海戦④
潮風を浴びながら、空高くを白い鳥が舞う。
珍しい光景でもないだろう。ただし、その鳥は仄かに青白い光を纏っていた。
魔術によって作られた鳥の目は、幾つか並ぶ小島と、そこに停泊した数隻の軍艦を捉えていた。軍艦の傍らには、半ば打ち壊され、拿捕された商船も浮かんでいる。
砂浜で休んでいた男達が慌てて船に乗り込んでいく。
中央の船の甲板上で、奇妙な、赤黒い肌をした人影が叫んでいるのも見えたが―――、
そこで光景は途絶えた。地上から魔術攻撃を受けたのだ。
「探索鳥を撃ち落とす程度の心得はあったか」
偵察魔術による報告を、ヴァイマーは甲板上に立ったまま聞いていた。
すでに小島群は視界に収められている。まだ遠距離魔術の射程にも入っていないが、相手が態勢を整える前には攻撃できるだろう。ヴァイマー旗下にある十五隻の軍艦は、完全に戦闘準備を整えてあった。
所詮、相手は海賊―――などと、ヴァイマーは侮っていない。
戦場では何が起こるか分からないのだ。油断は禁物。加えて、偵察によって新たな事実も判明していた。
「大型の軍艦だと? 五隻というのも間違いないのか?」
「はい。複数の偵察によって確認したとのことです」
頭を垂れる伝令兵の声に耳を傾けながら、ヴァイマーは眉間に皺を寄せた。
「襲われた船長の話では、軍艦など出てこなかったが……」
いや、とヴァイマーは首を振る。
被害に遭った船長が気づかなかっただけだろう。相手の行動は海賊そのものであるし、遠目では只の大型船と軍艦を見間違うこともある。
「襲撃を受けて冷静でいろというのも、平民には酷な話か」
それに軍艦が使われているからといって、海賊でないとは言い切れない。何処の国でも素行の悪い兵士はいるものだ。統制が利かなくなれば、船を奪って逃げ出し、海賊に身を堕とす者も現れる。
しかし五隻もの軍艦が奪われる事態など聞いたこともない。船というだけでも高価な物だが、軍艦には複雑な魔術機構も組み込まれる。艦の速度を上げたり、耐久度を上げたりする機構が、手間を掛けて作られているのだ。
高価なのだから、管理も厳重にされる。
そもそも船を動かすだけでも大人数が必要で、思いつきでの強奪など叶いはしない。
まあ、一人で何隻もの〝飛翔船〟を撃ち壊した幼女もいるのだが―――。
「……いや、いまはまったく関係のない話だな」
規格外の武勇伝を思い出したヴァイマーだが、すぐに頭を振って緊張を纏いなおした。
ともあれ、軍艦持ちの海賊となれば、それだけでも油断ならない相手だと分かる。軍を出し抜く知恵と計画性に加えて、大人数を従える統率力も備えているのだから。
だが、今回の敵はやはり海賊ではない。
そう結論するだけの事実が、偵察によって示されていた。
「この旗も、間違いなく確認したのだな?」
「そちらも複数の報告が上がっています。赤の地に、黒と緑の装飾だそうです」
「そうか……まさかという事態だが、受け入れねばならんな」
紙に描かれた絵柄を睨んで、ヴァイマーは重々しく頷いた。
その絵柄は、ガルス魔人国の国旗だ。密偵による報告にも同じものが記されていた。
ガルス軍による蛮行の様子も届いている。陥落したレミディア首都では、抵抗の有無に関わらず民が殺され、目につく財貨は奪い尽くされたという。
今回の商船襲撃も似たようなものか。帝国への侵略意図はどうあれ、目についた獲物に噛み付いたのだろう―――そうヴァイマーは大方の事情を察した。
「全軍に通達せよ。敵は海賊ではない」
元より全力で討伐すべき敵であることに変わりはない。
けれどより一段と気を張った声で指示を飛ばした。
