港町の魔弾幼女③



 街の中央にあるヴァイマー伯爵邸は、簡素ながら石壁に囲まれている。本格的な城や砦には及ばないが、練兵場や兵舎などの備えもある。小規模な軍勢相手ならば立て篭もって追い返せるほどだ。

 帝国の伝統として、華やかさよりも実用性を重視する傾向がある。屋敷の正門も頑丈な造りになっていて、攻城兵器でもなければ打ち破るのは難しいだろう。


 とはいえ、キールブルクでは何十年も平穏が続いている。海賊との小競り合い程度はあっても、領主の邸宅が戦場になるような事態は起こっていなかった。

 それでも万が一に備えて、門衛には信頼できる者が置かれている。

 厳しい顔をした門衛は、黒馬の鋭い眼差しからもけっして目を逸らそうとしなかった。


「それじゃ、大人しくしてて」


 ぽんぽん、と。

 小さな手で黒馬を撫でてから、ヴィレッサは屋敷の門をくぐった。

 黒馬は一鳴きして小柄な背中を見送る。物分りのよい馬だと誉められるところだが、それは黒馬にとっては失敗だった。


 門衛と睨み合っている最中だったのだ。

 ついうっかり目を逸らしてしまった黒馬に対して、門衛はにやりと笑ってみせる。

 黒馬は悔しそうに呻ったが―――そんな静かな戦いが繰り広げられているなど知らず、ヴィレッサは屋敷の奥へと足を進めた。


 ベルティに案内されるまま、練兵場へと踏み入る。

 雪が降ったばかりだというのに、広々とした地面は僅かに湿っているだけだった。それどころか大勢の兵士が訓練を行っている最中で、熱気が漂っている。どうやら午前中の内に除雪作業は済ませていたようだ。

 あるいは、ヴァイマー伯爵が持つ魔導遺物『不沈扇

ネイン・バラスティン

』のおかげかも知れない。


「おお。ヴィレッサ殿、よく来てくれた」


 練兵場の奥から歩み寄ってきたのは、そのヴァイマー伯爵だ。

 厚手の服の上からでも見て取れるほど鍛えられた体格をしている。年齢は四十を越えたが、まだまだ衰えとは無縁だ。日に焼けた顔立ちや、ただ歩くだけの動作からも力感を溢れさせている。


 地上の兵力はともかく、海上戦力ならば、このキールブルクの街は帝国でも随一を誇る。領主軍としての枠に収まらず、その精強ぶりを認められて、帝国海軍としての看板も掲げている。定期的に帝都から援助物資を携えた兵が送られて、共同訓練を行ったり、周辺の領地とも連携を図ったりと、精力的な活動を続けていた。

 その海軍をまとめているヴァイマー伯爵も魔導士であり、海戦では不敗を誇る。

 もっとも、いまはだらしないほどに柔らかな笑みを浮かべているが。


「今日は寒かったであろう。風邪など引いておらぬか?」


「ん、大丈夫。雪合戦もした」


「ははっ、余計な心配であったか。うむ。子供は元気な方がよい。しかし折角、我が家へ来てくれたのだ。少しは体を温めて休んでもよかろう。茶の用意もしてある。それに東国から取り寄せた金平糖という菓子も―――」


