マウントを取る、それ即ち我が本懐 ②

「さて、じゃあ話を戻しましょうか。えっと、どこまで話したっけ……そうそう、私らの中で誰が一番強いか決めようってとこまでね」


話が盛大に逸れていたので、ユッキーがそう言って、話を振り出しに戻した。


まだ続けるのかこれ……もう一話終わったぞ? 多分初めてこのクソ小説を読みに来てくれた人「え? これつづくの?」ってなってるぞ。


というか大体、『バトる』って言ってたけど、お前どうするつもりだよユッキー。まさか殴り合いするつもりじゃないだろうな? 嫌だからな、そんな野蛮なこと。


「まさか。そんなわけないじゃない。だいたい殴り合ったって、女の私があんたらに勝てるわけ無いでしょ。それに“真の強さ”っていうのは、そんな野蛮なものじゃないわ」


『お前が真の強さの何を知ってるんだ?』とツッコミたいところだが、しかしユッキーのげんにも一理ある。殴り合いなんて不毛なことは僕だってしたくない。

非暴力・非服従のガンジースタイルだ。


それに、もし戦ったとしても僕とジョンがユッキーにボコボコにされて殺される未来しか見えないしな。


ユッキーは『女の私が敵うわけない』とか言っているが、しかし実際の所、僕とジョンはこれ以上ないくらいケンカが弱い。


そしてそれに対してユッキーは、バトルマンガ顔負けの強さを持っている。ハッキリ言って人外の域だ。自覚はないようだが。


なので僕としてもユッキーの『殴り合いはやめとく』という提案は願ってもない。なんせ最恐の女が自分から拳を引っ込めてくれているのだから。平和バンザイ。


だいたい僕だってまだ死にたくはないのだ。妹を風呂場で愛でるまでは死ねない。

生きねば。『墓石立ちぬ』なんてやってる場合じゃない。


でも殴り合いじゃ無いとすると、どうやって『バトる』と言うのだろうか? 正直殴り合い以外に丁度いい勝負が見つからないんだが……いっそのことオセロでもするか?


「オセロ? 甘いわね、あんなんじゃ、真の強さに白黒なんてつけられないわよ。まあオセロは白黒だけどね」


黙れ。微妙に上手いこと言うな。

でもじゃあ、どうやって決めるんだよ。


「『あっちむいてほい』で決めましょう」


なんでだよ。なんでそうなる。お前の中でなぜ、『あっちむいてほい』が強者を決めるにふさわしい競技なんだよ。あんなのただの運ゲーだろうが。


「その『運』こそ、強さの証じゃない。強者は勝つべくして勝つ。つまりは、運すら味方につけた奴が真の強者よ」


だめだ。コイツの言ってることが微塵も理解できん。わけがわからん。

ジョン、お前からも何か言ってやれ。


「なるほどなユッキー。確かにキサマの言うことにも一理ある」


お前もかよ。


「俺様は前世で幾多の強者達と戦ってきた。そしてその中で一番厄介だったのは、悪運の強い奴だった。奴らはどれほど追い詰めても、絶対に死なないからな。確かにユッキーの言うとおり、強者の資格は『運を持っているかどうか』だといえる」


いや、それ『強い奴』じゃなくて、ただの『運が良い奴』だから。全然違うから。的外れもいいとこだから。


「でも『運も実力のうち』って言うでしょ?」


確かにそうだけども。でも『運オンリー』はねえだろ。

もっと腕っ節を加味しろよ。『力 is パワー』だろ。


まったく……どうやらこの部屋には僕以外にまともな人間がいないようである。

誰か助けてくれ。


「なによ、文句でもあるの? じゃあ聞くけど、あんた宝くじで六億当たったヤツに勝てる自信あるの? 札束で殴られても正気保ってられんの? できないでしょ? つまり運が強いヤツは最強。以上、証明終了」


なんだそのわけわからん証明は。というかそれ、強いのは『運』よりもむしろ『金』の力だろうが。

いやそもそも、別に札束で殴られた位じゃ正気は失わねえよ多分。ちょっと心がざわつくだけだ。


「ああもう、うっさいわね。次ゴチャゴチャ言ったらぶっ飛ばすわよ。ボコボコにされたいの?」


もはや色々、ツッコみどころが満載だな。

ていうかお前、僕をボコボコにできるならその時点で、お前の方が僕より強いって事じゃねえか。なぜにわざわざ、自分有利の戦いを捨てて、あっちむいてほいで勝負をつけようとする? 


