Episode.4-19
俺はイーマさんの要求を可能な範囲で呑むことを伝えた。この人に誤魔化しは通用しないと思ったからだ。現在の世界の情勢と、彼らの言う化物についての説明をする。最後まで話を進めると、イーマさんは俺に再度確認をした。
「概ね事情は理解した。お前はクルーエルアの王国騎士で、国の命を受けドラバーンを訪れた。そして、そこの大きい動物を連れたままドラバーンに向かうと怪しまれると思い遠回りをした。そういうことだな」
イーマさんが目を閉じる。そして口許に手を当て話を続けた。
「ドラバーンでいう化物とクルーエルアでいう凶暴化した動物はほぼ間違いなく同一の存在とみて間違いないだろう。特徴が余りにも似すぎている。そもそも存在と呼んでいいものか怪しい気もするが。むしろ事象と呼ぶ方がしっくりくるか」
そこでイーマさんはゆっくりと目を開く。そして俺の目を見て質問をした。
「一つ聞きたいことがある。どこでランバークの情報を得た?」
その言葉を聞き心臓が大きく跳ねる。イーマさんは話を続けた。
「この村は滅多に人が訪れることはない。この村の存在そのものが忌避されているからな。稀に訪れる者もいるが、そういう奴はこの村の存在を知らなかった馬鹿か、本国からの使いの者だけだ。本国からすれば隠したいと思っているランバークの存在を他国に周知させていたとは考えにくい。どこでこの村のことを知った?」
強い口調でイーマさんが俺に詰め寄る。その質問に俺は言葉が出なかった。
ランバークの村に行くことを勧めたのはエルザだ。俺はこの村の存在自体知らなかった。実際クルーエルアで学んだドラバーンの地図にはランバークのことは描かれていなかった。そのため、どこで知ったと言われても答えることができない。
「それは……」
答えに言い淀む。しかし、イーマさんの視線が突き刺さる中、俺に助け舟を出したのは意外な人物だった。
「坊やにこの村のことを教えたのは私よ」
グレイの傍で横になっていたエルザが身を起こす。エルザは、被り物に手を掛け、僅かに覗かせた髪の隙間から
エルザと目が合った瞬間、イーマさんが小さく悲鳴を上げる。レオンとバンギットさんが立ち上がり掛けたがイーマさんは二人を制した。イーマさんは肩で息をするように自身を落ち着かせ、固唾を呑み口を開いた。
「あんた、術士だったのか……。レオンから、連れが女と聞いてはいたが……」
これまでの口調とは異なりイーマさんはどこか気分が悪そうに話す。倉庫内には緊張が張り詰めたが、それを気にすることなくエルザは話を続けた。
「お人好しの坊やでは話にならないから後は私が説明するわ。この村に立ち寄ったのは取引をしたいからよ。ドラバーン本国とも他の村とも交友のないランバークだからこそできる取引。勿論、村に悪いような条件は出さないわ。どう、聞くだけ聞いてみないかしら?」
エルザの言葉にバンギットさんが立ち上がる。バンギットさんは怒りの言葉をぶつけるが、イーマさんはそれを止めに入った。
「待て、バンギット。その女を刺激するな」
イーマさんの言葉にバンギットさんは振り返り、「なんでそんな弱腰なんだ!」と怒鳴り立てる。イーマさんは、引き攣るような顔をしながらエルザに答えた。
「ランバークの安全は保障してくれるんだろうな……」
その言葉にエルザは頷いて返す。それを見たイーマさんは目を閉じ、「話を聞こう」と答えた。
イーマさんの言葉を聞き、エルザは立ち上がりこちらへと歩み寄ってくる。そして、俺の傍で立ち止まり、被り物の隙間から髪をかきあげると、顔を半分曝け出し口を開いた。
「ドラバーン闘技会場にて七日後に行われる闘技大会、そこに坊やが参加する。そして大会に優勝し、その褒賞をランバークに還元する。どうかしら? 悪くない条件だと思うけど?」
エルザの話の内容にこの場の全員が驚きの声を上げる。バンギットさんは、「何馬鹿なことを言ってやがる」と文句を言い、これまで表情を変えなかったレオンですら、口には出さずとも、バンギットさんと同じことを考えていることは容易に想像がついた。
俺たち三人が困惑する中、冷静に返したのはイーマさんだった。引き攣った表情は変わらないが、それでも実質ランバークを束ねる頭として、はっきりとエルザの問いに答えた。
「確かに破格の報酬だな。要はこの村の望みである、ドラバーンからの『独立』を知っていてあんたは言っているのだろう? どこでどうやって知ったのかはもはや聞くまい。そもそも簡単に優勝などできるはずがないがな。で、その見返りとしての要求は?」
イーマさんの言葉を聞きエルザが小さく溜め息を吐く。そしてゆっくりと口を開き、その内容を伝えた。
「ランバークにおける私たちの身の安全と滞在の許可を要求するわ。そしてもう一つ、闘技会場へと続く『罪人の業道』を使わせてもらえれば、それで十分よ」
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