Episode.1-2
災厄が滅び500年の時が流れ、世界は再びヒトの世となりつつあった。災厄襲来以前に存在した七国のうち、五国が新たな姿となり現在その地に生きる人々を導いている。滅びた二国について、その存在、その真実は現代には伝わっていない。
火の国『ドラバーン』。500年前の世界統一にいち早く賛成の意を表明した国家であった。火山島と呼ばれる大陸から離れた地域があり、ドラバーンはその火山地帯および近隣の町と村によって構成されていた。島の中央に首都ドラバーンが存在し、そこでは各町、各村の
当時この地に生まれた者には、暑さに曝されたり火に触れるなどしても身体に影響が小さいという特徴があった。そのため環境に併せて変化、特化した新しい人種であった。しかしヒトである以上、飲食は必要不可欠である。島内で確保できる作物や飲み水だけでは自足できず、島外や他国への依存が著しかった。そういった国家の事情があったことから、各国の自然の力を互いに共有するという案にいち早く賛成の意を表明した。
現代では、災厄によって引き起こされた災害により、完全な孤島ではなくなってしまった。かつて首都が存在していた地では、当時を
災厄による影響を受けた一方で、ドラバーンは、結果的に人々の生活が改善された稀有な国家となった。
地の国『バルゲン』。500年前の世界統一では賛成の意を表明した国家であった。ユミル峡谷に流れる清流の上流に国を構える小国家である。峡谷ということもあり作物に乏しい地域であったが、先人たちの努力の甲斐あって、国家として最低限の自足はできていた。地理的条件から外敵に強く、昼夜の寒暖差を除けば比較的暮らしやすい国家であった。緑は少ないが各国の中で最も自然と調和の取れた国家といっても過言ではない。極少数だが、大地の声を聞くことができる者もいたという。しかし、長所ともいえるバルゲンの事情は短所となっていることも多かった。
『外敵に強い』、『峡谷の上流に位置する』ということは、必然、冒険者以外訪れる者はなく他国との交流が少ない。『暮らしやすい』、『自然と調和の取れた』ということは、裏を返せば停滞しやすく変化に乏しい。バルゲンの酋長はこれを憂い、日々国の在り方に頭を悩ませていた。そんな時に各国の自然の力を共有するという話を持ち掛けられ、酋長はこれに同意した。
現代では、災厄によって引き起こされた災害により、かつて存在したバルゲンという国家は赤土の下へ消え存在しない。それどころかユミル峡谷も岩盤の崩落などにより形が変わり、500年経った現代においても辿り着くことは叶わない。そのため、当時生き残った者たちは峡谷の下流に集落を設け、仮のバルゲンとした。かつて存在したバルゲンを取り戻すため、日々思い悩み、長い年月と共に多くの学者たちがユミル峡谷を目指すようになった。そして仮のものとして建てられたバルゲンは、いつしか世界最大の学術都市となった。
災厄の余波を受け、当時最も自然と同調した国家は、現代において、最も自然と縁遠い存在となった。
水の国『アスクリード』。500年前、世界統一への賛成を表明した一方で、協力をしない二国を排除するという方針には、最後まで反対した国家であった。古くより双子、もしくは歳の近い姉妹が治める特異な国家である。ただし外交については先代や側近が口を出すことが多い。
海上に存在するこの国は、他国とは異なる大きな特徴として、特定の座標に留まることがない。一国家として相応しい巨大な島そのものがアスクリードという国家であり、国を治める姉妹の意志に併せ洋上を移動する。また、深度が確保された海域では島ごと潜航が可能と、国家単位で比較しても異次元の技術力を有している。そのため外敵には強く、攻撃は受けても侵略を受けたという歴史はない。
季節に併せて海を巡るため、食料は行く先々の地域に依存していた。この点を改善すべく過去の指導者たちは畜産に力を入れ、生産性を高めてきた。結果、アスクリードは長い年月を経て一つの国家として完成する。多くの時間を水中で過ごすためか、アスクリードの民は他国の者と比較して肌の色が白い。また、閉鎖的だと思われがちだが、他国との協調は重んじる国家である。自然の力を共有するという案には賛成したが、反対の意思を示した二国の排除に反対した理由は、この共存が主な理由であろう。
現代では、災厄によって引き起こされた災害により、元は大きな島であったアスクリードは二つに分断されてしまった。この内、分断されて大きく残った島の方がアスクリードという国名を継承した。他国との領海の兼ね合いもあり、現代ではアバロア海の洋上を一定周期で移動するに留まっている。
