4.『剥奪』

 気が付いたらお嬢様は私の前にいた。

「お嬢様? いなくなってしまったのでは……?」

「そうしようと思ったんだけど、あなたが『お嬢様』って大声で何度も叫ぶから」

「私があなたを呼んでいた……?」

「まぁ、そうなるのかな」

 私はお嬢様の顔に手を伸ばした。

「良かった……あなたはここにいる」

「フェンサー?」

「どうか私の前からいなくならないで。でないと、私は狂ってしまう……」

 お嬢様は一瞬驚きの目で私を見たが、次の瞬間微笑みを浮かべて私の手に御自身の手を重ねた。

「そうね。確かに大声で何度も同じことを叫ぶのは異常だわ」

 私は膝をついた。私の手はお嬢様の手をすり抜け、体を包み込む。

「フェンサー……」

「あなたはここにいるんですね……温かい……私の体よりもはるかに……フィルト……」




 ドスッ

 ガキキキキイッ



 突然私は胸への衝撃を受け、その時お嬢様を手離してしまった。

 体勢が崩れないようとっさに左手を床につき、右手で腰に下げた剣を抜き放つ。

 その刃の向こう側に、私は赤い軌跡を見た。

 どさり

 何かが倒れる。これは闘機が倒れた音とは違う……

「私にプログラムされた事柄は、キング・フェンサーを破壊すること」

 私の前に立っている闘機・武闘士の拳に装着されている三本の爪が赤黒く染まっている。それは、ロボットの機体に流れるオイルとは別のものだった。

「私にプログラムされた事柄は、キング・フェンサーを破壊すること」

 この武闘士、破壊したはずでは……

 いや、どうあれ……

 私にプログラムされた事柄は闘機試合に勝つことです……?




「あああああああああああああああああっ!!!!」




 ガキョッ

 ガンッ ゴキキッ

 ズガンッ

 ゴインッガキキッ




 キンッ

 ズガアアアアアアアアアアアァァァァァァン






 いない。

 いない。

 お嬢様。

 お嬢様。

 お嬢様。




「あなたの、あなたの側にいたかった……あなたを永遠に守りたかった……すみません、許して……私のせいであなたを……私がキングだったせいで……フィルト……ああ……」

 体中で回路がショートしている。

 私の体がヤツのように爆発するのも時間の問題だった。

 私は手をお嬢様の投げ出された手へ伸ばした。

 届いているのか、それとも全く届いていないのか、私の目は距離を測れなくなっていた。

 キシュッ

 ついに私の腕の回路が切れ、重力に従って鉄の塊が床に落ちる。

 その瞬間に、手が何かの上に乗ったような気がしたが、それを認識する前に




















     +


 娘が巻き込まれたことを受け、その事件の深刻さに未来を懸念したフェディルトグループの社長はその後、『ロボット管理法』を推し進める運動を起こした。


 それはロボットの性能の上限や用途を法で制限し、人の安全の確保、さらにはロボットの保護を法の下に保障するという内容のものであった。


 フェディルト社長は運動開始から七年後、暗殺され志半ばにして死を迎えるが、社長の意志を継いだ若い一人の女性によって三年後にその法案は制定へこぎつけられることとなる。


 余談だが、その女性は体のほとんどを機械で補われた、いわゆるサイボーグであったらしい――

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