夏休みの宿題にモヤモヤ。
ああ、夏が終わる。
季節の主役が蝉からトンボに代わる。
住処のアパートを出れば、何匹もトンボが飛んでいる。うざったいぐらいに飛んでいる。・・・ちょっ、邪魔だって。いたっ。顔面に特攻するんじゃないよ。
思えば今年の私の夏は、蝉でも蚊でもなく、アリとの戦いだった。
アリは猛烈にすごいと思う。ちょっとでも食べモノとか甘いものをこぼしたら、どこからともなく湧いてきて、たかろうとする。しかも軍団で押し寄せてくるから、一匹見たら百匹いると思ったほうがいい。どこぞのゴキブリみたいな生活をしやがるからやっかいだ。
この夏は、アリにしつこく悩まされた。
夏によく買うサイダーやらスポーツドリンクやらのペットボトルにやつらは容赦なく猛攻を仕掛ける。私はそのしぶとい姿を見て、ティッシュ片手に一匹ずつ駆逐を始める。10か20は倒さなければ、やつらは猛攻をやめない。
白かったティッシュは見る見るうちに黒染めになっていった。
ああ、疲れた。
ちゃんとペットボトル洗って捨てれば
こんな苦労しないのにな。
私はすっかり懲りてしまった。
私はアリのおかげで
ずぼらから脱出しようとしている。
ありがとう小さな生き物たち。
君たちは憎くてしょうがないが
いちおう感謝しておこう。
冒頭から話が思いっきり逸れたが、今回のテーマは「宿題」だ。
大学生ともなれば、宿題(大学生的には課題というべきなのかしら)なんてのはかなり少ない。せいぜいレポートとか作品の提出を求められるぐらいで、あとは教授から「精一杯大学生の夏休みを楽しめ」とか言われるぐらいで全く課題がない。
しかし、今年の夏は強敵が現れた。
それは、脚本に関する授業で出された、15分程度のドラマシナリオを執筆して提出しなさい、というものだ。
私はシナリオの経験はゼロに近い。
今年脚本の授業を取り、ようやく書き始めたばかりのレベルだ。いちおう小説はこうして書いているので、話の内容に関してはある程度レベルの高いものを出せる。むしろ、教授に毎回「君の作品を楽しみにしている」と言っていただけるぐらいには書ける。
とーこーろーがーだ。
小説とシナリオはまるでベクトルが違う。
だいたい原稿用紙一枚=1分と換算するため、15枚なら15分程度になる。各シナリオ賞に応募経験のある諸君ならわかるかと思うが、シナリオは「セリフ+登場人物の行動+効果音」が表記として必要になる。テレビ用ならさらに「ト書き」という場面設定の細かな説明が追加される。
違いはまだある。小説なら原稿用紙いっぱいにセリフや地の文を思うがままに書けばいいが、シナリオは文体表記の規定が細かい。一行空けだの、一マス空けだの、ごちゃごちゃですっげーめんどい。
そして、最大の試練。
「15枚で、物語を矛盾なく完結させる」必要性。
これにいちばん悩まされた。
なんせ原稿用紙15枚。
贅沢に使うことは許されない。
うかつに長台詞など言わせたらとんでもない分量を消費する。
「登場人物の名前を変えたいけど、いまさらきつい!」
「なんかこのセリフが説明くさい!いっそ語りに変えろ!!」
「ここ波止場って書いたけど、よく考えたら設定と矛盾するじゃん!!」
相棒のノートパソコンにぶつぶつ独り言をならべながら、格闘すること一カ月少々。ようやく納得のいくレベルの作品となった。本当であればもっと変えたい部分が山ほどあるが、あきらめも肝心。教授はきっとこれで納得してくれるだろう。
ああ、アーティストの気持ちがよくわかる。
以前、NHKの某音楽番組で、私が敬愛する
Mr.Childrenの桜井和寿氏がこんな発言をしていた。
「今は達成感に満ち溢れているけど、アルバムが発売されて、家に帰ってもう一度聞き返してみれば『ああ、もっとここをこうするべきだった』とか、そういうことがいっぱい思い出されてくると思うんです」
私の記憶を頼りに書いたため発言がすべて正確かどうかは定かではないが、私はこの作業をしているときに、確かに桜井氏の気持ちがわかる、と、妙に共感してしまった。印刷して原稿にして、物語を俯瞰にすると、訂正したいところなどいくつも出てくる。しかし、締め切りはそれを容赦なく打ち砕く。人はその作品を絶賛するだろうが、自分からすれば「まだまだ・・・」と思う。
著名な作家たちも、そんな想いを抱きながら作品を書いているんだろうか?
まだまだひよっこな、大学生の物書きの端くれでもこんなことを思うのだから、きっと先生たち諸君は毎日モヤモヤしっぱなしなのだろう。
どんな世界にもモヤモヤは付きまとう。
そんなことを、今まで憧れていた世界を捨て別の世界へ移ろうとしている私は知ってしまった。まあ、そんなの分かりきったことじゃないか。それより、やりたいことを好きなだけやって、モヤモヤをすっきりに昇華させればいいじゃない。
珍しく、私の中で結論が出た。
かくして、(練習で書いたとかじゃなく、ちゃんと完結させた作品としては)生まれて初めてのシナリオ作品が完成した。
最初、仮題として「イエスタデイ」とつけていたが、紆余曲折の末「みなと」というタイトルで提出することにした(これ、タイトル命名にも毎回壮絶なモヤモヤが付きまとうのだが、それはまたの機会にお話ししよう)。
いつかカクヨムに載せられそうだったら、みなさんにもお見せしよう。
さ、次の作品にとりかかるか。
しかしその前に最初の言葉を訂正しなければ。
今年の私の夏は、「アリ」と「作品の執筆」との戦いだった。
―つづく―
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