「敵はガルス魔人国。レミディアを滅ぼした新興国家、その先鋒部隊である。帝国を侵そうとする不心得者どもに、容赦無き鉄槌を下してやれ!」
ヴァイマーの言葉は、即座に旗下の艦にも伝わっていく。
ガルスの名に首を捻る兵士は多かった。レミディア滅亡の情報も、ほとんどの兵士には初耳だった。しかし怯む者はおらず、むしろ手応えのある敵と知って戦意を高めていく。
「全軍、速撃陣形。一方的に蹂躙してやれ!」
帝国とガルス国との初戦は、こうして互いに予期せぬ形で幕を開けた。
迫り来る艦隊を睨んで、マルゴゥヌは頬を引き攣らせた。
笑顔を作ろうとしても上手くいかない。笑うどころか泣きたい状況だ。
帝国軍の不意を突こうとしていたのに、逆に自分たちが急襲を受けているのだから。
「とにかく急ぎなさぁい。さっさと船を出すのよぉ!」
指揮官として焦りは禁物だと、マルゴゥヌも心得ている。しかし実践できるかどうかは別問題だ。傭兵団での指揮経験があると言っても、幾つかある部隊のひとつを任されていたに過ぎなかった。
マルゴゥヌの性格としては、むしろ先頭に立って突撃している方が合っている。
いっそ隣に立つ副官に指揮を丸投げしたい気分だった。
「指揮を丸投げ、などと考えないでくださいね。助言はしますが」
「わ、分かってるわよぉ。ワタシだってほら、そう、将軍なんだからぁ」
「ですが、状況次第では私に任せて突撃しても構いません。臨機応変です」
「どうしろっていうのよ!? もう!」
筋骨隆々の身体をくねらせて、マルゴゥヌは情けない顔をする。
そうしている間に、出港準備が整った艦からばらばらと島を離れていく。およそ軍隊の出撃と呼ぶには相応しくない、統率の欠片もない動きだった。
味方の頼りなさはマルゴゥヌにも見て取れたが、それを嘆いている暇もない。
正面に迫る帝国艦隊から、魔術によって拡げられた声が届いた。
『我は帝国伯爵、ライゼンムート・ヴァイマーである』
威圧の込められた声が海上に響き、それだけでガルス兵は動揺する。
落ち着け、と一喝しつつ、マルゴゥヌは声に耳を傾けた。
『汝らは帝国の領海を侵している。直ちに停船し、投降せよ。さすれば兵の生命は保障しよう。だが従わないのならば、侵略と看做し、一兵残らず海の藻屑と変えてやる』
声の調子こそ穏やかだが、言葉は苛烈で、怒りも込められていた。
海賊行為が伝わっているのだと、マルゴゥヌは唇を噛みながら察する。
「いまから謝っても許してくれないわよねぇ?」
「聞いていたでしょう? 保障されるのは兵の生命、将は別ということです」
「なら、選択肢は無いわよねぇ」
たとえ帝国軍が見逃してくれるとしても、侵攻に失敗すればマルゴゥヌの命は無い。
何処に居ても殺される。
マルゴゥヌやディリムスの体には、魔女による呪いが施されている。作戦の成功報告をしないまま時が過ぎれば、その呪いが発動すると聞かされていた。
「やることはひとつ、突撃よ! 真っ直ぐに敵の旗艦を目指しなさい!」
拡声術式によって、マルゴゥヌの指示は他の艦にも伝わっていく。
ガルス軍は五隻。対する帝国軍は十五隻。その数を見ただけで、素人でさえ勝算が薄いと判断できる。浮き足立つガルス軍は、いきなり逃げ出す艦が出てもおかしくなかった。
だがひとまずは、帝国軍へと艦首を向ける。
先に商船を襲って贅沢の味を覚えた影響もあった。怯む者も多かったが、勝てばまた欲望を満たせるのだと、浮ついた気分がガルス軍を支配していた。
「隊長、帝国軍が進路を変えますぜ!」
「なんだ? 突っ込んでくるんじゃねえのか?」
「へっ、俺たちにビビッたのか?」
