第一章-09 俺の妹が暗殺者のわけがない
※
この数日のミカは、明らかにおかしかった。
今までずっと、俺になんて興味のない様子だったのに、家でも学校でも常に側にくっ付いて来ようとする。食事中はやたらと目が合うし、俺の行動を逐一訊いて来る。
そんな奇妙なことが、ここ3日続いた。
そして、現在、俺は俺の部屋でミカと二人きりでいる。
時刻は深夜。
両親はもうとっくに眠っている。
そんな時間にミカは俺の部屋に一人で訪れた。
ミカがこんな時間に俺の部屋に――というか、俺の部屋に入ることすら初めてだった。
正直に言おう。
最近のミカの様子を見ていて、俺はこう思ってしまっていた。
もしかして、こいつ、俺に惚れてんじゃね? と。
俺に惚れたから急に態度が変わったんじゃね? と。
義理とはいえ、妹に惚れられる。どこのアニメやラノベの世界の話だよとツッコミながらも、ウキウキしてしまっている自分がいた。自意識過剰にも、俺は可愛いミカに惚れられたと思って、舞い上がってしまっていたのだ。
もしも告白されたらどうすればいいのか、リアルに悩んでしまっていた。
俺だってミカのことは好きだが、それは妹としてだ……。
兄の俺は、ミカの思いを受け入れることは出来ないんだ……。
そんな風に葛藤している時に、ミカが俺の部屋にやって来たのである。
しかも、真夜中にだ。
真夜中に男女が一つの部屋で二人っきり。
何も起きないはずもなく……。
だが、このシチュエーションで起こったのは、胸の躍るニヤニヤするような展開ではなかった。
ミカは確かに俺に告白して来た。
けれどそれは、全く予想を裏切る『告白』だった。
「――気づいていたのね、兄さん」
神妙な面持ちでミカは言う。
手に持つ『それ』を俺に向けながら。
たった今、ミカが手に持つ『それ』は、俺へのプレゼントなどではない。
ナイフだ。
台所に置いてあるようなものじゃない。人を殺すために作られたナイフだ。
さっきからミカは、いつでも俺に飛び掛かり、そのナイフで胸を一突き出来る位置をキープしている。
これは、兄妹喧嘩の果てという状況ではない。
「いつから私の正体に気づいていたの?」
ミカは物騒なナイフを俺に見せながら、つぶらな瞳で尋ねて来る。顔の可愛さと手に持つナイフのギャップが凄かった。
「な、何のことだよ、ミカ……?」
「誤魔化さないで。私が兄さんの命を狙う暗殺者だということに、とっくに気づいていたんでしょ?」
は……?
何を言っているんだ、ミカ……?
「なっ!?」
次の瞬間、俺はミカに押し倒されていた。
背中は床に押し付けられ、すぐ目の前にはミカの持つナイフの刃先があった。
「冗談だよな、ミカ……?」
「冗談なんかじゃないよ、兄さん。私は兄さんを殺すために『組織』に雇われた暗殺者なの」
組織……?
「殺す前に、私の質問に答えて、兄さん。どうして私が暗殺者だと気づいたの?」
ミカが暗殺者……?
何を馬鹿なこと言ってんだよ。
俺の可愛い妹に限ってそんなことあるわけないだろ。
俺の妹が暗殺者のわけがない。
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