もしかしてユッキーお前、たんに”あっちむいてほい”がしたいだけなのか? 

だとしたら可愛いヤツだ。


ああもうわかったよ。お前の言うとおりで良いよユッキー。『あっちむいてほい』で誰が一番強いか決めて良いよ。お前のお遊びに付き合ってやる。


それにさっきも言ったが、流血沙汰が避けられるなら僕だって願ったりなんだ。

もうここは大人しく、”あっちむいてほい”で決着をつけてやるよ。

所詮”あっちむいてほい”じゃ、怪我をすることもないだろうし。


「やっとわかった? それじゃ、さっそくやってくわよ。ルールは総当たりで、一番勝率の高かった奴が優勝ね。じゃあ、まずは 私 VS ジョン。始めるわよ」


ユッキーはそう言うと、首を『コキコキ』と鳴らした。まるでこれから標的をボコボコにするヤンキーだ。


……いや、やる意味あるのそれ? 今からするの、ただの『あっちむいてほい』ですよ? なんでこれからケンカするみたいな準備運動してるんだよ。


ジョンもまた立ち上がり、ユッキーの前に立つ。

そして『パキッ』と指を鳴らした。


だからやる意味あるのそれ? それをしたらじゃんけんの勝率でも上がるの?


「ふふふ……ついにこの時が来たわね。あんた達に、私が一番強いってわからせる時が。地獄で私と戦った事を悔いなさい」


いや、何度も言うけど、これからするのって”あっちむいてほい”だからね? 

別に負けても死んだりしないからね? 地獄に落ちたりしないからね?


「はっ! それは俺様のセリフだユッキー。ついに封印し続けていた第四の魔眼を解放するときが来たな。せいぜい死なないようすることだ」


だから死なねえって。

ていうかお前、さっきは『第三の魔眼』つってたじゃねえか。なんで今は四番目の魔眼だ。

お前には一体何個の魔眼があるんだ。どんだけ目が多いんだ。蜘蛛かお前は。スパイダーマンなのか?


そしてしつこいけど、今からするのは”あっちむいてほい”だからな? 魔眼開いたってなんの意味もねえよ。なにも有利にならねえよ。役に立たないんだよ。

だから閉じとけそんなもん。永遠にな。



そして訪れる、一瞬の静寂。両雄はお互いを睨み付け、手を構えた。


「……」

「……」


……いや、なんで始めないんだよ。あっちむいてほい如きに意味もなく溜めるな。さっさとやれ。めんどくせえわ。ページスクロールの無駄だろ。

読んでくださる読者の方々の面倒も考えろ。


「……いくぞっ!」

「来いっ!」 

「さーいしょーは……」

「グーーーーーーーー!」


――――ドゴオ!


「ぐあああああ!」

「ぎゃああああ!」



『最初はグー』と言った瞬間。

二人はほぼ同時に、互いの腹にグーパンをぶち込んだ。


もう一度言おう。このバカ二人は『最初はグー』と言いながら、敵にダイレクトアタックをキメたのである。ちょっと待て、何やってんだお前ら。


「ごっふぁあああああ! な、何をするキサマ⁉」

「アンタこそ! なに殴ってくれてんのよ⁉」


腹を押さえ、床にへたり込みながら、二人は互いを罵倒し合った。

いや、お前ら今の自分を客観的に見てみろよ。人のこと言えないから。ブーメランもいいとこだ。特大ブーメランがぐっさり刺さってるよお互いに。


「ま、まさかキサマも俺様と同じで、警戒していない敵を一撃で屠る作戦だったとは……くっ、油断した。やるではないかユッキー」


『くっ』じゃねえよ。バカかお前。


そして格好つけてるとこ悪いけど、お前等がやったのはただの不意打ちだからな?しかもお互いにカウンター食らってて、死ぬほど格好悪い。

ねえ、二人ともかっこ悪すぎて死にたくならない?


