3☆ちょっと待って! 衝撃の事実と急展開

 こたつテーブルの真ん中に置かれた、グツグツと美味しそうなごま豆乳鍋。その香りが漂う中、あたしは座布団の上で正座して隣に座るりっかを、横目でちらりと見やった。

 すると、りっかもあたしの視線に気づいて、同じ様にちらりとこちらに視線を向けた。

 一瞬バチッと視線が交わり、心臓がどきりと跳ねる。

 なんだよ、とでも言いたげなその表情。

 うーっ! なんか、気まずくて居たたまれないよこの状況! なんであたしが、こいつと桜門家の食卓を囲まなければいけないのよ!

 あたしたち二人の真向かいには、座布団の上であぐらをかいて座るじゅーおじいちゃん。

「さて、と。副交感神経が高まり気持ちが落ち着く効果のあるごま豆乳鍋をつつきながら、大事な話をするとしよう」

 ふくこうかんしんけい? あたしはなんの事かさっぱりわからなかったけど、隣に座るりっかが、

「確かに、十夜さんが今からする話は、確実にらなが怒る話ですもんね」

 とじゅーおじいちゃんの言葉に敬語をつかってうんうんとうなずいた。

 あたしが怒る話? ……いよいよ気になって仕方がない。

「「いただきます」」

 じゅーおじいちゃんとりっかが、手を合わせて鍋をつつき始める。お肉は豚肉。いつもはじゅーおじいちゃんとあたし、二人でのご飯に、今日はりっかが一人増えたから、少しばかり入ってるお肉の量が多い。

「あたしも、いただきます……」

 ふわりと湯気が立ち上り、お肉の美味しい味が、口いっぱいに広がる。

 うん、確かに、なんか心が落ち着くかも……

 しばらく無言でご飯を食べ続け、鍋の残りがわずかになったところで、じゅーおじいちゃんが口を開いた。

「らなちゃん。今まで隠しておったが、魔物の心臓を護るのは、桜門電器商会などではない。それはあくまでオモテの顔じゃ。わしは、ウラでは寿命屋、十夜で通っとる。今まで黙っていて、すまんかった。……りっか君は、泉の人間じゃ。じゃが、ある事情からわしはりっか君を、見捨てられなかった。この家でらなちゃんと一緒に、三人で暮らすことにした。それらは全て悪しき魔物が、魔物の心臓を狙うからじゃ。……今日からおまいらは、必ず二人で行動せねばならん──もう一度ちゃんと、手を組め」

「ゴフッ……う!」

 思わずお茶を吹きかけた。

「きったねーな」

 隣で顔をしかめるりっかの言葉も無視して、あたしはじゅーおじいちゃんに詰め寄る。

「なんでーっ!? おじいちゃんが、なんか普通の電器屋さんを営んでるだけじゃないって事は、魔物の心臓なんてモノが我が家にある時点で薄々気づいてはいたけども! なんで、あたしが、こんな失礼過ぎる男と手を組まなきゃだめなのー!? っていうか、一緒に住むって、じゅーおじいちゃんも一体何考えてるの!? ちょっと、待ってよ!」

 興奮して矢継ぎ早に問いただすあたしに、じゅーおじいちゃんは至極真面目な凛とした顔でこう言った。

「そうしなければ、悪しき者……魔物に、おまいらの魂にあたる寿が、狙われるんじゃ」

「えっ────」

 魔物? 本当に、魔物が、あたしたちの寿命を狙うの?

「魔物の心臓は、はるか昔に魔物の力によってつくられたものなんじゃ。その目的は恐ろしいものじゃ。じゃから、魔物が魔物の心臓を再びその手にしないように、わしらが、護らねばならんのじゃ」 

 つまり、桜門家と泉家は、元々は仲が良かったってこと……。

「りっかは、知ってたの?」

「まあな」

「ふぅん……」

 会話が終わりかけるその雰囲気に、あたしはハッと気づいて、ちょっと待ったをかけた。

「……でも、あたしと、この隣に座ってるりっかが手を組むのはいいとして、なんで一緒に住む必要があるの?」

 あたしのその言葉に、りっかが一瞬ビクリとした……ような気配がした。

「その事情は、後日談じゃ」

 と、りっかの反応を見た、じゅーおじいちゃん。

 後日談ってなんで!? と、あたしは全く意味がわからない。

「なーに。部屋はそれぞれ別々じゃ。今まで通りわしが二階の一番奥の広い畳の部屋。らなちゃんの部屋も今まで通り畳の部屋。りっかくんは、らなちゃんの隣の畳の部屋じゃ」

 って、要するにみんな和室じゃん!

 そして、このりっかが、あたしの部屋の隣だとおおお!?

「じゅーおじいちゃんっ! あたしはもう5年生なんだよっ! こんな、レディに向かってゴリラ並みに強いだのなんだの言う男となんて、一緒に住むのは百歩譲って良いとして、隣の部屋とかあり得ないんですけど!?」

「オレの人徳は、十夜さんのお墨付きだから。残念だったな。らな」

 はん、と鼻を鳴らして憎々しい様子のりっか。

 さっき一瞬見せた、身を縮こまらせるような謎の気配は、まるでどこかへいったみたい。

 お前の人徳なんざ知らんわ!

 りっか、一体何があってどうやってじゅーおじいちゃんを丸め込んだの!? ぐうっ、あたしのおじいちゃんなのに……! なんか悔しいんですけど!

「あとオレ、明日から三日月小学校5年1組だから。あわてふためく様子がおもしれー怒りのらなと同じクラス」

 は、はあっ!?

「こんなやつと毎日一緒、しかも同じクラスとか、吐き気がするわ!」

 あたしは一言、そう叫ぶとその日はささーっとお風呂に入って、ごま豆乳鍋の鍋を洗って、明日から始まる2学期の準備をして、おやすみなさい! と、自分の部屋でふて寝をしたのだった。

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