災厄から被害を受けたにもかかわらず、国家としての原形を留めているだけ運が良かったのかもしれない。しかし当時を記す史料などはなく、仮にあったとしても全て海の底に沈んでしまっている。アスクリードは、災厄の影響が最も小さかった国家である。
雷の国『ケスラ』。500年前の世界統一を各国へ提起し喚起した国家であった。サントレノ山の高原に位置し、日々天候が安定せず生活には苦を強いられてきた国家である。極一部の者たちが雷の力を使役し、その力を以てこの国を導いてきた。
この国の大きな特徴として、持つ者と持たざる者の待遇の開きが大きかった。生まれつき力のある者は城へと案内されたが、生まれた後も力を発現しなかった者は、まるで生きる価値などないかのように、天候の安定せぬ城下街、もしくは麓でのみ生きることを許された。高原の城下街には避雷針などは設置されているが、それでも持たざる者たちの中には落雷で死ぬ者も多かった。場所によっては死体がそのまま放置されていることも少なくなかった。
火の国との相違点として、ケスラの人々は一部を除き、環境に併せて変化することはなかった。しかし、家畜のように扱われることに不満を募らせた持たざる者たちは、英知を結集し、自然に対する防衛術ではなく、自然を利用する『活用術』を創り出した。雷であれば、一定量の雷を溜め込み、必要に応じて任意に使役することを可能とするものだ。
当初、持つ者たちはこれを、雷に打たれて死ぬ者を減らし、国家の発展及び不満の解消に貢献する発明と見て、大いに歓迎した。当然持たざる者たちもそのように報告を続け研究に没頭した。そして自然の力だけでなく、自然の力を使役できる者の力も活用できるよう改良し、完成させた。持つ者たちはこれに危機感を覚えた。急ぎその発明を排除するべく動いたが、既に手遅れだった。結果、持つ者たちは国を明け渡すこととなった。持たざる者たちはケスラを手に入れ、持つ者たちを
現代では、災厄によって引き起こされた災害により、その技術等、全て消し飛ばされ何も残されていない。かつてのケスラが存在した地は、現代のケスラを束ねる帝によって
現在の帝もこの言い伝えを史実と信じ、身を斬る覚悟で心身の鍛錬を積んできた。結果、現代における唯一無二の武人にして最強の闘神の名と共に、『雷帝』として各国へその名を轟かせている。
風の国『――――』。後に国名を『クルーエルア』と変える。500年前の世界統一では賛成と表明したが、水の国同様排除には反対した国家であった。また災厄の前後で国名が変わった唯一の国家である。
本土のすぐ外には海へ繋がる大きな河があり、その両岸には果てしない森が広がっていた。そんな地域の平原に不自然に存在する断崖絶壁の岩壁。その岩壁は天へと繋がっていると言われ、その
世界一統率のとれた軍隊を擁し、屈強な剣士・術士を多数輩出した。長い歴史の中でも他国からの侵略に対し大きな害を被ったことはない。他国への侵略を行ったという歴史が存在せず、そもそも他国への関心がない。その理由は、この国の者は空への渇望が強く、いつかは自分たちは空を飛び、居城を空に構えるという憧れを持っていたからだ。だがどれだけの代と月日を費やしてもその域へ到達することは叶わない。そんな矢先に、雷の国からの話を持ち掛けられる。そしてその後、降臨した災厄により、空に最も近かった国は、天空城に住む全ての人々と共に消滅することになる。
現代では、災厄によって引き起こされた災害により、かつて国家が存在した断崖だけでなく、周辺の河と森も抉り取られ、長い歳月を経てその一帯は大きな湖となった。湖の周辺には草木が生い茂り野生動物も生息するが、災厄との決戦の地であったため、人々は少し離れた場所に国を再建した。生き残った者の多くは民であったため、城に住んでいた者たちの詳細を知る由もない。国の格式には当時を想起させるものがあるが、かつてこの地に生きた者たちの渇望も憧れも、現代には伝わっていない。そして最も重要ともいえる、災厄の前後において国名が変わった理由もまた、現代には伝わっていない。
五国によって滅ぼされた二つの国。それらの詳細はおろか、存在したという事実さえ、現代には伝わっていない。しかし、この二国は確かに存在したのである。
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