3.出立
「待ってくれ、ヘレン!待ってくれ!」
家へ帰るなり、村を経つ日に備えて買っておいた荷馬車へ荷物を載せ始めるヘレン。
エドワードはヘレンと話をするべきだと考え、彼女に制止するよう懇願していた。だがヘレンは行動を止めるつもりはないようで、エドワードを無視し、出ていく準備を着々と進めている。
「ああ、ヘレン。頼む、教えてくれ。一体どういうことなんだ。僕らが出て行けばこの村がもう襲われないと言っていたが、あれは本当か?あれでは君が食人鬼であると認めたようなものだぞ?」
そんな問いにも答えず、どんどん荷造りを進めていく。だが持っていくものはほんのわずかで、大きな家財は残していくつもりのようだった。
「ヘレン……。これだけは言わせてくれ。僕は君が食人鬼だと思わない。君はヘレン。僕が最も愛している、唯一の人だ」
問いに答えないのなら、せめて自らの想いを伝えようと、エドワードは言う。すると、ヘレンは最後の荷物を放り込み、エドワードの手を握り、呟いた。
「エドワード。それは、これから私が何を言おうとも、決して変わらない?」
ヘレンはエドワードの目を見ずに言う。床の一点をじっと見つめ、抑揚のない声で。エドワードは優しくヘレンの手を握り返し、もちろん、と短く答えた。そう、と目を伏せながら、ヘレンも短く答えた。
「行きましょう。ここにいては村の人が危ない。また新しい犠牲者が出る」
そうしてエドワードは、生まれ育った家に満足な別れもできないまま、ヘレンと共に村を発った。不満がないわけではないが、それよりも早く出た方がよいと感じたのだ。ヘレンは、のんびりとした性格のエドワードを決して急かすことは無かった。それが今は、村を出ることを急かしている。
きっと何か理由があって、後に話してくれるのだろう。エドワードはヘレンを、そう信じていた。
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