ガルス兵は意気を上げるが、無論、その認識は誤りに過ぎない。
帝国軍は冷徹に勝利へ向かおうとしていた。
軍艦同士の戦いに於いて、その戦術は二つに大別される。
ひとつは、魔術や弓矢による遠距離攻撃を主とするもの。指揮官の命令を忠実に実行できる操艦技術が必要とされるが、上手くすれば、敵に一方的な攻撃を浴びせられる。常に自軍に有利な位置を取り、複数名の魔術師による強力な魔術を撃ち込むのだ。
被害を受けず、一撃で敵艦を沈める。そんな勝利も不可能ではない。
もうひとつは、接舷しての移乗攻撃を主とするもの。ともかくも敵艦へ突撃して、接近することを第一に目指す。然る後に敵艦へ乗り込み、剣での戦いに持ち込むのだ。あるいは衝角を備えた艦によって、直接に打撃を与える戦い方もある。
帝国軍が取ったのは前者の戦術だ。
しかしガルス軍は、後者の戦術しか選べなかった。
というよりも、ガルス軍には突撃戦術以外を知る者は少ない。例外は元レミディア海軍にいた少数の者だけだ。指揮官であるマルゴゥヌでさえ、海戦に関しては素人同然、他の兵士に戦術を説いている暇も無かった。
それでもマルゴゥヌは、複数の海戦戦術についての知識だけならば持っていた。
帝国軍の狙いも予測できたが、だからといって対処できるものでもない。
「マズイわぁ。このままじゃ、近づくどころか―――ッ!」
距離を置いた帝国艦隊の頭上に、大型の魔法陣が浮かび上がる。数十名の魔術師が協力して、戦術級魔術を発動させようとしていた。
すぐに防御障壁を組むよう、マルゴゥヌは命令を飛ばす。
しかしガルス兵の行動は遅々としたものだ。満足に統率も取れていないのだから。
帝国軍の術式は素早く組み終わる。青白い光が弾け、空高くへと舞い上がる。
直後、無数の炎弾がガルス艦隊へと降り注いだ。
海面が赤々と照らされる。潮風を蝕むように黒煙が広がっていく。
悲鳴も混じった炎はガルス艦から上がっていた。軍艦の常として、魔術による耐火機構が組み込まれている。しかしすべての炎を防げる訳ではない。
三度目の戦術級魔術による攻撃を受けて、ガルス艦は激しく傾いた。
「敵艦、二隻轟沈! 敵旗艦も炎上しています!」
「未だ敵側からの攻撃は皆無。引き続き、防御部隊は警戒に努めます!」
「完全に沈めるまで油断するな。距離の確保を優先、攻撃部隊は第二班に交代!」
ヴァイマーが指示を飛ばすと、十五隻の軍艦は即座に反応する。甲板上でも兵士たちが整然と動き、其々が与えられた役目を的確にこなしていく。
監視や伝令、複数の班に分かれた魔術師部隊や弩弓部隊、
各種障壁を張る防御部隊、艦内の物資運搬や、魔術機構を担当する部隊など、
さらに操船を任され、帆を操る部隊、その帆に風の魔術を当てる部隊―――。
軍艦の戦いとは、実に複雑な集団行動のぶつかり合いだ。誰が失態を犯しても、全体の被害へと繋がる。一瞬の不注意で大海原へと呑み込まれてしまう。
集団の連携が、最も如実に現れる戦いだと言える。
故に、帝国海軍は強い。
陸海問わず、帝国軍は伝統的に集団戦術を磨き続けてきた。
加えて、ヴァイマーには切り札として『不沈扇』もある。その気になれば、巨大な波を起こして敵艦隊をまとめて叩き潰せる。
なにも勿体ぶっているのではない。いざという事態に備えて温存しているのだ。
小規模とはいえ海流にまで力を及ぼせる魔導遺物だ。その強大な力に対して、大いなる海がどれだけの反動を起こすか制御しきれない部分もある。さすがに味方の船まで波に呑みこむ、などといった事態は避けるつもりだが、万が一ということもある。
大きな攻撃が隙を生むのは、戦いの基本でもある。
