンを逝かせてもユッキーは止まらない。その美貌を武器に、さらなる攻撃を仕掛けてくる。


今度は、先ほど脱ぎ捨てた自らの服で顔を半分ほど隠し、上目遣いでこう言った。


「痛く……しないでね?」


ぎゃあああああああああああああああ!やめろおおおおおおおおおおおおお!


そ、それは! 初めての男女同士が最初に行うという伝説の前戯! 

『ITAKU・SINAIDENE?』じゃないかああああああ! 

まさかこんな所で見られるとは! 


伝説は本当だったんだ!ラピュタは本当にあったんだぁ! 

……なにを言ってるんだ僕は⁉興奮で言語能力が壊滅してしまっている!


――――ドバッ!


伝説との邂逅に喜び震える僕の隣で、ジョンの鼻血が勢いを増した。

どうやらまだまだ出血するようだ。



さらにさらにユッキーは、今度は立ち上がって、そして意地の悪そうな笑みを浮かべて、こう言った。


「私に全部任せなさい……なんにも考えられなくなるくらい、気持ちよくしてあげるから」


ぬひょおおおおおおおおお!くぉれわぁ!

うぶな童貞男子諸君が夢にまで見た『お姉さんに奴隷として使役される』というシチュエーションじゃ無いですかぁ! 


これからなにをされるのかわからない恐怖と、待ち受ける快楽を前に、全てがどうでもよくなっちゃうあれじゃ無いですかあああああ! 


この醜い豚を虐めてくださあああああああい! ぶっひぃぃぃぃぃ!

……だから何を口走ってるんだ僕は⁉大丈夫か⁉


――――ごっっはあああああああ!


ジョンは今度は口から血を吐き出した。鼻と口から噴水のように血を吐き出す様は中々にシュールだ。



そしてまたまた、ユッキーは態勢を変える。今度は怯えたような表情で尻餅をつき、そしてこう言った。


「や、止めてくださいご主人様……そんなことされたら私、おかしくなっちゃいます……!」


な、なんと!これこそまさに『メイドを痛ぶるドSのご主人』のワンシーンだ! 普段は温厚で優しいご主人も、ひとたび“獣”になれば抑えの効かない暴君となる! 


しかしメイドもメイドで、『おかしくなっちゃいます.』という言い方からもわかるように、痛ぶられるのを心では望んでしまっている! 


SとMが織りなすメタモルフュージョン! 最高やでぇ!

さてさて、ジョンの反応は……?


「……」


あれ、なんか反応が無いな。

……あ、もしかしてジョンはこういうの嫌いなタイプなのかな? 時々居るからな、そういうタイプ。まあかく言う僕もあんまり好きじゃ無いけど。


しかしなんと言うことだ。さっきは『友達で興奮するなんて人間失格』とか言ってしまったが、もうぶっちゃけこれは無理だ。興奮せざるを得ない。だってこの女、人を興奮させる天才なんだもん。耐えられるわけが無い。いやむしろ耐えたくない。全てを解放したい。色々と。なし汁ブシャァだ。


えぇい! もうこうなったら、僕は人間をやめるぞ!


さてさて、それじゃあユッキー、そろそろ締めといきますか。尺ももう無いしな。


お前の全身全霊でもって、僕を死ぬほど興奮させてみろ!さあ来い!僕は今日ここで腹上死することに決めた!

サヨウナラ現世! コンニチハ天国!さあ、こいぃぃぃぃぃ!



「いやーん! のび太さんのエッチ!」


なんでだああああああああ! なんで最後がそれだああああああああ⁉


いや、わかるけども!確かに小学校くらいの頃は、しずちゃんのシャワーシーンで興奮してたけども!

でも最後にそれはねえだろ⁉僕ら今高校二年生ですよ⁉さすがにその程度で興奮したりイヤらしい気持ちになったりはしねえよ!なめてんのか⁉ 


なあジョン!お前もそう思うだろ⁉


「ぐっはああああああああ!ありがとうございまああああああああす!」


ジョォォォォォォォン!なんでテメエはこの程度で興奮してんだああああ! 

なんで今までで一番出血してんだあああああ!なに『ありがとう』って感謝してんだあああ!興奮するところが違うだろジョォォォォォン!


……はっ!まさかジョンお前、ロリコンなのか⁉だから小学生のしずちゃんのシャワーシーンに興奮して……




「これでわかったマコト? 動きや音があるのと無いのじゃ、エロさが全然違うって事。その身をもって体験できたでしょ?」


ユッキーはしずちゃんのものまねを終えると、僕にそう聞いてきた。

そうだった。そういえば、そういう話だった。


ああ、よくわかったよ。最後のを除いてな。


そしてお前が男を興奮させる天才だってこともよくわかったよ。見ろ、ジョンなんて出血多量で気絶しちまったぞ。南無南無。



しかし、もうここまで来たら認めるしか無い。お前の勝ちだユッキー。ていうか、僕の負けで良いよもう。全部どうでも良くなった。ありがとう。

人間をやめることにはなったが、それ以上に大切なものを手に入れることが出来たよ。後悔はない。今なら死んでもいい。



ユッキーは僕の“敗北顔”を見て勝利を確信すると、満足げに笑った。そして、脱ぎ捨てた服を着始める。


「……あ、一応言っとくけど。今後もし私でエロい妄想なんてしたら、ぶち殺すからね」


服を着ながらユッキーは、ドスの利いた声で僕たちにそう釘を刺した。


ああわかってるよ。さすがに僕も、友達でエロい妄想なんてしない。そんなことしたら本当に人間失格だからな。そのくらいのモラルはある。


だから今回のことは、ここだけのことにしとくよ。胸に秘めとく。

……でも夢に見るくらいは良いよな?



