第三十七話 やっと到着!
カーブの度にカウンターを当てながら走っていく、ユーラットから神殿に向かう道を爆走している。
ナビにはスタートからの時間がカウントアップされている。スマートグラスはかけないで記憶を頼りにFITを走らせている。
つづら折りのような道が続いているが直線の長さやカーブの深さが微妙に違うので当てるカウンターや速度を微調整する必要があるのだ。
事故を起こすことなく神殿の広場に辿り着いた。広場は一部整地されているだけの状態になっている。
ヤスは頭の中で整備計画を考えていた。
リーゼの家とギルドを作る必要がある。何人が移住してくるかわからないがある程度の家が必要だろう。孤児院も必要になる。孤児院は想定では50名のはずだが、学校の様にする事を考えると”寮”を作るのがベターだと思っている。
従業員の契約を了承してくれる人が居たら、車の運転を教えなければならないし、練習する場所も必要だろう。
交換リストの中にカートがあった事で、カートの為のコースを作る事はヤスの頭の中では確定した事だ。日本に居たときには実現する事が難しかった高低差まで完全に再現した世界の名物コースを再現しようと考えていたのだ。国内コースも覚えている限り再現していくつもりでいる。
場所は広場を拡張すればいいと思っているし、山の斜面を利用したラリーコースも欲しいと考えていた。普通免許で乗れるバギー車も交換リストの中に見つけている。
広場を横切って神殿に到着した。FITを地下一階の車庫におさめた。
1階に戻るとメイド服を着た女性が一人立っていた。
「え?」
「おかえりなさい。マスター」
綺麗に頭を下げる。
「誰?なんで?」
『個体名セバス・セバスチャンが連れてきた識別名ドライアドです』
「セバスの眷属?」
『個体名セバス・セバスチャンの眷属では有りません。現在識別名ドライアドは神殿配下になっています』
ヤスがマルスと話をしながら把握できた事は、
マルスが成長を促進させて人型になるまで強化したのだ。
ドライアドをこの場に呼んだのはマルスなりの考えが有ってのことだ。神殿にヤス以外の人間を迎える事が決定している。それだけではなく、広場までは多くの人が出入りできる状況になる事が考えられる。そのためにも、ヤスの身の回りを世話する者と神殿の窓口は別にしておく必要を感じたのだ。
マルスが考えた方法が、セバスが神殿の外交的なことを担当して、ヤスの世話をドライアドに担当させたいという事だ。
「わかった。それで、俺はどうしたらいい?」
『名前を与えて、眷属にしてください』
「いいのか?」「もちろんです。マスター。よろしくお願い致します」
ヤスはメイド服を着たドライアドに確認をするが、ヤスが全部のセリフを言い終える前に了承の返事をする。
ヤスはドライアドを観察した。メイド服はマルスが着せたものだろう。ピンク色の髪の毛で頭頂部が黄色になっている。顔の作りは美形なのは間違いない。芸能人で例えると・・・。ヤスの知識の中には該当する人物は居なかった。声は、坂本真綾のようだ。少しおっとりとした話し方をする。
「(うーん。樹木の名前なんてわからないからな。なんとなく知っている樹木の名前でいいかな)ツバキ」
「!!」
名前を受け入れて眷属になったようだ。
セバスのときと同じだったので今度はセバス・セバスチャンのようなミスはしなかった。
「マスター。私ツバキは、マスターに絶対の忠誠を誓います。よろしくお願い致します」
ツバキが頭を下げる。
「マルス。ツバキを頼む。神殿の事や俺の説明を頼む。料理とかはまだできないだろうけど・・・。そうだ!ラナが来たら教えてもらえばいいのか?」
ヤスは、マルスにエルフの一部が神殿の広場に住む事になったと説明した。エミリアを通して情報は伝わっていたのだが、ヤスからの説明をマルスは黙って聞いていた。
同じ様に、ギルドの出張所ができる事も説明した。
「マルス。ツバキ。疲れたから俺は寝る。起きたら広場の整備を考える。その間にFITの整備を頼む。おやすみ」
ヤスは言いたい事だけまくしたてるように告げて寝室に移動してしまった。
眠かったのは本当だが、マルスにした説明がエミリアを通してマルスに伝わっている事を思い出したのだが途中で辞めるのも格好がつかないので最後までしたのだが恥ずかしくなってしまって、この場を離れたかったのだ。