「―――父上!」


 ベルティが鋭い声で割って入る。

 父親に対するというよりも、悪戯をした子供を叱るみたいに眉を吊り上げていた。


「今日は新たな魔術の実験を行うのです。そのためにヴィレッサ殿を招いたというのに、まさかお忘れでござるか!?」


「い、いや、しかしだな、話をする時間くらいは……」


「領主としての仕事を優先して欲しいと申しているのでござる」


 娘から正論を浴びせられて、ヴァイマーは肩を縮める。

 なにも領主として怠け癖があるのではない。むしろ勤勉と言っていい。

 ただ少し、子供に甘いだけだ。

 自分の子供達に手が掛からなくなってから、その傾向はより強くなっていた。


「先日も、ルヴィス殿にお菓子を届けに行かれたではござらぬか。一部で噂にもなっているでござるよ。御二人が父上の隠し子ではないか、と」


「な、なに? そのような……しかし考えてみれば養子に迎えるのも……」


「父上!」


「ああ、分かっておる。冗談、いや、気の迷いだ。其方も迂闊なことを口にするでない」


 隠し子などと、確かにベルティの言動にも軽はずみな部分があった。

 そこを突いたヴァイマーは、辛うじて領主としての威厳を取り戻す。咳払いをひとつして、それよりも、と話を切り替えた。


「新たな魔術の実験であったな。すでに準備は整えてあるぞ」


 練兵場の方へ、ヴァイマーが首を回す。

 ヴィレッサもそちらへ目を向けると、見知った顔へ手を振った。


「マーヤはともかく、ロナも一緒だったんだ」


「にゃはは、当然ニャ。なにせあちしは、貴重な実験台一号だからニャ」


「誰でもよかったんだけどね。この馬鹿が一番暇そうだったの」


 狼人族であるロナと、魔女装束に身を包んだマーヤは、兵士たちと並ぶと明らかに異質だ。しかしロナは陽気な笑顔を浮かべて、マーヤは淡々とした口調を保っていた。

 相変わらずだなぁ、とヴィレッサは小さく口元を緩める。


 この幼馴染である二人とヴィレッサは、敵国から脱出する旅の途中で出会った。危機にあった二人をヴィレッサが助けて、また旅の手助けもしてもらった。

 ヴィレッサにとって、二人は大切な旅の仲間であり、気兼ねなく話せる友人だ。

 魔導士になっても態度を変えるつもりはなかった。

 けれど公の場では、立場の違いを認めざるを得ない。二人はヴィレッサの従者となり、さらに派遣という形を取って、領主軍に加わっていた。

 それでもヴァイマーの計らいで、特別な任務に就けられている。


「例の魔術は、完成したんだよね?」


「ひとまずの形としてはね。だけど問題が……まあ、見てもらった方が早いわ」


 今回お披露目となる新魔術は、マーヤが開発を手掛けたものだ。ヴィレッサが話を仲介して、ヴァイマーから研究費用などの援助も受けている。

 しかし新たな魔術の開発など、一朝一夕で叶うものではない。普通ならば、熟練の魔術師が何年も掛けて行う。失敗のまま終わる場合も多い。

 まだ若いマーヤが自信を滲ませているのは、手近なお手本があったからだ。


「ロナ、まずは基本の形を見せてあげて」


「了解ニャ!」


 得意気に頷いたロナは、空中に複雑な魔法陣を描き出した。

 ヴィレッサは僅かに眉を揺らして一歩前に出る。ロナが調子に乗っている様子なので、失敗するのではと危惧を覚えたのだ。

 だからヴァイマーやベルティを守れる位置に立った。

