変態と中二病と百合娘のクズ三人は今日も我が道をゴーイング

鷹司鷹我

マウントを取る、それ即ち我が本懐 ①

「ねえ、今からバトらない?」


僕の部屋で3人それぞれ思い思いに過ごしていたら、突然ユッキーがそう言って立ち上がった。僕は何事かと思い、ユッキーの方を見る。


ユッキーは僕ら3人の中で唯一の女子だ。黒髪ロングの、控えめに言って美人である。ただし心は男の子なので、”そういう感じ”の期待は出来ない。


ユッキーは、僕とジョンの両方の視線が自分に集まっていることを確認すると「ずっと思ってたんだけだどさぁ……」と話し始めた。


「私ら3人って、ずっとつるんでるでしょ? 高校入学してからずっと。でさ、良くも悪くも“平等”じゃん、立場は。でもさあ、それっておかしいとおもわない?」


ユッキーはそう言うと、僕ら二人のことを指さした。


「この世界は弱肉強食なわけよ。強い奴が弱い奴を支配するのがことわりなわけ。じゃあさ、私達の関係にだってそういう上下関係があるべきだと思わない?」


いきなり何を言っているんだお前は。なに平然と恐ろしげな提案をしてるんだユッキーこの野郎。


急に立ち上がって、ナチュラルにそんな暴論を振りかざすなよ。お前は原始時代の人間なのか? 


もしくは、実力が全ての『ヒャッハー』な世界の住人なのか? 

水でも欲しいのか? 


ていうか、立ち上がってわざわざ言ったわりには、凄まじく薄っぺらい意見だ。『この世の理』とかわざわざカッコつけて言ってるところが最高にバカっぽい。

いやまあ、お前がバカである事は前々から知ってはいたが。


「まあ要するにね、私が言いたいのは『アンタ達みたいなクズ共が私と対等なのが気にくわない』ってことなの。この機に、私の方が上だってことを体と心の両方に刻み込んであげる」


本性現しやがったな真性のクズめ。つーかそんなこと言ってる時点で、お前の方が僕よりよっぽどドクズだろうが。地獄に落ちろ極悪人め。


しかし全くユッキー……突然『バトろうぜ』とか言いだしたと思ったら、そういう魂胆か。つまり僕とジョンの二人に、マウントを取ろうと目論んでいるらしい。

支配欲求の強い女だということは前々から知っていたが、まさかここまでとは。


というか、その『どちらが上か?』ということは、果たして僕たち三人の友情に亀裂を生んででも決めるようなことなのか? 僕たち二人にマウント取ったとしても、それで友情を失ったら元も子もないと思うんだけど? 

お前に僕達以外の友達が居ないことは知ってるからな、ユッキー?


「おいおいユッキー。突然何を言い出すかと思えば、そんな事かよ。ついに頭のネジがぶっ飛んじまったか?」


僕と同じように、ジョンもまた呆れた様子でそう言った。ジョンも僕と同様、友情にヒビを入れてまでそんな事をしたくは無いと言う意見なのだろう。

それでこそ真の友達。トゥルーフレンズ。皆で行こうジャパリパーク。


よしジョンこの際だ。

この支配欲求に支配された悲しき狂戦士にもっと言ってやれ。


「俺様よりもキサマの方が上? 冗談きついぜ。この三人の中で一番上は、誰がどう見ても俺様だろーが」


そうじゃねえだろ。そこじゃねえだろ、突っ込むべきは。


『誰が一番か』じゃないだろうが。そんなこと決めようとしてることにツッコめよお前。


もしかしてジョン、お前も『友情よりもマウントを取ることが優先』とか考えてるのか? 支配欲求に突き動かされているのか? 悲しいぜ僕は。


「キサマらもわかってるとは思うが、俺様は前世で『史上最強の男』と呼ばれ恐れられていたのだぞ。なのに、たかだか十数年しか生きていないキサマら如きに遅れを取るわけがなかろう。身の程を知れバカめ」


お前こそ身の程を知れ。何だよ『史上最強の男』って。まさかとは思うが、お前の前世は範馬勇次郎なのか? なんてこったい最強人間。


もうわかったと思うが、この男“高峯ジョン”と言う男は重度の中二病を患っている。

『俺様は最強の男の生まれ変わり』とか平気で言っちゃう、脳内お花畑のクルクルパーであるわけだ。


金髪のイケメンで実家は名家、あげくに勉強も出来るというハイスペックボーイのくせに、中二病というただそれだけの事が全てを台無しにしているのである。とんでもなく残念な男だ。

クラスの皆からは『残念すぎるイケメン』と馬鹿にされている。ちなみに、バカにしている中には僕も含まれている。


本人曰く、すでに百万回以上転生を繰り返しているらしい。

お前は百万回死んだ猫か?