ユッキーは、口からこぼれる血を拭いながら「ふっ……」と笑う。


「アンタこそやるじゃないジョン。私に一撃ぶち込んだのはアンタが初めてよ

 ……ていうか普通、躊躇無く女殴る?」


確かにそれもその通りだ。女相手に本気でグーパンぶちかますとか、ジェントルマンの風上にも置けないヤツめ。見損なったぞジョン。


「俺様はキサマを女だと思ったことはない。心が男なら、キサマはれっきとした一人の男……いや、漢だ」


なんだその理屈は。良いセリフみたいにかっこつけて言うなよ、そんな暴論。


「……嬉しいこと言ってくれるじゃない」


嬉しいのかよ。どうなってんだお前らの感性は。頭おかしいのか?



すると二人は、お互いの右手を強く握りしめ合った。バトルマンガとかでよくある、好敵手同士がお互いのことを認め合うような感じだろうか?


いや、さっきも言ったけど、お前等がやったのは『敵の不意を突く』っていうクソみたいなことだからな? そんな感動的な風にしないでくんない? 全世界の真面目に戦っている人達に謝罪しろ今すぐに。


しかし、互いに手を握り合っていた二人だったが、そんな中ユッキーが突然笑い出す。


「ふっふっふ……油断したわねジョン」

「ん? それはどういう意味……」


――――ゴキキキキキキキ!


「ギャアアアアアアアアアア!」


なんと言うことでしょう。

ユッキーはジョンが油断したその瞬間、ゴリラに勝るとも劣らぬその握力で、ジョンの手を握りつぶしたではありませんか。


……いや、本当になんと言うことをしてくれてんだよ。セコすぎるだろユッキー。どこまで精神が薄汚れてんだ。この腐ったミカンめ。


「ふはははははははは! バカめ! こうも容易たやすく、武器である右手を敵である私に掴ませるとは! これでお前はもう、ろくにじゃんけんをすることすら出来ない体となった!」

「ぐあああああああ! キ、キサマアアアア! 謀ったなああああ!」


ジョンは握りつぶされた右手を押さえ、そう叫んだ。


いや、謀ったっつうかもう……バカだろお前ら。いっぺん死んで、頭の中身リセットした方が良いんじゃないか? いやでも、三つ子の魂百までって言うしなあ。こいつら多分、死んでも救いがたいバカのままだろう。


ユッキーは、勝利を確信して高笑いを続ける。その様たるや、某“死神冊子”マンガの主人公のようだ。


「ふはははははははは! これでアンタはもう、私と戦うことが出来ない! つまり負けが確定したのよ! ここは潔く諦めて、自分がこの中で最弱だと認めなさい! そうすれば命だけは助けてあげるわ!」


なんで命まで奪おうとしてるんだよ。どんだけこの『あっちむいてほい』に命かけてんだよユッキー。僕ら3人の友情はこんなにも容易く命を奪える程度のものだったのか? 僕は悲しいぞ。


しかしユッキーに敗北を認めるように命じられたジョンは「ふははははは……」と不敵に笑う。お前らその笑い方好きだな。


「ふははははは……バカはキサマだユッキー。俺様に『負けを認めろ』だと? 寝言は寝て言え愚か者ォ! この程度で俺様が負けを認めるわけなかろう?」

「な、なんですって⁉ アンタその体で、まだ戦うつもり⁉ 死ぬわよ!」


死なねえよ。


「ふはははははは……ついに来たようだな。俺様の本気を出すときが……見よ! これが俺様の最終形態! 力を解放した姿だアアアアアア!」


お? もしかして魔眼が開くのか? いいねえ、見せてよ魔眼。


「うおおおおおおおおお!」


そう叫ぶと、ジョンは右手を引っ込めて左手を出した。


神の左手ゴット・ハンド・レフト! これが俺様の本気だアアアアア!」

「し、しまった! その手(文字通り)があったかああああああ!」


バカだろこいつら。何から何まですべからく。


というか、右手使えなくなったから左手使うって、それ普通だから。『力を解放』とかそんなんじゃねえから。お前達の頭は腐ってるのか?


