第三十五話 ユーラットとの関係

注)話数が間違っていました。


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 正門から飛び出してきたイザークが見えたことで、ヤスはFITのアクセルを緩めた。


「ヤス!」


 イザークは、アーティファクトをヤスが操作している事がわかっているので、アーティファクトの近くまで駆け寄って声をかける。


「イザーク?何かあったのか?」


「”何か”って、ヤスが街道から来たから驚いただけだぞ?ヤス神殿に行ったよな?」


 ヤスはイザークからの疑問を聞いて納得した。

 たしかに領都に向かう時に、ユーラットを通過していない。イザークが疑問に思うのは当然の事なのだ。


 ヤスが神殿を把握したと納得していても、神殿から街道に”馬車”で抜けられる場所はユーラットを通過する方法しか無いと思われている。事実ヤスが抜けた斜面を馬車で駆け降りるのは不可能だと思われる。アーティファクトを使っても無理だと考えていた。


「あ・・・。夜中に神殿の領域内を通って街道に出たからな。ユーラットに寄る用事もなかったから寄らなかっただけだ」


「・・・。そうか・・・。まぁいい。それで今日は寄っていくのか?」


 イザークはヤスの言葉を信じては居なかった。

 自分や同僚が暗かったといってヤスのアーティファクトを見逃すわけがないと自信を持って言えるのだ。神殿の領域内を通ったと言っても道があるのはユーラットの近くだけだ。絶対とは言わないが、他に道がない事はイザークなら把握していても不思議ではない。


「あぁアフネスに伝言があるし、ユーラット・・・。いや、リーゼに関係する事で問題が発生したからな」


「わかった。いつもの場所に停めてくれ、俺はアフネス殿の所に行く」


「わかった」


 イザークは控えていた門番に声をかけてから宿屋に走った。ヤスがアフネスの所に行くまでの時間はおおよそ見当がついている。その前に到着できるとは思っていなかったが、ヤスとアフネスが話をしている最中には宿屋に到着したいと考えていたのだ。