ならば、鍛え上げた軍としての力を信じた方が良い。
レミディアを滅ぼしたというガルス国、そして遠目ながら姿の見える、赤黒い肌をした魔人に対して、ヴァイマーは最大限の警戒を向けていた。
「あの慌てぶりから察するに、杞憂で終わりそうだが……」
揺れ続けている甲板を踏み締めながら、ヴァイマーは右腕の手甲を撫でた。
魔導遺物『不沈扇』―――水流を自在に操れる強力な魔導遺物だが、比較的、適性者となれる者は多い。水に含まれる魔力を利用するので、魔導士本人の負担は少ないのだ。
しかし、その力を使いこなすには卓越した技量が要求される。
手甲として装備する『不沈扇』だが、起動すると刃が生える。手首から腕部分に掛けて、鳥の羽根にも似た何十本もの刃が連なるのだ。その刃の先から細い魔力糸が伸びて、周囲に広がり、装着者を水の流れと繋げてくれる。
強引に水流を操作するのは難しい。流れに逆らったり、捻じ伏せようとすれば、大量の魔力を消費してしまう。上手く水の流れを利用する必要がある。そのための計算力、あるいは勘や感覚、経験といったものを鍛えなければ、『不沈扇』は使いこなせない。
ヴァイマーも、大きな波を操るには数年掛かった。街全体を守れるほどの水壁を扱えるようになったのは、二十歳を過ぎてからだ。
物心ついた頃には、領民を守る責務を自覚するよう言われてきた。
幼い頃から魔導士となるのを定められていたのだ。
だから境遇の似たヴィレッサに対しても、想うところがある。
「いかんな。雑念だ」
あの魔導銃の力ならば、どんな戦場に立っても目を見張る活躍ができるだろう。
けれど子供には重過ぎる。きっと当人は殺戮など望んでいない。
街を襲った魔獣に対してさえ、あのような、背筋が凍えるほどの恐ろしい笑みを向けるのだから。普段のぼんやりとした表情の方が、ずっと幸せそうで―――、
そんな雑念を、ヴァイマーは軽く頭を振って追いやった。
「……耐久度はなかなかのものだな。やはりレミディアの艦を奪ったか」
過去にも幾度か、ヴァイマーはレミディアの軍艦と戦った経験がある。無論、勝利を収めたが、頑丈な艦だったと記憶に残っていた。
いまはガルス軍のものとなった艦も、戦術級魔術の直撃に耐えてみせた。
だが二隻は沈めた。残るは旗艦を含めた三隻。
そちらも時間の問題―――と思われた矢先に、ガルス艦隊が奇妙な動きを見せた。
一隻だけが艦首を巡らせる。逃げ出そうとする動きだ。甲板上を走り回る兵士たちも、すっかり戦意を失った表情をしていた。
しかしそれは、帝国側にとっては好都合となる。
現状、帝国側は十五隻の艦隊を二つに分けている。数で圧倒しているので、二方向から挟撃する作戦を取っていた。
第二部隊は五隻のみで、広い海原が戦場なので隙間もある。
速度でも上回る帝国艦隊は、敵を完全に包囲するのも可能だった、が、
「構うな。敵旗艦を最優先で叩け」
ヴァイマーは逃亡を許す選択をした。
数の減った敵が、さらに数を減らせば、簡単に決着がつけられる。一旦は見逃すにしても、後から追って討ち取るのも容易いと思えた。
しかしそこで、予想外の事態が起こった。
『勝手に逃げてんじゃねえぞぉぉ、クソガキどもがぁっ!』
大音量化された怒鳴り声が、ガルス旗艦から轟いた。
同時に一撃が放たれる。ガルス旗艦から、逃げようとした艦へ向けて。
魔人の投げ放った太い槍が、逃亡を命じたガルス指揮官を貫いた。
『逆らうなら、ワタシの手で殺すわよぉ! それが嫌ならさっさと突撃しなさい!』
逃げようとしても味方に殺される―――、
そう理解したガルス兵は、悲鳴を上げながら再び艦首を巡らせた。