……ていうか、魔眼開かねえのかよ、こんだけ期待させときながら。結局なんなんだよ魔眼って。もはや知りたくてたまらねえよ、魔眼がなんなのかについて。


「くっ、まさか左手を使うとはね……さすがの私も、その発想はなかったわ」


いやなんでだよ。普通に考えれば思いつくだろ。バカか。


つーかもういっそ、ジョンの両手共々破壊しろユッキー。そしたら僕がジョンと戦わなくて済むから。お前なら出来るだろ。


ていうかなげーよ。まだ「あっちむいてほい」も出来てねえのに、どんだけ時間かけるつもりだよ。じゃんけんの段階に一体何ページ割くつもりだよ。


第2話が第1話の二倍くらい分量があるぞ。いい加減読者の皆様も「長えよ」って思ってるぞ多分。さっさとやれ。


「ふふふ……少し予想外だったけど、でもアンタが体にダメージを蓄積していることには変わりない。つまり私の有利は揺るがないのよ!」


いや、もういい加減ツッコむのも嫌になってきたけど、これただの『あっちむいてほい』だからね? 体にダメージ負ってようが関係ないから。手さえ動けば出来るから。


……あ、わかったぞ。さてはユッキー、お前またダイレクトアタックするつもりだな? なるほど、確かに殴り合いになったら、ダメージのあるジョンの方が不利だな。


……いや、もう普通に戦えよお前ら。正々堂々殴り合え。

しかしそんな僕の願いも虚しく、不毛な戦いは続く。


「いくわよジョン!」

「くっ……来い! ユッキー!」

「最初は……」

「グーーーーーーーー!」


二人はまたもや同時に、敵に殴りかかった。

やっぱりかよ。


しかしそこはさすがに二度目。二人とも敵の攻撃を躱した。


……もういっそ、お互いにクリティカルヒットして気絶でもしてくんないかなぁ。そしたらこの下らない争いも終わるのに。二人の死で。


しかし悲しいかな。この意味なき戦いは終わらない。


「行くわよ! じゃーんけーん!」

「パアアアアアアアアアア!」


――――バチィィィィン!


ジョンは叫びながら、ユッキーにビンタした。ユッキーの体が一瞬ゆらぐ。

しかしユッキーは持ちこたえた。そして反撃を繰り出す。


「チョオオオオオオオオキ!」


――――どしゅっ!


「ぎゃあああああああああああ! 目がアアアアアアアアアアア!」


ユッキーの二本指による強烈な“目潰し”が、ジョンを襲った。

ジョンは床を倒れ転げ回る。


……いや、さっきの完全に後出しじゃなかった? ジョンがビンタした後にチョキ出したよね? ゲーム的にも現実的にも、ジョンを完璧に殺しにかかってたよね。とんでもねえ女だ。


しばらく床を転げ回った後、ジョンは目を押さえたまま起き上がる。


「くそっ……パーとチョキ。ジャンケンは俺様の負けだ……」


あ、いいんだ。後出しの件は。そこは許すんだ。

ジョンはふらつきながら立ち上がると、「まあ一度くらいはチャンスをくれてやろう」と上から目線でユッキーに告げた。

とても目を潰された奴のセリフとは思えねえな。


「その根性気に入ったわ! 私も正々堂々戦うわよ!」


なにが正々堂々だ。目を潰した奴のセリフとは思えねえな。


ジョンは潰された目を“パチパチ”させながら、ユッキーの方を向く。どうやら後遺症で、まだ視覚が戻らないらしい。

ユッキーもまた、人差し指をジョンの前に突き出した。


そう、ここからが本番だ。これまでのは全部、前座に過ぎない。


……いや、前座に時間かけすぎだろ。ほんとに何ページ使ってるんだよ。

これちゃんと尺内で終わるんだろうな?


