第十一話 到着?


「ヤス。道違うよ。こっちじゃないよ?」


「そうだな。でも、リーゼを助けたのはこっちの道だぞ?」


「え?そうなの?」


「あぁ間違いない。アーティファクトで通った道は覚えている」


「それじゃ、僕の間違いだね。ごめん」


 ヤスは運転しながらリーゼの顔を見る。

 少し驚いた。素直に謝るとは思っていなかったからだ。


「その先は?」


「え?」


「だから、しばらくはまっすぐでいいよな?」


「うん!後は、太い道を進めば間違い無いはず」


「わかった」


 ヤスは少しだけアクセルを緩める。

 バンプが激しくて、FITが左右に揺られるのだ。ナビはまだ使い物にならない。


 ナビに映る赤い点が気になっては居るが無視する事にした。


「リーゼ」


「ん?なに?」


「疲れたら言えよ」


「うん。大丈夫だよ。馬車より疲れないよ!」


「そうだ、馬車で思い出したけど、馬車での移動の時には、どのくらいの頻度で休む?」


「うーん?どうだろう?僕もこの前が初めてだったからよくわからなかったけど、昼に少し休憩して、あとは日が暮れる寸前まで移動していたよ?」


「そうなのか?馬車の中では移動とか身体を動かしたり運動したりできるのか?」


「ううん。座っているだけ、何もする事無いし・・・。下向いていると気持ち悪くなっちゃうから、寝ているか・・・。商隊の人と話をしていた」


「冒険者・・。護衛も同じなのか?」


「護衛の人たちは、御者の横と外に居たよ。交代で馬車の中で休んだりしていたよ」


「・・・。そうか・・・。そうだ!リーゼ。トイレとかはどうしていた?」


「ヤスのエッチ!」


「そう言われてもしょうがないけど、排泄は必要だろう?」


「うん。だけど、生活魔法で抑えられるから、休憩地点までは我慢していたよ?おばさんにもそうしなさいって言われたからね」


「そうな・・のか?」


「うん」


「生活魔法なら俺にも使えそうだな・・・。どうやって使う?」


「え!ヤス。生活魔法を知らないの?」


「あぁ忘れてしまっていた。リーゼに教えてもらおうかな?」


「いいよ!領都で美味しいごはんをおごって!」


「わかった。交渉成立な!」


「うん!」


 途中でナビにあるマークが示される。

 リーゼを乗せた場所だ。


「リーゼ」


「ん?なに?」


 リーゼは朝からワクワクしていた遠足前の小学生の状態だった為に、ヤスが気を使って速度を緩めて走っていた事や窓を締め切って適温になるようにしていた。結果ウトウトを通り越しそうになっていたのだ。


 慌てて起きて、ヤスに答える姿が可愛かった。


「あっそろそろ、お前を拾った場所だけど、何かするか?」


「何かって・・・。何をするの?」


「ん?手を合わせたり何かをお供えしたりしないのか?」


「うーん。手を合わせる?何か意味があるの?」


「あぁ死んだ者への感謝は違うな。祈りのような事はしないのか?」


「うーん。ヤスの所じゃそんなことをするの?」


「そうだな。墓参りとかするぞ。祖先・・・。自分を産んでくれた両親や家族に感謝を伝えるためにな」


「へぇ変わった風習だね。僕は聞いた事がない。祈りを捧げることはあるけど・・・。それだけかな。それも、親しい人の時だけだよ」


「わかった。それなら止まる必要はないよな?」


「うん!何か残っていてももう誰かが持っていただろうし、倒したゴブリンも他の魔物が食べただろうから残っていないと思うよ」


 ヤスは、異世界に来ているのだと実感した。

 命の値段が安い事は想像していたのだが、当たり前のように言われるとやはり異世界なのだと感じているのだった。


「そうか、それじゃ休憩は必要ないな?」


「うん。大丈夫だよ」


 会話がなくなると、リーゼがウトウトし始めた。

 領都が近づいて来たのか、ナビに人族を表す点が表示され始めた。


 ヤスはFITを停めて、ナビの動きを見ている。

 人族を表す点が一定方向に向かって進んでいるのが解る。その方向に、領都があるのだろうと予想した。


”エミリア”


”はい。マスター”


”リーゼが寝ているから念話にしたけど大丈夫か?”