 もしも魔力の暴走が起こっても、ヴィレッサならば被害を受けない。『無限魔力』を持つヴィレッサは、どんな魔術も使えない代わりに、あらゆる魔術を無効化できる。


 だが、それは杞憂に終わった。

 魔法陣が弾けて光粒が空中に広がる。一瞬の間を置いて、そこには青白く輝く魔力の盾が浮かんでいた。


「よかったニャ。まだ三回に二回は失敗するのニャ」


「……アンタ、昨日は成功率八割って言ってたじゃないの」


 呑気に笑うロナを、マーヤがじっとりと睨む。

 そんな遣り取りを横目に、ヴィレッサは青白い盾を観察した。

 ヴィレッサが使う魔力盾に似ている。けれど膨大な魔力を強引に固めたものではない。理論的に、ひとつの魔術として作り出されたものだ。


「ほら、ボスのと同じように自分でも触れるニャ」


 空中に浮かぶ盾を、ロナが軽く叩いてみせる。

 魔術で障壁を作るだけならば、すでに同じような術式が何種類か知られている。しかし従来の術式では、術者本人が作り出した障壁には触れられない。

 これは術者の魔力を感知して、素通りさせているからだとされている。


 逆に言えば、術者以外の魔力に対しては、攻撃と認識して障壁が防ごうとする。

 人間であれ野生動物であれ、大なり小なり誰もが魔力を持っている。例えば剣で斬り掛かるとしても、微かな魔力が切っ先に乗るのは避けられない。

 だから従来の障壁系魔術は、その魔力に反応して弾き返す。

 複数人で扱う大規模術式ならば、また話は違ってくるのだが―――。


 ともあれ、ヴィレッサが扱う魔力盾は、従来の障壁系魔術とは異なっていた。

 それを手本として、マーヤが術式の開発に乗り出したという訳だ。

 術者本人が触れられるとなれば、障壁の応用範囲が広がる。接触可能型、あるいは足場にできるところから、可踏型障壁術式とマーヤは名付けた。

 あまり魔術を得意としないベルティも、この術式には興味を抱いていた。


「空中を駆けるのも可能でござるか?」


「はい。そちらも理論上は。ですが、まだ術式が複雑なので……」


 説明を返しながら、マーヤは黒ローブの懐へ手を伸ばした。鈍い輝きを放つ、ふたつの輪を取り出す。

 それを渡されたロナは、慣れた手付きで自分の両足首へと装着した。


「同じ術式を込めた魔導具を作っておきました。これなら適性さえあれば、魔力を込めるだけで発動できますから」


「でも魔力消費が大きくなって、あちしだと十歩くらいが限界ニャ」


 軽く跳ねたロナの足下に青白い輝きが浮かぶ。その魔力盾を蹴って、ロナは空中高くへ駆け上がっていった。

 おお、とベルティが感嘆の声を漏らす。


「良い具合ではござらぬか。これでまだ試作品なのでござろう?」


「そうですね。もっと術式の効率化ができるはずです」


「ならば、残るのは適性の問題でござるな?」


「兵士の方にも試してもらいましたが、今の所は百人に一人といった割合ですね。術式の簡略化で、そちらも改善されるはずですが……むしろ問題なのは、盾の耐久性の方です。鎧を着た人間くらいなら支えられますが、騎馬となると難しくて……」


 静かに語るマーヤだが、眼鏡の奥にある瞳には熱が灯っていた。

 頭を働かせるのが性に合っているのだろう。本来は召喚術を専門としているマーヤだが、一般的な陣式魔術も人並み以上に扱える。幼い頃から魔術に触れていたおかげで、応用を利かせる下地は出来上がっていた。