 イザークが急いでいる状況だと知らないヤスはゆっくりとした速度で裏門に移動をしていた。

 裏門の駐車スペースに到着して車から降りた。


「マスター。お疲れ様です」


「セバスか」


「マスターがご帰還されるとマルス様から聞きましてお待ちしていました。それと、マルス様からマスターに渡してほしいと言われている魔核もお持ちしました」


「魔核?」


「はい。魔物の掃除を致しました眷属が集めた物です。マルス様の指示で大きい魔核は神殿にて保管・吸収致しました。換金しやすい魔核を残しましてお持ち致しました」


 ヤスはセバスから魔核が入った袋を受け取った。

 思った以上に重かった事から相当の魔核があると思われる。


「数は?」


「679個です」


「多いのか?わからないからまぁいい、アフネスかイザークかダーホスに聞けばわかるな。ありがとう」


 セバスが頭を下げてから戻ろうとした。


「セバス。ユーラットの中まで荷物を持っていく事ができるか?」


「荷物ですか?」


「FITに積んである荷物を持っていきたい」


「大丈夫です。数があるようでしたら眷属を呼び出します」


「そうしてくれるか?大事な荷物だから丁寧に運びたい」


「かしこまりました」


 荷物の数だけの眷属を呼び出したセバスは、FITの荷台から積んできていた荷物を受け取っている。


「マスターその荷物は?」


「これは、いい。神殿に持っていく」


 孤児院の子供の荷物だけは神殿に直接運ぶ事にしたのだ。大人や家族者はユーラットに残る者も居るだろう。ヤスは孤児院に関係する者は神殿につれていくつもりで居た。


 裏門を開けて中に入る。

 セバスたちには裏門で待っているように告げた。


「アフネス!」


 宿屋に居たアフネスに声をかける。肩で息をしていたイザークが宿屋に来ていた。


「ヤス。何か有ったのか?」


 アフネスがイザークに水を渡しながら聞いてきた。


「詳しい話は、ミーシャやラナから聞けばいい。領都からリーゼと一緒にこっちに向かってきている」


「そう・・・。それで?」


 アフネスは、の意見を聞きたいようだ。

 アフネスの表情から説明をしないと話をすすめる事ができないと判断したヤスは、アフネスの依頼を達成するためにリーゼに伝えた辺りからのことを説明した。


「そう・・・。領主の馬鹿息子が、リーゼ様に目をつけたのね」


「あぁ詳しい話は聞いていないが簡単に言うとそうなる」


「それで、スタンピードは?」


「領都から帰ってくる時には魔物は居なかった。イザークたちが倒したのではないのか?」


「・・・。ヤス。いくらなんでも・・・」


 アフネスが少し呆れた顔をしてヤスを見るが、ヤスとしては真実を告げる気分ではないしこれからも秘密にすると決めている。


「なんだよ?実際に居なかったのだからしょうがないだろう?多少の魔物は倒したけど、それだけだぞ?」


「はぁ・・・。そういう事にしておきましょう。それで、リーゼ様は神殿で匿ってくれるのよね?」


「・・・。やっぱり、そうなるよな?」


「最善の方法だと思うけど?領主や国王でも神殿には手を出せないしスタンピードを一人でおさめてしまうような人とは敵対したくないと考えるのが普通だと思うわよ」


「スタンピードの件は俺じゃないけど・・・。わかったリーゼと孤児院は神殿に移住してくれ、他に神殿に移住したいと言う者が居たら受け入れる。ロブアン以外なら歓迎しよう」


 ロブアン以外という所で、アフネスとイザークは苦笑するがヤスは至って本気だ。

 わざわざ面倒な事になるとわかっている者を受け入れるわけが無い。それに、アフネスはユーラットに残るだろうと予測していたのでロブアンだけが来る事は避けなければならない、ヤスとしては絶対的な条件なのだ。


「そうね。ヤス。一つお願いしていいかしら?」


「できる事なら問題ないぞ?」


「是非承諾して欲しい」


 アフネスは一旦ここで言葉を切って、近くにいたイザークに裏門で待機しているセバスを連れてきてもらう様に伝えた。

 ヤスが荷物を持ってきていて、裏門に眷属を待たせていると言ったからだが、それ以上にイザークに聞かせたくない話があるようだ。


「アフネス。イザークには聞かせられないのか?」


「そうね。できれば、ヤスにも秘密にしておきたいのだけど、どうやら・・・(ヤスは気がついているようだとミーシャとラナから報告が来ているから・・・)」


 最後は声が小さくなってヤスには聞こえていなかった。


「それで?」


「魔通信の”基地局”を神殿に預けたい」


 アフネスは戸惑うことなく直球でヤスに伝えた。

 ヤスの目を正面から見つめて何時に増して真剣な表情だ。


「わかった。アフネスとリーゼ以外には誰にも触らせないことを誓おう。それでいいか?」


 ヤスが質問もしないで即答した事に少しだけびっくりした表情をしたアフネスだが、表情を戻して頭を下げる。


「ありがとう」


 アフネスは断られる事も想定していたのだが、ヤスから二つ返事を貰えた。それだけではなく満点に近い言葉をもらう事ができた。

 ヤスを完全に信じているわけではないが、疑うべき要素が無いもの事実だ。


 トリガーは自分が持っているので、ヤスが”魔通信”の基地局に細工をするのは無理だと判断している。

 リーゼを神殿に張り付かせる事ができる口実ができるのだ、アフネスとしては最良の結果と考えてもいいだろう。


「それで、その基地局は宿屋の地下か?」


「え?」


「違うな。通信を行うことを考えると屋上か屋根裏か?」


「・・・。ヤス。(やはり、あの人と同じ?)」


 交換機は、ヤスの予想通り屋根裏に置かれていた。

 細かい事はアフネスにもわからないと言っていたが、魔力がありアンテナが3本立っていればどこに置いても問題ないと教えられた。


 ヤスは、交換機の仕組みはわからないが、マルスに見せれば何かがわかるかもしれないと考えていた。


 ちょうど、荷物を持ったセバスたちをイザークが連れて宿屋に来たので、交換機の話はここまでとなった。


 ミーシャたちの荷物は宿屋で預かる事に決まった。

 ヤスは、セバスを伴って神殿に帰る事にした。


「イザーク。悪いけど、荷物を部屋の中に運んでくれるかい?」


「どの部屋か・・・。ロブアンに聞けばいいか?」


「そうね。二階の一番奥の部屋なら大丈夫だと思う」


「わかった」


 セバスたちが置いた荷物をイザークが順番に運んでいく。

 ヤスに少しだけ待って欲しいと告げて、アフネスはイザークと案内して宿の二階に上がっていった。


 アフネスが戻ってきた時には、1メートル四方もありそうな箱を持ってきていた。中に交換機が入っていると伝えられた。


 箱から中身を取り出してボタンを押せば起動する。

 問題がなければアンテナが立ち上がると簡単な操作方法をヤスに教えた。


 イザークが荷物を運んでいる間にヤスは宿屋からでて、裏門に向かった。

 交換機はセバスが持っていく事になった。FITに積み込んで、ヤスが運転席に乗り込んだ。


 セバスたちはそのまま魔の森に移動して魔物の調査をしてくる事にしたようだ。

 ヤスの眷属にすべき魔物が居るか調べるようにとマルスから命令されていたのだ。


 セバスと別れたヤスは、神殿に向けてハンドルを握った。

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