”問題ありません”


”そうか。それでな。マルスに検索を依頼したけどできるか?”


”問題ありません”


”よかった。今俺がいる場所からから近くで人族が集まっている場所を調べてくれ”


”了”


 2分後


 ナビの表示が変わる。


”マスター。地図情報がありませんでしたが、人族が集まっている場所があります”


”その場所の表示は可能か?”


”可能です”


”表示してくれ、直線距離からの到着推定時間も出してくれ”


”了”


 ナビの画面に、平均速度で計算した場合の到着予測時間が表示された。


 17時には到着してしまうようだ。


(さて、リーゼを起こすか?)


「リーゼ!リーゼ!」


「ん?何?」


「よだれ」


「え?うそ!」


 慌てて口元を拭う仕草をする。


「ヤス!」


「ハハハ。ごめん。ごめん。気持ちよさそうに寝ていたところ、悪いけど少し教えてくれ」


「え?あっうん。何?」


 ヤスは、領都への到着が17時くらいになると説明した。


 ヤスがリーゼに確認したかったのは3つだ。


「17時だと少し暗くなって、門の外には誰もいないと思うよ?」


「そうか、それならこのまま走っても大丈夫か?」


「領都なら、何時でも門番が居るはずだから、審査してもらえるよ」


「そうか、審査はアーティファクトのままでも大丈夫か?」


「大丈夫だと思うけど、ダメだったら冒険者ギルドのギルドマスターにわたす書類を見せればいいと思うよ」


「そうだよな。なんとかなるよな?」


「うん。ダメだったら、戻っておばさんかダーホスを連れてくればいいよ」


「それもそうか・・・」


 ヤスとリーゼは簡単に考えた。

 アフネスが1手打ってくれているとは考えていなかった。


 16時を少し回ったくらいで領都の外壁が見えてきた。


「リーゼ。リーゼ」


 ウトウトしていたリーゼに声をかけて起こす。


「なに?あ!!!!レッチュヴェルト!」


「そうか、領都で間違いないのだな」


「うん!本当に、一日で着いちゃう!ヤスのアーティファクトってすごいね!」


 ヤスはナビを確認するが、外壁の外に人族を表す点は存在しない。


”エミリア。外壁の位置を把握できるか?”


”周回していただければ可能です”


”わかった。人族の表示を切ってくれ”


”了”


 数えたわけではないが、数千の印が付いた状態ではナビが見えにくくなってしまう。


”エミリア。領都に入ってからのナビも可能か?”


”一度訪れた場所なら可能です”


”スマートグラスに表示する事もできるか?”


”可能です”


”頼む”


”了”


「ヤス?どうしたの?」


「あぁ気にしなくていい。少し今後のことを考えていただけだ」


「ふぅーん。それで、もう領都に向かうの?」


「そのつもりだ」


「わかった!」


 ヤスは少しだけアクセルを緩めて、FITの速度を下げた。

 音が思った以上に響いたからだ。


(外壁の高さは、10m位だな。重機も無くてよく作るよな?魔法があるから、それほど大変じゃないのか?)


 レンガではなく石を積み上げて、土で覆った感じの外壁を見てヤスは魔法で作ったにしろ建築法が確立しているのだなと変な関心をしている。


 外壁の手前20mでヤスはFITを停止させた。


 武器を構えた者たちが、アーティファクトHONDA FITを威嚇するように立ち塞がったのだ。

 人数にして15名ほどだ。ヤスは、結界を発動して襲われても大丈夫な様にした。


”エミリア。結界が破られたら検知できるか?”


”可能です”


”もし、結界が破られたらギアをリバースに入れて緊急発進”


”了”


 守備隊とヤスとリーゼが睨み合ってから5分くらいが経過した。


 一人の女性が守備隊の間を割って近づいてきた。護衛と思われる男性を一人だけ連れている。


「あぁ!!ミーシャ!」


「リーゼ。知り合いか?」


「うん!前にユーラットのギルドに居た人!エルフ族で、おばさんの事を”あねさん”と呼んでいた!」


(ふぅ・・・。アフネスが手配してくれたのか?少しは安心してよさそうだな)

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