しかし悔しい。もはやそうするしか無いとは言え、『エロ本はエロビデオに劣る』と認めるのは。エロ本収集家としては、悲しい限りだ。


集めに集めたり、千冊以上。それだけの数のエロ本がどれも、エロビデオに及ばないものだったなんて……何だか虚しくなってくる。

はぁ、こんどDVDショップでエロビデオ買い漁ってこようかな……





「……はっ!」


僕がエロビデオへの浮気を考え始めた頃、出血多量で意識を失っていたジョンが目を覚ました。


やっと起きたかジョン。興奮して死にかけるとか、お前はこち亀のボルボか。

そんなんじゃ永遠に、ジョディーを嫁に貰えないぞ。


「い、いやすまん。あまりにも刺激的だったんでつい……それはそうと、議論に決着はついたのか?」

「ええ。マコトが負けを認めたわ。私の勝ちよ」


いや、『私の勝ち』って、そういう勝負してたっけ? いやまあ僕も『僕の負けだ』とか言っちゃってたけど。あくまでこれは『エロ本とエロビデオのどっちが上か』という議論だったはずだよな? 別に勝ち負けなんてどうでも良いだろ。


「どうでも良くはないわよ。だって私が勝ったってことは、私の方がマコトより上だってことじゃない」


お前また下らねえことでマウント取ろうとしてやがるな? 懲りない奴だ。もう一回ジュースで買収してやろうか?


「ねぇ、それはそうとジョン。アンタはどう? エロ本とエロビデオ、どっちの方が上だと思う? そして私とマコトどっちの方が上だと思う?」


あ、お前何さらっと僕たち二人の上下関係をジョンに決めさせようとしてやがんだ。誰がさせるかそんなこと。


なあジョン。僕たち親友だよな? だから僕の方が上って言ってくれるよな?


「いや、どっちが上かは知らないが……しかし俺様はエロ本にだって『良いところ』もとい『重要な役割』があると思うぞ」

「は? どういう意味よそれ?」


波乱を巻き起こしそうなジョンの言説に、ユッキーが突っかかる。

おいおい、ここに来て第三の主張かよ…ちゃんとこの話、尺に収まるんだろうな?


しかし、僕のそんな心配も何のその。ジョンは、僕もユッキーも思いもしなかった、とある『画期的な』主張を繰り出した。


「考えても見ろ。河原とかに落ちてるのは普通、ビデオじゃ無くてエロ本だろ? エロ本には『性に目覚めるきっかけ』を与えるという重大な役目があるんだよ」

「……!」


……!そ、そうか!そういうことか!つまりジョン、お前はこう言いたいわけなんだな⁉『男を性に目覚めさせる役割をエロ本が担っている』と!


た、確かに……捨てられていたエロ本を見てエロに目覚めたと言う話は良く聞く!小学生の日課は、捨てられたエロ本探しだったりする! 僕だって小学生の頃は、河原で毎日のようにエロ本を探していた!今もよくしている! 


そうだ!確かにジョンの言うとおり、エロ本は『性に目覚めさせる』という大事な役目を持っているじゃないか!


少子化の進む現代社会に於いて、エロに目覚める時期が早いにこしたことはない。そう考えてみると、エロ本は日本の将来のためにも必要不可欠なものなんじゃあないのか……? いや、きっとそうだ! そうに違いない!


どうだユッキー! お前はこれに反論できるか⁉


「……ふっ、私の負けよジョン。確かにアンタの言うとおり……エロ本はこの世界になくてはならないものだったようね。完敗だわ」


やった! ユッキーも負けを認めたぞ! これでエロ本は無駄じゃないと証明できた! 僕のエロ本収拾の趣味は無駄じゃなかったんだ!


「いえ、マコト。そう考えるにはまだ早いわよ」


な、なんだと⁉ どういうことだユッキー⁉


「確かにジョンの言ったように、エロ本には『性に目覚めさせる』という重大な使命が課せられているわ。でもそれは『捨てられたエロ本』だけの話よ」


……! そうか! わかったぞユッキー!


つまりお前は、ただ持っているだけではエロ本の価値はないと言いたいんだな⁉ 僕のエロ本収拾の趣味が無駄でなくなるのは、僕がエロ本を『捨てたとき』だと言いたいわけだな⁉ そういうことなんだな⁉


「ふっ、わかってるじゃない。それじゃあ……あとはなにをすれば良いかわかってるわね?」


もちろんだ!



僕は立ち上がると、部屋中に隠しておいたエロ本を一気にかき集めた。そしてそれを、まだ見ぬ少年達の為に、河原へと捨てに走り出した。



「行くのだ。少子化を打ち砕く使命を負った少年よ。この国の運命はお前のその双肩にかかっている……」

「俺様達は見守っているぞ。キサマが使命を果たす、その時まで……」


走り出す僕を見送りつつ、ジョンとユッキーはそうつぶやいた。





30分後。

河原でエロ本を捨てていた僕はお巡りさんに見つかって、こっぴどく叱られた。

色々ひっでえ話。

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