第三十六話 依頼達成?


 セバスたちはすでに魔の森に移動を開始して、ヤスから離れていた。

 ヤスはセバスたちを見送ってから神殿に移動する事にしたようだ。


「ヤス!」


イザークがヤスのアーティファクトに駆け寄ってきた。


「どうした?」


 ヤスは窓を開けてイザークに答えた。


「すまん。ギルドのドーリスが宿屋に来て、ヤスに相談したい事があるらしい。それに、依頼達成の手続きをしていないだろう?」


「依頼達成?」


「アフネス殿からの依頼を受けたのだろう?アフネス殿がギルドに完了報告をしていたぞ?」


「え?あっそうなのか・・・。わかった。ありがとう」


 ヤスは窓を閉めてエンジンを停めた。

 イザークと一緒にギルドに向かった。


 アフネスはすでに宿屋の中に引っ込んでいてロブアンとなにか相談しているとイザークが説明した。


「ドーリス。ヤスを連れてきたぞ!」


「あ!ありがとうございます!ヤス様。ご相談した事がありますが、まずは依頼の完了報告をお願いします」


 ヤスは、受付まで歩いていってドーリスの前に置いてある椅子に座る。


「それでどうしたらいい?」


 アフネスからの依頼は口頭で受けただけで”ギルドの依頼”になっているとは思っていなかった。

 そのために、手続きと言われてもわからないのだ。


「そうでした。これにサインしてください。それで終わりです」


「え?」


 提示された羊皮紙には、アフネスからの依頼内容と完了している事が書かれていた。


 ヤスは、ドーリスに言われるままにサインをした。


「ありがとうございます。これで依頼は”達成”です。それで、ヤス様。少しだけ時間を頂いてもよろしいですか?」


「俺か?もう帰るだけだから時間はあるぞ」


「良かったです。少しお時間をいただきます。それで別室でお話をしたいのですがいいですか?」


「わかった。あ!」


「え?なんですか?!」


「いや、すまん。これの換金を頼みたい」


 セバスから受け取った魔核を思い出して、ドーリスに渡した。


「これは?」


 袋を受け取ったドーリスは軽く中を見て魔核である事を認識してからヤスに魔核の出どころを聞くために問いかけた。


「領都からユーラットに来るときに倒した魔物の魔核だ」


「え?」


「換金できないのか?」


「いえ、できるとは思いますが・・・。ヤス様。魔核は何個ほど入っていますか?」


「正確には数えていないが。150個を越えていると思う」


 正確な数は覚えているのだがなんとなくごまかしたほうがいいだろうと思って咄嗟に150個と答えた。


「わかりました。鑑定してから査定を行います。それから試算して買い取りですので時間がかかりますが問題ありませんか?」


「大丈夫だ。時間がかかるのなら置いて行く。試算が完了するくらいにまた来るぞ」


「いえ、そこまでは必要ありません。別室でお話をしている最中に終わります」


 ドーリスはそう言って近くに居た受付に指示を出す。大至急で行うように命令口調で追加指示を出している。そして、自分たちが判断できなければダーホスを呼んで判断を仰ぐように言いつけてから、ヤスを別室に案内した。