エレベータに消えるヤスをツバキは静かに見送った。
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1階に残される形になってしまったツバキはマルスに問いかける。
「マルス様。私はどうしたら?」
『まずは、地下1階に移動してください』
「わかりました」
地下には先程までヤスが運転していたFITが置かれている。
整備する場所はなさそうだ。砂や泥で汚れたFITは洗車を教えるのにはちょうど良かった。
マルスは、ツバキに洗車する様に伝えてやり方を説明していく。ディアナが制御している為にドアを開けたり動かしたりする事は問題にならない。
荷台は汚れていた。木箱を積んでいたので、安全運転していても木くずが出てしまっている。積んだりおろしたりしたときに木箱同士がぶつかっているので当然の事だ。
ツバキは、セバスに与えられた討伐ポイントとマルスから提供を受けた魔力ポイントで魔法を取得していた。
生活魔法なのが洗車にも使える事はマルスが把握していた。
洗車をして車内を綺麗にした。
「マルス様。木箱が一個残されていますがどうしますか?」
『マスターの荷物ではなさそうです。識別名エルフ族か識別名ギルドの持ち物でしょう。1階に運んでおきましょう』
「わかりました」
マルスはセバスと整理した物資の状況をツバキにも説明した。
ヤスの居住区の管理をツバキが行う事になるのだ。把握する必要がある。
「マルス様」
『一人では無理ですか?』
マルスはツバキの困惑を認識して先回りした。
「はい。マスターの護衛はセバス・セバスチャンや眷属が行うのでしょうか?」
『そうなります。神殿の中に居るときには、個体名ツバキが護衛役です』
「料理番やアーティファクトの管理役が必要です。マスターの配偶者様が来られたら洗濯や掃除係が必要です」
『そうですね。個体名ツバキは個体名セバス・セバスチャンができるような眷属を呼び出す事はできますか?』
「できません。分体を作る事はできますが、能力が著しく下がります」
『それは、今の個体名ツバキには無理という事ですか?それとも、種族的にできないという事ですか?』
「今の私にはできません。眷属は種族的に無理なのですが、同格の分体を作る事は格が上がればできます」
『わかりました。マスターが起きたら、個体名ツバキの格を上げる許可をもらいましょう。魔核の摂取でも可能ですか?』
「魔核の吸収でも可能ですが、神殿内部の討伐を行う方が分体スキルの向上に繋がります」
『わかりました。神殿内部でしたら、マスターのご許可無く討伐を行う事ができます。まずは、分体ができるまで魔核を吸収して、その後は神殿内部に個体名セバス・セバスチャンの眷属と一緒に討伐に赴いてもらいます』
「ありがとうございます」
マルスは、ツバキの強化計画を立案する事にした。
分体ができるようになれば神殿内部には最低限の人員で細やかな対応ができるようになると考えた。
当初は、セバスの眷属や魔の森に居る魔物を眷属にしてヤスの身の回りの世話をやらせるつもりだったのだが、思った以上に都合がいい人材が手に入った。ヤスの眷属は二体だけだが、セバスは複数の眷属を使う事ができる。そのために外部的な対応を行わせるのには都合がいい。
ツバキは分体という能力でツバキ自身が複数存在する事になる為に内部の作業を行わせるのには都合がいい。
神殿全体をマルスが管理する。
アーティファクト全体をディアナが管理する。
ヤスの身辺警護はエミリアが担当している。セバスの眷属は見た目の問題として護衛をつけているだけで抑止力と言ってもいいだろう。
マルスとディアナとエミリアは、ヤスだけが存在すればいい。
ヤスの存在が自分たちの全てだと認識しているのだ。
ヤスの眷属となったセバス・セバスチャンやツバキも便利な道具以上の価値は感じていない。
特にマルスはユーラットから
ヤスが惰眠を貪っている最中にもマルスは情報を溜め込んでいる。
ヤスの為に自分たちに何ができるのか、ヤスに喜んでもらう為にただそれだけのために動き考えているのだ。
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