第4話 初めて
「それで……お願いって?」
学校からすぐ近くにある少し大きめな公園。いくつか置いてあるベンチの一つに俺達は腰掛ける。
新学期初日、俺は突然の出来事にまだ混乱している。
目の前にいるのが、あの一色真白だなんて……。
「朝、染川君が友達と話してるのが聞こえてきて……」
どうやら今朝の会話を聞かれたらしい。まあ、あの時は人も少なかったし俺達の声も大きかったから当然なんだけど…
「ご、ごめん!うるさったよな……」
「そうじゃなくて……染川君、美容師を目指してるって……」
「あ、ああ!うん…。それがどうかしたの?」
家が美容院ということは割と学校中に知られている。以前から知っていたのだろうか。
「うん……。だから、染川君にお願いしたいことがあるの……」
「それって………」
まさか………
「うん、そう……。私、前から美容院に行こうかなって思ってたの。今まで自分で切ってたんだけど、なかなか上手くいかなくて……」
「美容院なんて、探せば沢山あるよ……?」
「初めてだから。どこに行けばいいか分からなくて……それに、今の自分の髪型もちょっと変えてみたいなって思ってて……」
そういうことか……
つまり、イメチェンがしたいんだな……確かに 、一色さんならどんな髪型でもめちゃくちゃ可愛いんだろうなぁ……
「それで、とりあえず美容師を目指してる俺に相談しようとしたってことか……」
「うん、ごめんね……急に」
「いやいやいや!!全然大丈夫ですし、むしろ大歓迎というかなんというか………!」
君のお願いならなんだって聞くよ!!なんて言えるわけないので、内心でそう叫ぶ。
「そう……ありがとう」
そう言うと、一色さんはベンチから腰を上げる。
「今度、改めて話したいから……良かったら、連絡先交換しない?」
「へぁ………」
不意打ちに思わず間抜けな返事をしてしまった。
おおお、俺が一色さんと連絡先を交換!?
「いっ……いいんですか?」
「ダメなら別にいいけど……」
「いや全然!むしろ大歓迎です!交換しましょう!!」
連絡先ゲット。やばい、ニヤけが止まらない……こんなトントン拍子で一色さんとの距離が近づくなんて……!
「じゃあまた、学校で……」
「あっ……う、うん!さようなら!」
一色さんは早々と公園を後にする。俺はその後ろ姿を、見えなくなるまで見つめていた。
「ま、まじか……こんなことあるんだな……」
踊りたい。それほどに嬉しい。
「相談って言っても、具体的に何を話すんだろう……」
俺ができることもそんなにないんだな……
とりあえず、少しでも一色さんの役に立てるよう、女性のファッションとかトレンドとか予習しておこう。
あと、紅葉たちに自慢してやろう……
期待と少しの不安を胸に、俺は家へ向かった。
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