「ユッキー、キサマは好奇心からこんな戯れ言をほざいたのかもしれんが、しかし気をつけることだ。俺様が力を解放し、そして第三の魔眼が開眼した暁には、キサマの体は灰すら残らず消し炭になるのだからな。安易に『戦おう』などとは言わないことだ。命が惜しければな」


何だよ”第三の魔眼”って。一体どんな目ん玉だ。

そして第一、第二はどうした。


ひょっとしてだけど、お前のそのイカした顔面についてる、青い瞳が魔眼なのか?

仮に”青色の目”が魔眼なんだとしたら、この世界にいったい何人の魔眼保有者が存在してるんだよ。ヨーロッパなんて魔眼だらけじゃねーか。カカシ先生もビックリだわ。


だいたいそんなに魔眼持ってる奴がいたら世界滅んじゃうだろが。……いや、そもそも魔眼って何だ。


ユッキーは、戯れ言をほざくジョンのことを哀れむような目で見ながら

「ほんとそういう所引くわぁ……」とつぶやいた。それについては全くの同意見。


いや、まあでもユッキーの方も大概だけどな? いきなり『バトろう』とか言ってる時点でお前も十分イタい奴だぞ? イカレた奴だぞ?


しかしそんな僕の意見も聞かず、ユッキーは蔑むようにジョンのことを見る。


「……いや、マジでさ。アンタらのそういう所知ってるから『私の方が上』って思うわけよ。頭のネジが飛んでるのはどっちよって話じゃん?」


うん、確かにユッキーの言うとおりだ。僕から見てもコイツ、高峯ジョンは、間違いなく社会のド底辺に位置する人間だろう。頭クルクルパーの残念野郎だ。


ていうかジョンお前、百万回も転生してるくせに社会のド底辺って、恥ずかしくないのか? 転生モノの主人公みたく知識チートでもしてみろよ。本当に百万回以上転生してるんならな。


……いやちょっとまて。ユッキーお前、なんで今わざわざ『アンタ”ら”』つった? なんで僕も『おかしい奴』の一人にされた? 


一応言っとくが、お前らと違って僕は極めてまともな優等生だぞ。そんな事言われる筋合いは無い。


「じゃあ自称“マトモ”のマコト君に質問です。アナタはこの部屋に一体何冊のエロ本を隠していますか?」


は? いや、別にそんな多くないけど……千冊くらいかな。


「じゃあさらに質問です。アナタには今、中学二年生の妹がいますが、何歳まで一緒にお風呂に入っていましたか?」


え? 今も週二で一緒に入ってるけど?


「さらにさらに質問です。『あなたは18才以上ですか?』と言う選択肢が出てきた時、どうしますか?」


迷わず『はい』を選ぶけど?


「ワンモア質問です。アナタは今まで、アダルトサイトをクリックしたせいで何回コンピューターウイルスに感染しましたか?」


うーん……50回くらいかな? まあでも一片の悔い無し。


「もいっちょ質問です。オナっているところを家族に見られました。どう思いますか?」


興奮するかな。実際に見られたこと無いから、想像だけど。

きっと自分の”恥部”を見られて興奮すると思う。


「最後の質問です。アナタは自分の性的なあれこれが、他人とは全く違っているという自覚はありますか?」


いや、さっきからなにいってるんだよ?

お前は僕の何を検証しようとしているんだ?


『性的にズレているか』だって? んなわけないだろ。僕は普通の高校二年生だ。

だって男子高校生ならこのくらい普通だろ?


「はい決定。マコトはド変態です。警察に捕まるべきでしょう。ジョン通報して」


ユッキーに命令され、ジョンは「わかってるぜ」とスマホを取り出した。

ちょ、ちょっと待て! なんで本当に電話しようとしてるんだ⁉


「いや、マジでこれは俺様も引くわ。さすがにどうかと思うわ、友として。特に、いまでも妹と風呂入ってるとか、死ねよキサマ」


なんで死ななきゃいけないんだよ! なぜにそこまで罵倒されなきゃいけ

ないんだ⁉ ていうか、家族だから別に良いだろ⁉ 


「家族だからこそキモいんだよ。あ、もしもし警察か? 実は俺様の友がもう手に負えないくらいの変態で。何かしでかす前に、更生施設(刑務所)にぶち込んで欲しいのだが……」


うおおい! 待て待て待て待て! 通報するな通報するな! 迷惑だろうが! こんなことで呼び出される警察官の身にもなれ! 

そしてこんなことで連行される僕の身にもな!


僕はジョンからスマホを奪い、そして事情を釈明するために電話に出る。


『現在の時刻は、17時31分……』


117じゃねえか! 古典的なボケかましてんじゃねえ! 

いやまあ、本当に通報されて無くて良かったけど!


「一応言っておくが、これはあくまで留保だ。もし次、妹と一緒に風呂に入ったりしてみろ。本当に通報するからな。覚悟しておけよ?」


ジョンは少しも笑わず、完璧な真顔で僕にそう釘を刺した。どうやら本気らしい。

わかったよ! そこまで言うなら僕だって自重するよ! 


お前等にバレないようにこっそり入ってやるよコンチキショウ!


(つづく)

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