 ほぼ全ての受付が魔核の査定に繰り出してしまったために、お茶を出す者も居なくなってしまった。

 お茶が出ていない事に気がついたドーリスが自らお茶を入れに行った。ヤスは、別に必要ないと言おうかと思ったが時間稼ぎでもしているのかと考えて黙って居る事にした。


 5分くらいしてからドーリスが紅茶を持って部屋に戻ってきた。


 ヤスは出された紅茶を一口飲んでからドーリスを見るが、ドーリスから何も言いそうに無い。


「はぁ・・・。それで、何か話があるのだよな?」


 ドーリスが言いにくそうにしているのはわかるがそれでは話が進まないとヤスは更に突っ込むことにした。


「ドーリス。話が無いのなら俺は神殿に帰るぞ?」


「・・・。ヤス様。いくつか確認したい事があります」


「なんだ?」


「まずは、アフネス様の依頼をお受けになったとの事ですが、内容が領都に居るリーゼ様への伝言となっています。これは間違いありませんか?」


「あぁ間違いない。アフネスから依頼されて、リーゼに言葉を伝えた」


「ありがとうございます。ユーラットから領都の間には、大量の魔物が居たと思いますが?」


「ユーラットから領都に行くときには少しだけ見かけたけど、帰りはほとんど見なかったから誰かが討伐したと思っていたのだけどな?」


「ヤス様。それでは先程の魔核はどうされたのですか?」


「あぁ眷属たちが集めてくれた物だ。神殿の機能で眷属にする事ができた者たちが魔物を倒してくれたからな」


「え?それでは、ヤス様の眷属がスタンピードをおさめたのですか?」


「違う。違う。眷属たちは、神殿の周りに居た魔物を倒しただけだ」


 嘘ではない。

 神殿の領域の周りに居た魔物をセバスの眷属たちが倒したのだ。それはスタンピードで湧き出した魔物である証明はヤスにはできない。


「はぁ・・・。スタンピードの件は、本筋ではないのでこれ以上は追求しませんが、ごまかすにしてももう少しだけ事情を把握されたほうがいいと思います」


「なんのことかわからないが、忠告は素直に聞いておくことにするよ。それで本題は?」


「そうでした。ヤス様。神殿にギルドの出張所を作る許可を頂けませんか?」


「え?どういう事?」


 予想していた事ではなかった事もあり、ヤスは素で聞き返してしまった。


「言葉通りです」


「それは、リーゼやエルフ族が神殿に移住を計画しているからなのか?」


「え?そんな事になっているのですか?」


「え?違うの?それじゃ領都の冒険者ギルドからの指示?」


「いえ、違います。ダーホスの独断です。それに私が乗っかった状況です」


「うーん。ギルドがある事のメリットがあまり考えられない。俺にメリットはないよな?」


「え?ありますよ?」


「どんな?」


「ユーラットではそれほど恩恵は有りませんでしたが、神殿を抱える別の場所では、神殿から出る素材を他の場所に運ぶ事で潤っています。そのときに、他の街にあるギルドの依頼で物資や素材を運ぶ事があります。今のままですと、ヤス様がユーラットに来られたときにした依頼をする事しかできません」


「うーん。でも、それってギルドや物資や素材が欲しい街のメリットで俺や神殿のメリットじゃないよな?」


「素材や物資を売るので、売上がメリットです。支払いもギルドを経由しているので問題になりません。ギルドがあれば、冒険者を連れてくる事も可能です。それに、他の街や国の情報も入ってきます」


 ヤスとしても情報は欲しいが、交換機が手元に来たので、交換機をマルスに解析させれば情報を抜き取る方法ができるかもしれないと考えている。

 それだけではなく、エルフ族の情報網も使える可能性を考えていたのだ。


「わかった。情報は別にしてギルドがある事のデメリットが少ないと思うから、許可するが誰が来る?」


「私です」


「え?ドーリスがギルドマスターになるの?」


「そうなります」


「わかった。神殿の入り口の近くの方がいいだろうから、場所を用意する。広さはユーラットのギルドと同じくらいでいいよな?」


 今度は、ドーリスが慌てだす。許可をすぐに貰えるとは思っていなかったのだ、数回の交渉をして初めて許可が出ると思っていたのだ。許可が出てからギルドの場所や広さの話になると思っていたのでヤスがいきなり場所や広さを決めた事でびっくりしてしまったのだ。


「え?はい」


「わかった。リーゼも移住してくる事になっているから、リーゼたちが来たら相談してくれ、そう言えば住む場所も必要だよな?宿なんて無いからな。あっラナが居るから宿屋をやってもらえばいいのか?それでいいか?慣れてきたら家を作るなりすればいいよな?」


「あっ・・・。お願いします」


「わかった。俺もドーリスがギルドマスターなら安心できる。頼むな」


「はい!」


 ヤスは立ち上がって手を出しだす。

 ドーリスは何を意味しているのか解って差し出された手を握り返した。


 ドーリスは話が長引くと思っていた。

 二人が部屋からでたらギルド内は戦場だった。ヤスが持ってきた魔核の鑑定が進んでいなかったのだ。


 通常ヤスが持ってきた大きさなら魔物の種類はそれほど多くは無い。ドーリスも150個と聞いてゴブリンやコボルトと言った小型の魔物だけだと思ったのだ。そのために鑑定もそれほど時間がかからないと思っていた。ちらっとだけ確認したときにもヤスが持ってきた魔核は小さい物が多かったこともドーリスに見積もりを間違わせる要因となった。魔核は小さいが多くの種別の魔核が混じっていたのだ。同じ色とサイズでも、鑑定したら亜種や上位種と出る魔核も多く含まれていた。余計に鑑定に時間がかかってしまっていたのだ。


 ドーリスは状況を確認して、ヤスに2日後にまた来て欲しいとだけ伝えて、鑑定と試算の作業に入っていった。


 ヤスは黙ってギルドを抜け出すように出て、裏門からFITに戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る