Episode.4-27
「親父を
イーマがそう答える。イーマの言葉に続いてレオンが、「何でここで兄貴の名前が?」と呟いたが、その話はイーマの父親の話の中に消えていった。
「何を言い出すのかと思えば。親父は六年も前に死んでいる。お前も良く覚えているだろう?」
「それはそうだが……でも、俺は見たんだ!! 嘘じゃねえ!! 顔は腐敗して半分なくなっていたが、あれは間違いなく前ランバークの長、バルマだった!!」
「そんな馬鹿げた話、誰が信じるというんだ」
イーマがそう返す。この場にいる誰もがイーマの言葉に賛同の意を述べたが、下を向きぶるぶると震えだすバンギットを見て、徐々に皆の意識の中にも恐怖の色が芽生えたようだった。
周囲の空気が変わるにつれイーマもきょろきょろと見回す。そして、異常ともいえる程の瞬きを繰り返した後、
「本当……なのか……?」
と改めてバンギットに尋ねた。バンギットはイーマの言葉に頷いて返す。それを見たイーマは、歯を食い縛り、顔を背け、視線を逸らした。
沈黙が訪れ、動揺の余り皆動けなくなる。そんな中、エルザが歩みを進め、二人の元に割って入り口を開いた。
「その話、詳しく聞かせて頂戴」
エルザの視線にイーマはぶるりと肩を震わせる。そして、何かに観念したように溜め息を吐き、レオンを見て口を開いた。
「レオン。悪いが、坑道の入口を見張っていてくれないか。この二人に事情を説明する」
イーマの言葉に、珍しくレオンが沈黙で返す。だが、レオンは大きな溜め息を吐き、「わかった」と渋々ながらといった言葉を返し、坑道の入口へと向き直った。
イーマは俺たちに、付いて来るように告げ、人々から遠ざける。その際、バンギットに目配せし、お互いに頷き合い、心の中で何かを伝えあったようだった。
罪人の業道は村の北東に位置する。村の東には過激派たちの住まいがあり、その更に東に進んだ緑のある地が農業などを営んでいる場だ。その農場と罪人の業道との間の、罪人の業道寄りの地に、俺たちは連れて行かれる。そこには、不自然に置かれた二つの岩があった。
イーマは、その岩の元に近付きしゃがみ込む。そして哀悼の意を表した後、口を開いた。
「俺の親父バルマと、レオンの兄エランの墓だ」
そう言い、首を垂れる。そして右手を強く握り、二人の死について語った。
ある時、ランバーク付近に化物が現れた。エランの展開した防護の術がある限り、ランバークは危険には曝されない。だが、それも絶対という保証はないため、知覚できた化物については退治する方針が村では決まっていた。本来なら化物の退治は闘士が行うのだが、その日は何故かレオンの兄エランが行った。エランは応戦するものの苦しい戦いを強いられる。そのエランの危機に最初に気付いたのが、前ランバークの長にして、イーマの父、術士バルマだった。バルマはエランを助けるため果敢に化物に挑むものの、同じ術士であるバルマには対抗することは叶わなかった。後に、レオン達を連れてきた老人によってその化物は退治されたが、助けは間に合わず、バルマとエランは帰らぬ人となった。
「その二人の墓が、これということか」
イーマの話を聞き俺はそう述べる。イーマは、何とも言えない表情をして黙り込んでいる。そんな中、黙って話を聞いていたエルザが突然歩を進め、二人が埋められているという岩へと掌を向けた。
「何をする気だ!?」
イーマがそう叫ぶ。しかし、エルザはそんなイーマの言葉に耳を傾けることなく、掌の中に力を集め、睨むように視線を岩へと向け口を開いた。
「手っ取り早くバンギットの言葉を証明するならこれしかないでしょ」
エルザの言葉にイーマが驚愕の声を上げる。イーマは、「確かに、そうだが……」と口にするが、その態度は墓を荒らすことによる罪の意識からというよりも、何か後ろめたいことを隠したいという悔恨の念から来ているように感じた。イーマはどうにかして抵抗したいのか、
「しかしもう、二人が死んだのは六年も前だ。死体が残っているとは到底思えない」
と話すが、それに対しエルザが、
「人の骨が土に還るまでは相当の時間が掛かる。ドラバーンの気候であればそれは尚更よ。だから死体が動きでもしない限り、死んだ者の亡骸は今もここに残っているはず」
そう言い、さらに手に力を込める。
エルザが本気だということを理解し、「やめてくれ!!」と叫び、イーマが止めに入るが、イーマが止めに入るよりも早くエルザの手から黒い閃光が迸った。
俺たちの前で大きな音が響き、岩は粉々に砕け散り、その下の大地が抉られる。エルザは手の中に光を作り、その抉られた地面に向けるが、そこには俺たちの探しているものは存在しなかった。
エルザが再び光を放ち、少し広い範囲の地面を掘り起こすが、人二人分の白骨など影も形もない。エルザは地面に手を這わせ、確かにここに人が埋められていたと分かる衣服の切れ端を手に取り、俺たちへと見せ付けた。エルザがそれを見せ付けるのと同時に、罪人の業道の方面から悲鳴が響き渡る。俺たちはそれを聞き、互いに顔を見合わせる間もなく、全力で駆けだした。
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