第39話 別れ
「逃げたんじゃなかったのか?」
フィリアは変わらずぼろぼろだったが、傷はふさがっているようだ。
ウンディに治癒の魔法をかけてもらったのだろう。
「君が勝つと信じていたよ。さて、悪いんだがここからは僕に任せてくれないか?」
ダルクスはもうまともに立つことすらできない。
彼女に危険が及ぶことは無いだろう。俺が刀をしまうとフィリアが近づいてくる。
「ショウ、すまないが彼をあの大木まで連れて行ってくれないか?」
フィリアには何か考えがあるのだろうか。
彼女の願いどおり、ダルクスを大木の元へ運ぶ。
「ありがとう。後は僕がやる。君達は少し離れててくれ」
フィリアが心配で残ろうとしたが彼女の頼みだ。ウンディと二人で離れる。
万が一ダルクスが襲い掛かろうとしたら、いつでも飛びかかれる距離で刀を抜いて待つことにした。
「僕とアリア、君の三人で冒険者になった日に植えた木がこんなに育っているとはね」
フィリアは木に寄りかかって座り、隣で倒れているダルクスに話しかけている。
ダルクスがこの場所を指定したのはこの木は特別だったからなのだろう。
「覚えていたのか。あなたはそんなこと忘れていると思ったよ」
ダルクスはもう動くこともできないのだろう、声もかすれるように小さかった。
「忘れるわけが無いさ。だからここを指定したんだろう。始まりの場所で終わりを迎えるというのは君にしてはなかなか趣があるじゃないか」
ケラケラと楽しそうに笑うフィリア。二人はさっきまで戦っていたとは思えないほど穏やかに話をしている。
「なんだか楽しそうですわね。ワタクシも混ぜてほしいですわ。まぁこれ以上盗み聞きするのもよくないですわね。ではショウ、少し耳をふさぎますわよ」
ウンディに耳をふさがれる。
しばらく何かを話していた二人だが、話は終わったのだろう。
フィリアが立ち上がりダルクスを見下ろす。
彼に手を向け、何か声をかけているようだ。
ダルクスは目を閉じ、彼女に向かって静かにうなずいた。
『さようなら』
彼女の口がそう動いたように見えた。
次の瞬間ダルクスの体を炎が包み込み、彼のすべてを灰にした。
風に乗って灰が運ばれていく。
それを静かに眺めている彼女の頬には涙が流れていた。
「待たせたね。ショウ、今回はよくがんばったとほめてあげよう。さすがは僕の守護者だ」
フィリアがこちらに戻ってきたときには、彼女はいつもの表情に戻っていた。
彼女に頭を撫でられる。フィリアがこんなことをするなんて思わなかった。
「ショウだけずるいですわお姉さま!ワタクシにもお願いしますわ!」
ウンディが拗ねるとフィリアは彼女に抱きつく。ウンディの顔が一気に赤くなった。
「ウンディもありがとう。今日ばかりは君にも感謝しているよ」
ウンディに抱きついたまま静かに笑うフィリア。
ウンディは嬉しさのあまり彼女を抱きしめ返すこともせず固まってしまった。
ふいに、俺はダルクスが使っていた剣のことを思い出した。
剣を拾ってくると、フィリアに見せる。
「フィリア、この剣だけどダルクスの墓標代わりにここにおいていっても良いかな?」
危険な品だし持ち帰ろうとも思ったのだが、墓標すらないのはあまりにも可哀相だった。
「ここは滅多に人も来ないし、こんな気味の悪い剣を持っていくやつもいないだろう。僕からもお願いするよ。あの木の近くにね」
フィリアの同意を得られた俺は、ダルクスが焼かれた跡に剣を突き立てる。
やつを倒したことで、俺の復讐も終わった。
至竜教の残党達もいずれ解散するか、冒険者達の手でいなくなるだろう。
「では帰ろうか。みんなに報告だ」
三人で歩いてギルドに戻った。
ぼろぼろのフィリアと俺を見たアリアが今まで見たことないほどの慌てた顔で出迎えてくれた。
治療が終わると俺達は、アリアとグランツ、シルヴァの3人にダルクスを殺したことを伝えた。
「というわけでダルクスはショウが倒し、僕が完全に灰にした」
フィリアは傷こそまだ残っていたが、服はもうきれいになっていた。
あとでウンディに聞いた話だが、服は鱗を魔力で変換したものらしい。
魔力さえあればいつでも綺麗にできるし、別の服に着替えることもできるようだ。
「そう、今度こそ本当に死んだのね。残党のほうは私達に任せて。あなた達が狙われることが無いように各地のギルドと協力して手を尽くすわ」
アリアは話を聞き部屋を出て行く。ほかのギルドへの連絡など色々あるのだろう。
「じゃあ私もどこかでまた眠りに着こうかな。ショウ、君に授けた力はこれからも守るために使ってくれよ。じゃあみんな、またどこかで会おう」
グランツも部屋を出て行く。こんどは誰にも邪魔されず眠れるといいのだが。
「じゃあ俺もまたどこかへ行くよ。会いたくなったら今回みたいに探してくれれば、また俺のほうから駆けつけるよ。じゃあな守護者君。君はダルクスみたいになるなよ」
俺の背中を叩き陽気に出て行くシルヴァ。結局彼が何をしているのかは謎のままだったな。
部屋には俺とフィリア、ウンディの三人が残された。
「ワタクシはどこにも行きませんわよ。お姉さまと久々に会えたんですし、どこまでも着いていきますわ!」
ウンディがフィリアを抱きしめている。まぁこうなるとは思っていたけどな。
「君はどうする?復讐も終わったし僕達の危機も去った。僕に着いてくる理由も無いだろう。普通の生活に戻るかい?」
フィリアに尋ねられた俺は正直に気持ちを伝える。今更普通の生活に戻る気はない。
「俺はフィリアと一緒にもっと冒険がしたい。この力で誰かの役に立ちたい。だめか?」
フィリアが驚いたように目を丸くしていた。だが次の瞬間にはいつものニヤリとした笑みを浮かべこちらを見ていた。
「僕と一緒に冒険がしたいか・・・。これはいけない僕としたことが忘れてしまっていたようだ。そういえば君にはまだ借金を返してもらっていなかったね。残りの借金を返すまで、僕と一緒に働いてもらうおうか。いいね?」
フィリアがクスクスと笑いながらこちらを見ている。
「借金なんか無くても俺はフィリアのそばにいたいんだよ」
フィリアが顔を背けてしまった。なにかまずいことを言ってしまっただろうか。
「どうしましたのお姉さま?お顔が赤いようですけど・・・」
フィリアはウンディを振り払うと勢いよく立ち上がる。
「今日はもう疲れただろう?宿に泊まって明日の朝またここで待ち合わせだ」
そういうと部屋を出て行ってしまった。あわててウンディが後を追う。
確かに俺も疲れたな、早く休んで明日からの冒険に備えよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます