第2話 春、運命の日
俺は、一色真白に恋をしている。
これはもう、疑いようのない事実で、明白なことだ。入学式で一目見たあの日から、俺は彼女のことを想い続けている。
「恋って、なんでこんなに辛いんだろうな…」
「急に何言ってんだお前」
紅葉の家でテレビゲームをしながら、俺は儚げに呟いた。
「そもそもまだ始まってすらいないだろうが」
紅葉の鋭い言葉が俺の心に突き刺さる。動揺する俺に、紅葉はたたみかけるようにコントローラーを動かす。紅葉の操るハイラルの魔王が、俺の忍者蛙を画面外へと吹っ飛ばした。
「真白ちゃん、なんであんなに可愛いんだろう」
「うわ、ちゃん付けってお前。まだしゃべったこともないのに……」
若干引き気味になる紅葉に、俺はなんとなく聞いてみる
「最近、彼女と上手くいってんの?」
「普通」
「普通って……」
「若干倦怠期」
「そっか…」
なんだかんだちゃんとやってるんだな、こいつも。そう思っているうちに悲しくなってくる。
「そろそろ帰るよ、また学校でな。」
「おう……。って、次は同じクラスになれるか分からんけどな」
その通りだ。明日には高校3年生になり、当然クラス変えもある。まぁ、なんとなくだけど俺はまた紅葉と同じクラスになる気がする。
しかし、問題は別にある。一色真白と今度こそ同じクラスになれるかどうか……。そのことで頭がいっぱいだ。ここ最近、そればかりが気がかりで夜も眠れない。
紅葉の家を出て、俺は電車に乗って自宅へ向かう。家からは電車で2駅ほどである。電車に揺られながら明日のことを考えていると、ポケットのスマホが振動する。
「さっくからだ」
栗花落咲夜(つゆり さくよ)、1年の時に同じクラスになって以来、よく絡んでいて。気軽にさっくと読んでいる。亜麻色の髪を肩まで伸ばし、栗の可愛らしい髪留めをした小柄な女の子だ。
俺の良き相談相手でもあり、彼女には本当に感謝している。ある1点を除いて…。
スマホを手に取り、さっくのトークルームを開くと……
「見て見て自撮り」
どうやら自分の可愛らしい自撮りを送り付けてきたらしく、何やってるんだこいつはと言いたくなる。
「何やってるんだこいつは」
今はそれどころじゃない。俺の人生が明日で決まると言ってもいい時に一体何がしたいんだこいつは。いつもそうだ、俺はさっくのこの天真爛漫というか、天然な行為に振り回されっぱなしだ。
「これさえなければなぁ……。」
しかし、なんだが気が楽になってきたようだ。彼女なりの気使いなのだろうか、と勝手に思うことにする。
一色真白。俺は彼女と絶対に同じクラスになれますように。そう強く願っていると、あっという間に家に着いた。
風呂に入り、晩ご飯を食べ終えると、そそくさとベッドに横たわる。
俺は彼女と同じクラスになって……。なったら……。
あれ?俺は彼女と同じクラスになって、どうしたいんだっけ?彼女に恋はすれど、告白する気なんてなくて……。
同じクラスになって、何がしたいんだ…?
頭が混乱する。深く考えすぎたのだろう。恋する男というのはなんとなく考えてなんとなく生きているものではないか。
よく分からないことを考えているうちに、俺は眠りに落ちる。
翌日、学校に着くと、紅葉とさっくを見つける。2人もこちらに気づく。ニヤニヤしながら、クラス表の貼り紙を見ろと言わんばかりに、歩み寄ってくる。俺はドキドキしながら、玄関前に貼られた大きな貼り紙を見つめる。
一色真白。その名前が3年1組のすぐ下に記されていて、ドキッとする。
「そ、そ、そ。」
自分の苗字を慌てて探す。神様、神様。
染川碧人。俺の名前は、3年1組のクラス表にあって……。
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