Episode.4-15
◇ランバーク◇
ランバークの第一印象は、質素ではあるが『普通の村』だった。エルザが「癖のある村」と言っていたこともあり身構えていたのだが、全く以てそんな様子はない。日が沈みかけていたこともあり、人の行き来はほとんど見られなかった。
ランバークに足を踏み入れる。すると、村の入口近くにいた老人が俺たちに声を掛けた。
「お客さんか。これは珍しい」
老人が俺たちに笑い掛ける。レオンは老人に向き直ると笑顔で返した。
「おう、爺さん。ただいま。俺がいない間に村は何もなかったか?」
レオンの問いに老人は頷いて返す。老人は今度は俺たちを見て、訝し気な視線を向け、レオンに尋ねた。
「そっちの者たちは?」
その言葉と共に老人の視線が鋭いものに変わる。一瞬身構えそうになったが、レオンが即座に老人の問いに答えた。
「ダチだ。だからそんな舐めるように見るのはやめてやってくれないか」
「そうか。レオンの知り合いか……」
老人が俺たちの元に近付いてくる。そして俺へと手を差し出した。
「ようこそランバークに。レオンの友達ということなら歓迎しよう。何もない村で自給自足は不可欠だが、気が済むまでゆっくりしていくといい」
手を取ると、老人はにこりと笑う。先程感じた探るような気配はいつの間にかなくなっていた。
手を離すと、老人が一歩下がる。そして、半分だけ顔を隠しているエルザに顔を向け、次にグレイに顔を向けた後、ゆっくりと口を開いた。
「これはまた大きな犬だ。こんな大きな犬は初めて見たぞ。しかしよく手懐けておるのう。儂も長いこと生きているが、化物以外でこんな大きな生き物は見たことがない。もしかしたら、この国の生き物ではないのかもしれないな」
「ははは」と笑い、老人は俺たちから離れていく。しかし、途中で立ち止まり振り返ったかと思うと、先程見せた訝し気な視線を俺に向け、口を開いた。
「そなたも、な」
そう告げ、近くの小屋へと歩いていく。小屋の傍にあるボロボロの椅子に腰掛け、老人は大きな欠伸をして目を閉じた。俺はそんな老人に目もくれず、老人と繋いだ手を凝視する。レオンが俺に声を掛けた。
「いつまでも村の入口に留まっても仕方がねぇ。もうすぐ日が沈む。その前に寝床に案内しないとな」
「付いてきな」と口にし、レオンが足を進める。俺たちは言われるがままレオンの後に続いた。
レオンが進む先は村の中央に続く道だった。先程同様、人の通りが全くない。家屋に灯りはついているのだが、日が沈む直前にしては違和感がある。この村の人たちは日が沈む前に帰宅する習慣があるのだろうか。
村の中央を抜け、北へと進む。そこで、レオンが前を向いたまま声を掛けた。
「やっぱてめぇ、大した強さを持ってるな」
レオンがそう口にする。俺は、「どうして、今その話を?」と返した。
「爺さん、ああ見えて、この村ではかなりの腕利きでな。あそこで村の番をやってもう何年か分からねぇ。お前、そんな爺さんの強さに一瞬で気付いただろ? 相手の強さに気付けるのは、そいつが強い証拠だぜ」
レオンの言葉に無言で目を閉じる。黙して語らずというのは肯定を表していると思われてしまうが、正直に言うと老人の強さなんて分からなかった。いや、それだと語弊がある。確かに、強いと感じた。ただ、言葉にするのは難しいが、あの老人からは強さよりももっと別の何かを感じた。
「おっ、戻ったのか、レオン。今日は随分と遅かったな」
俺が考えを巡らせていると酒場らしき建物から男が出てくる。男は俺たちを見て、突然の来訪者に驚いている様子だった。レオンと俺たちとを交互に見る。レオンは戸惑っている男に顔を向け、視線だけを俺に移しゆっくりと口を開いた。
「紹介するぜ、イーマ。俺の命を救ってくれた恩人、名前のない騎士だ」
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