「いくわよジョン!」

「……来いっ!」


二人は妙に高いテンションでそう叫ぶ。

雰囲気だけは、どこぞのバトルマンガだ。やってることはカス以下だけど。


「あーっちむいてぇぇぇぇ……………………」

「……………………」


無駄に溜める。産業廃棄物並みに無駄だ。

そしてジョン。無言で溜めるな。小説だと何が何だかわかんないだろうが。せめて「むぅぅぅぅ……」くらい言え。はっ倒すぞ。


1分ほどの膠着の後、ついにユッキーが火蓋を切った。


「……ほいっ!」


ユッキーはそう言って、上を指さした。

そして一方のジョンはと言うと……下を向いていた。


……え、いや待って。勝負つかなかったってことは、まだ続くのこれ? 

またあの下らないじゃんけんから始めなきゃならないの? また大量のページを無駄にするの? 紙の無駄だよ? 電子書籍なら、電力の無駄だよ?

 

というか、読者の皆様は時間の無駄だよ? ブラウザバックをオススメするレベルだ。(皆さん今です! レッツ・ブラウザバック!)



「……なぁ。どうなっているのだ? なぜ何も言わないのだ?」


下を向いていたジョンは、僕たちにそう聞いてきた。

どうやら先ほどの目潰しが効いているようで、勝敗が見えないらしい。


悲しいことにも勝負はドローだよ。お前が下なんて向いたせいでな。まったく、なんで上見なかったんだよお前。涙こぼれちゃうだろうが。上を向いて歩けよ。


「なぁ、おい、キサマら。教えろ。どうなったのだ? ……まさか、俺様は負けたのか?」

「……うん。アンタの負け。私の勝ち」


……⁉ うわっ! ユッキーお前! 

ジョンは今、目が見えてないからって、平然と嘘つきやがったよこの女! お前さっき『正々堂々戦いましょう』とか言ってなかったか⁉ 


プライドがないのかお前には⁉


「ぬ、本当か? マコト、本当に俺様が負けたのか?」


一瞬驚いた後、ジョンは僕にそう聞いた。やはりというか、ユッキーの言葉だけでは信じられなかったようだ。まあその判断は至極正しいが。


しゃーない。負けてないって教えてやるか……


「……いや、お前の負けだよジョン。ユッキーの勝ちだ」


誰が本当の事なんて教えるか。ここで『負けてない』って言ったら、お前らどうせまた最初からあっちむいてほいするんだろ? あの下らないやり取りを繰り返すんだろ?


誰がそんなことさせるか。マジでもう無いんだよ尺が。そして、多分すでに多くの読者の皆様が、ブラウザバックしちゃってんだよ。これ以上させてたまるか。



ジョンは僕の言葉を聞いて「ぐぬぬぬぬぬぬ……まさか俺様がこんなところで……」と落胆した。悪いな。尺と読者のために諦めてくれ。


「ふっふっふ……これで私の一勝ね! つまり、あとマコトにさえ勝てば、私が最強と認められると言うことよ! さあ勝負よマコト! 正々堂々やり合いましょう!」


この期に及んで、お前の口からまだ『正々堂々』という言葉が出てくるとはなユッキー。その面の皮の厚さに脱帽だよ。


しかしやれやれ……今からこの女と戦わなきゃいけないのか。平気で敵の目を潰すようなバーサーカーと。勘弁してくれ。僕はまだ死にたくないんだ。


……しゃーない。あの手を使うか。尺も無いし。


「なあ。今度ジュースおごるから、勝負は僕の勝ちってことにしてくんない?」

「喜んで!」

「もちろんだ!」


やっぱりバカだこいつら。


こうして僕は『三人の中で最強』という称号を税込み320円で買った。

とんでもない損をした気分だ。


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