 そんなマーヤから、専門的な話を聞かされるベルティは―――、


「難しいことは分からぬでござる」


 腕組みをして、偉そうに宣言する。

 マーヤは眼鏡をずり落としそうになったが、それでもベルティは真顔で続けた。


「しかしこの術式は、間違いなく戦力になるでござるよ」


 直感での評価だった。けれど間違ってもいない。


「空間を制する者が勝者となるは必定。何処でも足場にできるとなれば、拙者の剣術にも磨きが掛かるでござる」


「そ、そうですね。戦場での使用も考えています。上手くすれば、天馬騎士に代わる部隊も作れるかも知れません」


「ほう。空中を駆ける部隊でござるな。戦場の華となりそうでござる」


「少なくとも、天馬騎士よりは数を揃えられるはずです。戦いに関しては素人ですから、それ以上のことは申し上げられませんが……」


 戦いに限らずとも、自在に足場を作れる利点は大きい。

 例えば海難事故を防ぐのにも役立つだろう。交易船に一人でも術者が乗り込んでいれば、もしも海に飲まれた者がいた場合も救助は容易になる。


「魔導具であれば、船員でもすぐに使えるはずでござる。事故への備えとして、こちらで配布したいほどでござるよ。父上、ここは是非―――」


 期待を込めた声とともに、ベルティは振り返った。

 だが、そこには誰もいない。

 場を取り仕切るはずのヴァイマーも、監修役であるヴィレッサも―――。


「うん、美味しい。ミルクと合うんだね」


「そうか。喜んで貰えてなによりだ。この茶葉は西方から取り寄せたものでな。癖のある香りだが他の味を引き立てられる。ほら、苺も食べてみるといい」


「ん。贅沢だね。こっちも美味しい」


「これを使ったジャムも仕込んでいるところでな。今度はルヴィス殿も連れて遊びに来てはどうだ?」


 練兵場の端に、いつの間にかテーブルが用意されていた。

 ヴィレッサとヴァイマーは、椅子に腰掛けて談笑している。侍女の手によって寒さ除けの結界が張られて、簡素ながら天幕まで設けられていた。

 ベルティが凍りついているのにも構わず、二人は温かなカップを口へ運ぶ。


「ルヴィスも喜ぶと思う。甘い物は大好きだから」


「うむうむ。いつでも歓迎しよう。其方ら姉妹が笑い合っていると、私も―――」


「―――父上!」


 いきなりテーブルを叩いて、ベルティは父親を睨む。大きく顔を歪めて呻りもする。

 その威圧に、呑気に構えていたヴァイマーは肩を縮めた。


「いつまで巫山戯ておられるのですか! 公務の最中でござるぞ!」


「い、いや、そう怒るな。少し休憩を取っていただけではないか」


「騎士ならば言い訳無用。父上から教わった言葉でござる。だいたい父上は、常日頃から不真面目が過ぎるのでござらぬか? 先日も一人で街へ出掛けられたおかげで、従士長が困り果てていたでござるよ」


 一気に責め立てるベルティに、ヴァイマーはまともな反論すら叶わない。誇りある帝国の伯爵としては、他人に見せられない光景だ。

 けれど、この屋敷では珍しくもないらしい。


「ヴィレッサ様、お茶のおかわりは如何でしょう?」


「ん。ありがとう」


 ベルティが声を荒げ始めた時点で、侍女長が素早く動き、テーブルセットを脇へと移動させていた。他の者も慣れた様子で親子の口論を見守っている。

 そして、ヴィレッサも―――。


「……冬も、もうじき終わりかな」


 ふと呟いて、目を細めながら両手でカップを抱える。

 温かな、平穏の香りを満喫していた。





 ◇ ◇ ◇



 修道院で暮らすヴィレッサは、ルヴィスと一緒の居室を与えられている。やや大きめのベッド、それと小さな机と椅子が置かれただけの部屋だが、充分に落ち着ける空間だ。

 二人で同じベッドに腰掛けたまま、本を読んだりもできる。

 空中に漂っている灯りは、ルヴィスの魔術によるものだ。


「ルヴィスのために、またお菓子を用意しておいてくれるって」


「そっかぁ。伯爵様には、ちゃんとお礼を言わないといけないね」


 双子は肩を並べて、同じ毛布に包まっていた。膝には一冊の本が乗せられている。

 豪華な装飾がされた分厚い本は、庶民では触れることすら躊躇われる。ヴァイマーが貸してくれたものだ。子供向けの物語が書かれている。少々複雑な言い回しや、難しい単語も含まれていて、楽しく勉強をするには良いかも知れない。

