第26話 アウトレットパークと栄養士と
駅から専用バスに乗り換えて、やっとアウトレットパークに到着。
「さーて、どこから見ましょうかねー」
私の手をとった毬乃は、最初から行くところが決まっているようで、ずんずん進んで――案内板の前に立った。脇にある場内案内のパンフレット二つ取って一つを私にくれる。
「ちえのぱんつは…」
「ぱんつぱんつ言わないでよ。人が多いんだから」
「あっ、ごめーん。ちえのぱんつは荷物になるからランチのあとかな」
謝っているけれど話を聞いてない。広げたパンフレットを前に目をきょろきょろさせている。
私はパンフレットのお店の名前を見てもよく分からないや。
「名前見てもわかんないなー。よし! 片っ端から回る。それでいーい?」
「そうだね。私も分からないから歩いて見たいところに入ろうよ」
「よーし、しゅっぱーつ! おー! おー?」
右手を高々とあげた毬乃は、見ている私にもう一回、おーって言う。
「おっ、おー」
手を上げないといけないみたいだったので、顔ぐらいまで手を上げて小さい声で、おーって言う。
もっと大きな声って言うかと思ったけれど気にしていないのか毬乃は私の手を握って歩き出した。
パークの中は面白そうなお店が多くて毬乃と私はショーウインドウを覗いたり、中に入って小物を見たりした。
見たことの無いお菓子も売っていてなんでも買おうとする毬乃を止めたり、一つ買って半分こにして食べたりしていっぱい歩き回った。
お昼は洋食のお店で私はオムライスで、毬乃は熱いのにビーフシチューを頼んでいた。
「暑いのにビーフシチューなの?」
「お店の中、クーラー効きすぎなんだよー。寒いー」
今日の毬乃は白のノースリーブのブラウスにデニム時のスカート。下は厚めでも上が寒いのか両腕で身体を抱きかかえている。
「私のカーディガン貸してあげる。着ないよりましだと思うよ」
朝が早くて寒いと思った私は用意していたサマーカーディガンを毬乃に差し出す。
「借りる借りる。あーでもちえは寒くない?」
「寒くなったら返してもらうからいいよ」
「しどい。一生返しませんわ」
受け取った毬乃は、そそくさとカーディガンに手を通す。
「あー、一枚あるとぜんぜん違うー。ちえの匂いもするし、しやわせー」
「か、え、し、て」
「いつものおふざけじゃんかー」
私は本気じゃない。毬乃は本気かもしれないけれど。
毬乃が私のオムライスを味見して私も毬乃のビーフシチューを味見させてもらう。
「ビーフシチューおいしい。うちでも作れないかなぁ。暑いからお母さんが嫌がるかな」
「ちえが食べたいなら交換するよー」
「ううん、いい。オムライスもおいしいから」
自分で頼んだ食べ物はちゃんと食べないと。遊び食べはだめだってお父さんに言われている。
「ご飯はコショウとお塩とケチャップはトマトからってくらいは分かるんだけど隠し味に何を使ってるのかな…」
「ちえはさー。将来料理する人になったら? ご飯作るの上手だし向いてると思うなー」
「急にどうしたの?」
将来なんてまだ先のことだと思って考えたこともないから毬乃の言葉は唐突に思える。
「うちでビーフシチューとか、隠し味とか言ってるからさー。いーんじゃないかなーって」
「…口に出てた?」
「わたしには聞こえた。他のお客さんは聞こえてないんじゃない。でさーどう? 料理作る人」
周りを気にするよりも毬乃が顔を近づけてくる方が気になってしまう。
「無理だよ。私は料理が好きなだけだもん。目の前にお父さんってすごい壁があるんだよ」
「じゃあ、栄養士さんとかは。小学校の給食なんか栄養士さんが考えてたはず。みんなのためにご飯を考えるのは楽しーんじゃない」
「そんなに言うなら毬乃がなればいいじゃない」
「えっへへー、私は食べる専門。それにねーほら」
舌を出して笑う毬乃は、料理ができない。
と言うか刃物が持てない。野菜の皮をむくのに使うピーラーですら怖がる。トラウマだって言っているけれど理由はまだ話してくれない。
「お昼を食べたら、どこに行く?」
話をそらして私は毬乃に聞いた。帰りの汽車の時間もあるから夜までいたら帰れなくなる。
「予定どおりにちえのぱんつ買いに行くよー」
「声が大きいってば」
「ぱんつ買いに行くよー」
小さい声で毬乃が繰り返す。
「何回も言わなくていいから。買いに来たのはブラジャーだから」
「そんなの上下おそろいで買うのが普通なんですー」
思い出してみると毬乃はいつも上下おそろいの下着だった…気がする。
下着を見ているのは触っている時だから、ふわふわしてあんまり覚えていない。
「お店もセットで売ってるトコ多いよ。自分の目で見た方がいいから食べたら、ゆっくり見に行こう。毬乃ちゃんにお任せあれ、ちえに似合いそうなの選んであげる」
毬乃はぺちんと自分の胸を叩いた。
「ええぇ、不安だなぁ」
私の感想に毬乃は口を尖らせてぶーぶー言った。
そのうち、ぶひぃとか豚の真似をしたので大声で笑いそうになって大変だった。
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