第25話 胸のサイズと“いいこと”と

「あンた、少し胸が大きくなってない?」

 一緒にバスタブにつかっているとお母さんが急に私の胸を触りだす。

 急に触られてドキッとしたらお母さんは気付いた。

「母親に触られて、何をドキッとしてンの?」

「お母さんが急に触るからでしょ」

「ああ、ごめンごめン。それでどうなの?」

「うんと、今のしてるのはちょっときつい気はする…かな」

 着替えを思い出して、考えてからお母さんに返事をする。

「なら、お小遣いあげるから買っておいでよ。そろそろブラジャーの方が良さそうだし」

「新しいのかぁ…あんまりここで買いたくないなぁ…」

 村だと買う所が一つしかないから簡単にみんなに知られちゃうし。

 最近は静かになったけれど、私と毬乃は学校ではまだ目立っているからなにか言われそう。

 他の方法を考えて、私はいいことを思いついた。


 そして、その思いついた“いいこと”を私はずっと長い間、後悔することになる。


「お母さん、アウトレットパークまで買いに行っちゃだめかなぁ?」

「良いよ」

 あっさりとお母さんが許してくれた。てっきり遠いからだめって言うと思ったのに。

「どうせ毬乃ちゃンと行くつもりなンでしょ。あの子の方がしっかりしてるから二人で行くなら良いンじゃない。それに大きいところならちゃんとサイズを測ってくれるし。最初はそういう所の方が良いよ」

「ありがとう、お母さん!」

 うれしくて立ち上がった私をお母さんがじっと見て、ぷっと吹き出す。

「なぁに?」

「なンでも無いよ。毬乃ちゃンを思い出しただけ」

 毬乃を……考えて分かった。

「お母さんまで。私もう上がる!」

 私はバスタブから出て脱衣所に行こうとすると

「ちえ」

 お母さんに声をかけられて私は振り返った。顔にハンドタオルを乗せてお母さんは浴槽でくつろいでいるように見える。

「まだ無いの?」

「うん、ないよ。でも、私はない方がいいな。みんなは痛いとか大変みたいだし」

「そうはいかないの。来ないと病気の可能性もあるンだから。あンまり来ないようなら病院に連れて行くからね」

「分かった」

 病院と言われても私は気の無い返事をする。

「そうだ。パークの話は早めに毬乃ちゃンに話しときなよ。朝が早くなるンだから」

「はぁい」

 最初は成長が遅くて第二次成長が来てないって笑っていたお母さんが時々するようになった質問。

 毬乃やみんなと違って私にはまだ来てない。女の子の日が。

 保健体育で習っても勉強の話だし、まわりの話を聞く限り面倒なだけにしか思えない。

 お母さんに返事をしたとおりに来ない方がいいとしか思えない。

 だから私は考えるのはアウトレットパークのことにした。

 朝は学校に行くより早く行かないと汽車――お母さん達がそう言っているから私も同じように言っている――に乗れない。

 きっとお母さんかお父さんが車を出してくれると勝手に思う。

 村から離れて毬乃がちょっとでも気が抜けるといいな。



 アウレットパークに行く日の朝はお父さんが送ってくれた。帰りはお母さんが来てくれる予定。

 汽車――って言ったら毬乃に笑われた――の中でも毬乃はうれしそうに鼻歌を歌いながら足をぱたぱたさせている。

 最初はきょろきょろして不安そうだった。時刻表を調べてあったのに毬乃は毬乃のママに会わないか心配だったと汽車に乗ってから話してくれた。

「ちえはさー、どんなの買うつもりなの?」

 窓からの風を受けて気持ち良さそうな毬乃。気分は落ち着いたみたいだ。

「普通のかなぁ。見てから考えようかなって」

 想像しても毬乃とお母さんのしか浮かばない。クラスの子たちのは記憶に残っていない。

「へそまでぱんつはやめよーね。おこちゃま過ぎるかーらー」

 こっちを向いた毬乃はにやにやして、本当に楽しそう。

「うるさいなぁ。私はおこちゃまでいいよ」

 私は毬乃から顔をそらして窓の外を見る。今日はいい天気になりそう。

「向こう行ったら、どんなふうに回ろうかー。ちえのぱんつ選びは絶対でしょー」

「毬乃、声が大きい」

 腰を浮かせた毬乃は、客室の中をぐるっと見回す。

「誰もいないじゃん。気にしすぎだよー。それより行ったらさー。洋服とか小物もいっぱい見よーぜぃ!」

「うん。楽しみ。どんなのがあるかなぁ」

 家族で来た時はお母さんが飽きてしまってあんまり回れなかった。

 今回は毬乃と二人だから、ゆっくり回りたいな。

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