 ただ残念ながら、騎士と海賊の冒険譚というのは、双子姉妹の趣味には合わなかった。


「なんでこの人、冒険なんかに出たんだろ? 恋人にも止められてるのに」


「海賊の財宝に目が眩んだんじゃない?」


「でも騎士なんだよ。真面目にお仕事してればいいのに」


 けっこう辛辣なルヴィスの言葉を、ヴィレッサはぼんやりと受け流す。今度は恋物語を借りてこようかな、なんて考えながら文字を目で追っていた。

 ふと本の厚みに目を移して、なんとなしに呟く。


「春までには読み終わるかな」


 ルヴィスの指が、ページをめくろうとしたままピタリと止まる。


「そうだね……もうすぐ、冬が明けるんだね」


「ん……?」


 急に沈んだ声を漏らして、ルヴィスは肩を縮めた。

 ああそうか、とヴィレッサも思い至る。

 春になれば、また二人の生活は変わる。戦火に焼かれたウルムス村の復興が始まるのだ。それ自体は喜ばしい変化で、待ち侘びていたことでもある。


 ただ、どうしても痛ましい光景が脳裏を過ぎってしまう。

 親しい人の命がいくつも奪われた。

 理不尽な暴力に立ち向かうことすら出来なかった。

 子供であろうとなかろうと、そう簡単に忘れられる事件ではなかった。

 それに―――。


「私たちも一緒に行ければいいのに」


「それは危ないから。ルヴィスだって納得したはず」


 肩から落ちた毛布を掛け直しつつ、ヴィレッサはルヴィスの頭を撫でた。

 一言で村の復興と言っても、子供が手伝えるような作業ではない。荒野とも言えるような場所で、魔獣や夜盗への警戒も行いながら、家を建てて土地を拓いていくのだ。

 大変な苦労と危険が伴う。

 復興へ向かう第一陣にはシャロンも加わるが、ヴィレッサとルヴィスは街への居残りが決まっていた。


「あたしたちが泣いてたら、シャロン先生だって困るよ」


「……分かってるもん」


 ルヴィスは膝を抱えて唇を尖らせる。言葉とは裏腹に、ちっとも納得できていないような態度だ。

 だけど無理もない。まだ八才の子供なのだ。

 一時でも母親と離れるとなれば、寂しさを覚えるのも当然だった。


「ん~……そうだ!」


 軽く目を見開いて、ヴィレッサは枕元へ手を伸ばした。

 そこにはいつも羽織っている真っ赤な外套、『赤狼之加護』が畳んで置かれていた。


「二人きりになっても、いいこともあるよ」


「……例えば、どんな?」


「夜更かしして遊んでも怒られない」


「もう! そんなのお姉ちゃんだけ―――」


 声を荒げようとしたルヴィスだが、その顔の前に小さな袋が突き出された。

 微かな甘い香りを漂わせる小袋を、ヴィレッサが開いてみせる。


「こっそり、こういうお菓子だって食べられるよ」


 掌に乗るくらいの小袋の中には、色とりどりの星粒が詰まっていた。

 可愛らしい砂糖菓子に、ルヴィスも目を輝かせる。


「わぁ。なにこれ、可愛い!」


「金平糖。ヴァイマー伯爵からもらった」


 ヴィレッサは小さな指を伸ばして、星粒を口へ運ぶ。

 ルヴィスも同じようにして、仄かな甘味に頬を緩めた。


「シャロン先生にも渡すように言われてたのに、忘れてた」


「もう。ダメだよ、そんな大事なこと忘れちゃ」


「うん。甘い物は大事だよね」


「そうじゃなくって。伯爵様と会えるだけでもすごいことなんだよ」


 ああそっか、とヴィレッサは頷く。身分の違いなんて本当に忘れかけていた。


「でも、ただの子供好きのおじさんだよ?」


「あのね、お姉ちゃん。そんなこと他の人に言ったらダメなんだからね」


 唇を尖らせるルヴィスだが、さっきまでの沈んだ表情は消えていた。

 ヴィレッサも頬を緩める。金平糖を一粒摘んで、


「言いそうになったら、ルヴィスが注意して」


 またルヴィスに叱られそうになる。だけど、その口へ金平糖を放り込む。

 そうしてヴィレッサは、毛布を被って横になった。

 今日はお昼寝もしていなかった。雪合戦もしたので疲れている。


「おやすみ」


 短く告げると、睡魔に引かれるままに目を閉じる。

 枕代わりに畳んだ外套の下から、硬い感触が頬に当たった。

 だけど不快感はない。頼もしい相棒の存在は、むしろ安心感を与えてくれていた。

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