イメージカラー変えてみる?
就活大変
第1話 真っ白な彼女
ある春のこと、高校の入学式。俺の新しい生活がはじまる。
期待に胸をふくらませ、教室のドアを開ける。ざわざわとしていた教室が静まり返る。一瞬、こちらに視線が集まると、すぐにまたざわざわとしだす。
「もうこんなにいるんだな……」
既に教室の席は半分以上埋まっている。お互いがまだ初対面の、なんとも言えないクラスの雰囲気。
「俺の席は……」
黒板に貼られてある貼り紙を見て、出席番号と名前を確かめる。そこには「出席番号7番 染川碧人」と記されている。俺の名前だ。窓側の、1番後ろの席。
俺は自分の席に座り、周囲を見渡す。すると、隣の人と目が合った。少し色黒で、短髪。真新しい制服が良く似合う、背が高めの男。
「あっ…。えっと、染川碧人って言います。よろしく……」
少したじろいでしまったが、なんとか自己紹介が出来た。
「おう、よろしく!俺は野田紅葉!ていうかか、そんなかしこまんなくていいって!俺のこと紅葉って呼んでくれよ!俺も碧人って呼ぶから!」
「おっおう…。じゃあ紅葉、よろしくな…」
すごい勢いだ。根っからの良い奴なんだろう。こっちとしても絡みやすい。
「俺、小学校からサッカーやってるんだけどさ、碧人はなんかやってんの?」
「中学で陸上やってたぐらいかな、まあ全然行ってなかったんだけどね。
「そりゃまたどうして?」
「実家が美容院やってて、小さい時から親の手伝いしてたんだ。」
「すげー!じゃあ髪切るの得意なのか?」
「まだ仕事場には立たせてもらえてないんだけど、軽くなら出来るよ」
そんなことを話していると、教卓の方から先生の声がした。
「みんな、入学おめでとう!今日からこのクラスの担任になる、灰垣茂雄です。よろしく!」
見た感じ、20代後半くらいの痩せ気味の男性だ。
「早速だけど、今から入学式が始まるから体育館の方へ移動しよう。出席番号順に並んで、先生についてくるように!」
そう言うと、灰垣先生は廊下へ出る。みんなもそれに従う。
「入学式かぁ……。正直言ってダルいんだよな、長時間椅子に座って校長の話とか聞くの」
紅葉がそう言い出すと、周辺の何人かも頷いた。みんな馴染みやすそうで安心する。
体育館へ着くと、紅葉の言った通り校長や教頭が祝いの言葉を述べる。周りを見渡すと、中には眠っている人がいる。後ろからはいびきが聞こえてきた。……紅葉だな。
「続いて、新入生代表挨拶」
司会の先生がそう言うと、1人の女生徒が立ち上がる。
その姿に目を奪われる。
正確には、後ろ姿だが……。とにかく、俺はその女の子から目が離せなかった。
身長は160cmくらいだろうか。綺麗な黒髪を背中辺りまで伸ばし、白いソックスを履いた、美しい女の子。
「一色真白さん」
「はい」
先生に呼ばれると、その一色真白という女の子はまっすぐに設置されたマイクの方へ向かう。
そこからはもう覚えてない。俺はただ、彼女のことを見つめ続けた。わずか数分程度の彼女の挨拶。俺には何時間と感じられた。それほどに、まるで時が止まったかのように……。
それからというもの、彼女のことが頭から離れない。違うクラスだったので、話しかける機会もなく、仮に同じクラスだったとしても、彼女から溢れる潔白で何者も近寄らせないクールな雰囲気。
当然、彼女は学校中で噂となり、密かに想いを寄せる人、想いを伝える人は数え切れないほど。
彼女と接点のない俺には、ただ遠くから彼女を眺めることしができなかった。
部活も入らず、美容師を目指すため家の手伝いに励み、そこそこ勉強をして、そんな日常を繰り返す。
結局俺は、彼女に、一色真白に話しかけることもなく、気づけば高校3年生の春を迎えていた。
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