1000円カットのモヤモヤ。
いわゆる1000円カットを愛用している。
おしゃれにまだそこまでお金をかける余裕もないため、「切ってくれるだけで十分やろう」という考えのもと、買い物に行ったときなどについでに、ショッピングセンターの中の最寄りの1000円カットのお店に寄って、ついでに済ませることが多い。
これがやめられない。
なんせ安くて早いのである。
たった1000円で髪切ってくれるとは!と、私も最初は驚愕した。
いままで私が使っていた床屋は2500円かかる。一般的な床屋ならまあそれぐらいは間違いなく料金として取られるだろう。手間賃や道具費なども考えれば妥当なんだろうしそこは私も認める。
だが、削れるところは削りたいじゃないか。人間誰しも、一円でもいいから得したい!と思うのは世の常人の常だろう。
自分でできるようなシャンプーはなしにして、カットだけしてもらえる。余計なお金をプラスせず、一本勝負。なんと潔い商売だろうか。
だから、1000円カットなのだ。
どうだろう?この魅力。
私は心から1000円カットをおすすめしたい。
あ、ちょっと待って。
そこのお方。走らないで。
私が1000円カットの魅力を語ってそれにすっかり魅了されたからと言って、そのまま近くのお店に飛び込んでしまうのは危険ですよ。
私は、いまから1000円カットをすぐにでも使おうとしている人に一つ言いたい。「1000円カットは、とてつもなくギャンブルな買い物なんだ」と。
髪切るのがギャンブル?
いやいや、お兄さん。
これ、とんだ大博打なんすよ。
馴染みの店ならいいが、初めての人には特に言いたい。1000円カットは、基本的に「自分で言わなきゃどうにもならない」店なのだ。
店員さんも勉強されているとはいえ、黙ってる客がどんな風に切ってほしいか察知できるエスパーではない。自分で注文を出してあげないといけない。
なんで、腕はまあよしとしても、キッチリ私の要求通りな髪型にしてくれるとは限らない。逆に言えば、自分がちゃんとした注文をカットのお兄さんに通さないと、どえらい髪型になってもおかしくないのだ。
口下手にとって床屋はどうしようもない拷問だろうが、ならば1000円カットは地獄の針山なのだ。
下手に注文すると、針のムシロにされる。
「あのー、こんな感じで、後ろ髪とかは結構これぐらい短めにしてくれませんか?」
俺がそう言うと、理容師はしげしげと俺の髪を見つめる。おい、やめろ。俺の頭には若白髪もキューティクルもおらへんぞ。10円ハゲとかないわボケ。
「んー、そのご注文だと、結構短めになっちゃうんですよねぇ、だいたい1か月前ぐらいの長さにしておきましょうか?」
へー。いや、わかんねぇよ。
じゃあ聞くけど一ヶ月で人はどれぐらい全身の毛が伸びるんだよ。具体的に教えてくれよ。そしたら俺もちゃんと定期的に髪切りに行くっちゅうの。
「……あのー、どういたしますか?」
「あ、あのー、ま、そんな感じで……」
「はーい、かしこまりました~~」
……ギュッ。ギュギュッ。
おいおい、痛いって。
首のタオルとビニールはもっと優しくしてくれ。
とまあ、なんとも気の弱く自己主張のない私はこんな風に店員さんの言われるがままに注文をして(というかされて)、髪を切ることとなってしまう。
前に私は一度、1000円カットで注文に失敗し、えらい髪型になった。例えると、月亭に弟子入りする前の山崎邦正みたいな髪型になったことがある。
カット終わりに鏡を見せられた瞬間、「うわ、完璧に方正やん」と思ってしまったが最後、多少髪が伸びるまで、私は山崎邦正感が全開な男になってしまっていた。
しかも残念なことに、ネームバリューのせいか「お前山崎邦正みたいやなwww」とツッコまれることもなく、ただただ自分の中でモヤモヤと「俺山崎邦正やん……とっつあん坊や感が半端ないって……」とガッカリなような、ムズムズするような、そんな気分で生活をしていた。
しかも、またこういう時に限って大事な用事が入る。当日生徒会長選挙を控えていた私は、その方正ヘアーのまま、なんと選挙ポスターの写真を撮ることになってしまったのだ。
「いやだぁぁぁぁぁぁぁアアアアアア」
騒ぐ私を尻目に、先生は私をデジカメの前に立たせて無理やり笑わせるのだった。
山崎邦正がなぜか生徒会長選挙のポスターに、なんて騒がれる訳も当然なく、私一人が「あああ……方正、どれもこれも方正みが深い。あなたはどうして方正なの?」などと騒ぎまくっていた。
ああ、罪深き1000円カット。
それでも安さには勝てない。
私はまた、1000円カットの店に足を向け、毛量の多い頭にハサミを入れ、髪をすき、ブラシの付いた吸い込み器で切った毛を吸われるのだった。
ーつづくー
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