ヴァイマーが乗る帝国軍旗艦へ向けて、三隻のガルス艦が決死の突撃を行う。
「……死兵か。だが、届きはせん」
冷ややかに敵艦を見据えるヴァイマーだったが、その呟きには苦々しさが混じった。
恐怖や死で味方を奮い立たせる。その遣り方を、ヴァイマーは否定しない。戦場に立つ者は、あらゆる手段で勝利を掴もうとするのが当然だ。
しかし、最低の指揮官だと考える。
味方を殺すよりも先に、もっと選べる手段はあっただろう。
装備を整えるなり。訓練を施すなり。それをせずに命を投げ捨てさせるなど、将として務めを怠っているとしか言いようがない。
「距離を保ちつつ攻撃! これまで通り、冷静に対処しろ!」
ヴァイマーの指示を、兵士たちは的確にこなしていく。
だが、的確で、慎重に過ぎたのかも知れない。
幾度も同じ動きを見せられて、ガルス軍もさすがに慣れてきていた。相変わらず単調な突撃を行うだけだが、そこに慣れと、決死の覚悟が加わった。
帝国軍は距離を取りつつ、戦術級魔術をまとめて放つ。巨大な火球や雷撃がガルス艦を襲い、さらには海面が凍りついて進路を塞ごうとする。
容赦無い攻撃を、ガルス旗艦は味方を盾にして防いだ。
盾となった味方艦を押し退けるようにして、旗艦のみで帝国軍の列に突撃する。
魔人を乗せたガルス艦は、ついに接近に成功した。
そして―――接近しただけだった。
「全員、衝撃に備えよ!」
大声で告げたヴァイマーは、同時に右腕を高々と掲げた。
『不沈扇』が青白い輝きを放つ。すでに張り巡らされていた魔力糸は、即座に水の流れに干渉して、激しい波を巻き起こした。
巨大な波は、ガルス旗艦の横腹を叩き、そのまま船体ごと薙ぎ倒した。
完全に引っ繰り返されたガルス旗艦から、大勢の兵士が投げ出される。船体は波に呑まれ、まだ沈みこそしなかったが、もはや戦闘能力を失ったのは明らかだった。
他の艦も同様だ。度重なる攻撃を受けて轟沈寸前に追い込まれている。
海原に放り出された兵士たちは顔色を失い、敵である帝国軍にまで助けを求める。
しかし、その中に魔人の姿はなかった。
「飛んだ……いや、跳んだだと……!?」
ガルス旗艦が横転する直前、そこから飛び立つ影を、ヴァイマーは目撃していた。
飛行術式の存在は広く知られている。けれど高度な術式なので、扱える魔術師は稀少だ。そのために天馬騎士などが貴重な戦力とされているのだし、探索鳥も使われる。
しかし魔人は、そんな高度な術式ではなく、単純な身体能力に頼って跳躍した。艦同士の距離はまだ離れていたのに、それを強引な手段で跳び越えようというのだ。
虚を突かれたヴァイマーだが、それでも対応は早かった。
「上から来るぞ! 迎撃、近接戦闘用意!」
ガルス旗艦から飛び立った影が、帝国艦の頭上へと迫る。まずは隊列の端、盾役として位置していた艦の帆柱に降り立った。
帝国兵は弓矢や魔術で撃ち落とそうとするが、赤黒い影はまた跳躍する。
そうして二隻の艦を経由して、ヴァイマーが待ち構える帝国軍旗艦へと迫った。
軍艦の甲板は広く作られているが、大勢の兵士が隊列を組んで空間を埋めている。そこは正しく帝国の領土であり、招かれざる客をけっして許しはしない。
そこへ侵入を目論むならば、死を覚悟する必要があるのだが―――。
「……魔人か。実在するだけでも信じ難かったのだがな」
ヴァイマーが睨む先、甲板の中央に、ついに敵は降り立った。
片膝をついた異形の魔人は、悠然と立ち上がる。
まるで死地を愉しむかのように、歪んだ笑みを浮かべていた。
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