エレベーターにモヤモヤ。

都会に買い物に出ると、ターミナル駅に併設されて大きな百貨店があったりする。例えれば、池袋に西武があったり、渋谷に東急があったり、東京駅に大丸がある感じだ。


私は、天王寺・阿倍野によく行く。


全国の人に一番わかりやすく言うとすれば、「あべのハルカス」がある街だ。(2019年夏時点で)日本一高いビルの真下には、近鉄(近畿日本鉄道)がやっている近鉄百貨店がある。私はここに足繁く通う。


ここはとても便利。

家の近くにないものがたくさんあるのだ。

ワンフロアをほとんど占拠するぐらいでかい本屋とか、ちょっと高級な洋服屋さんや帽子屋さん、家電量販店、果ては100円ショップまである。とりあえずやることがなかったらこの中をぐるぐる回りながらウィンドーショッピングを楽しむ。


ド田舎の大学に進学してしまったが故の「店が遠い・何にもない」という弊害をすっきり解消してくれるすばらしい百貨店さんだ。



しかし、この店のエレベーターが、私を大いに悩ませる。

エレベーターがめちゃくちゃに怖いのだ。


普通のエレベーターは、大体閉鎖的だ。窓も何もないし、外がなにも見えない箱状のゴンドラであることがほとんどだ。大体鏡が付いていて、そこで自分の姿を見ながら髪形を整えたりするのが関の山だろう。


だが、阿倍野の百貨店のエレベーターはすごい。

なんとゴンドラの半分がガラス張りなのだ。

しかも、エレベーターが上り下りする部分(なんと表現したらいいのかわからないのでとりあえずそう呼んでおく)が、売り場とむき出しになっていて、さらに吹き抜けになっているのだ。


この吹き抜けがまぁ高いこと。

建物の2階から12か13階辺りまでぶち抜いている。

落ちたら一発で空の上行きだぁ。


そんなめちゃくちゃに天井の高い吹き抜けが、エレベーターから丸見え。だから、上の階に行くときなど、うかつに下を見たら足がすくみそうになる。



ある時、母と一緒にこの百貨店に出掛けた。


その時、せっかくだからレストラン街で飯を食べようという話になった。私も普段金がないゆえに久しぶりに豪華な食事ができるぞ、と、俄然乗り気になった。


しかし、ここで私は気づいた。

困ったことにレストラン街は高層階に集中している。なので、そこまで行くためには何回もエスカレーターを乗り継ぐか、それか恐怖と戦いながらエレベーターに乗らなければならないのだ。


私がこの世で一番怖いものは、ハチと蛇と高いところだ。どんな罰でも受けるし、我慢だってするから、この二つを触らせたり、乗らせたり、なんだかんだするのだけはどうか勘弁してほしいと、拝みたくなるほど怖い。



まあいい、下を見なけりゃいいだけだ。

私は覚悟を決めてエレベーターに乗り込んだ。


最新鋭のエレベーターというのは本当にスゴい。加速がスムーズだ。妙に生優しい運転をしやがる。私はあまりのエレベーターの速さに具合が悪くなる。しかも、途中の階に止まるごとに、私は窓際に追いやられていく。なんせ最初に乗ってしまっているから、後から乗った人のためにスペースを空けてあげないといけない。ああ、とうとう件の窓際まで追いやられてしまった。


ひきつった顔で、私は一瞬だけ外を見た。そこには、吹き抜けの下の豆粒みたいな買い物客が見えた。エレベーターは勢いよく上の階へ容赦なく上がっていく。


「・・・・・・・・」


私は目を引ん剝いた。

恐怖で手汗がドバドバ出てくる。


我慢できないこともないんだが、窓の外を見ているだけでじんわりと手汗をかいてくる。足がムズムズしてくる。小刻みに震えてくる。あああ怖い。生きてる心地がしない。



エレベーターがレストラン街に到着する。

私はダッシュで飛び出した。


「どうしたん?」

挙動不審の私を見て、母はこう尋ねた。


「いや、怖くて」

私は大学生らしくない言葉を吐いた。

母は爆笑した。


うるせぇや。何歳になっても高いところは嫌なんだよ。

いやー、やはり高いところは無理だ。

地に足付けて生活するのが一番性に合っているよ。



―つづく―

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