第38話 守護者 対 守護者
ウンディと一緒にフィリアの部屋へ向かうともぬけの殻だった。
「昨日の夜お姉さまの部屋にしんにゅ・・・一緒に寝ようと思ってうかがったときはまだいましたわ。出て行ったならその後だとおもいますの」
「とりあえずここにいても仕方ない、グランツとシルヴァのところへ行ってみよう」
もしかしたら彼らと話をしているのかもしれない。
外へ出ると馬車は残っていた。可能性は0ではないはずだ。
ギルドのグランツがいる部屋へ向かう。
中に入るとシルヴァも一緒にいた。二人とも起きて話していたようだ。
「なぁ、フィリアはここに来てないか!?」
二人はこんな早朝に急に俺達が焦った様子で入ってきたことに驚いたようだ。
「フィリアちゃんなら来てないが何かあったのか?」
「俺も昨日の夜からずっとここにいたけど見てないね」
どうやら二人とも見ていないようだ。
まさか本当に一人で向かったのだろうか。
その時背中に悪寒が走った。
急がなければ取り返しのつかないことになる。そんな恐怖が俺を襲った。
「ウンディ、俺は昨日の地図の場所に向かおうと思う。馬車で行くより走ったほうが速いからすこしだけ我慢してもらうぞ」
状況が飲み込めないウンディを抱きかかえる。
「ちょちょ、ちょっと何をする気ですの!?ワタクシにも心の準備というものがあああああああ!」
ウンディが文句を言っていたが聞いている時間は無い。彼女を抱きかかえたまま全力で走り出した。
覚えている地図の場所へ向かうとそこには見上げるほど大きな木があった。
周りの木の5倍以上はあるだろうとんでもない大きさだ。
「着いたぞウンディ」
目を回している彼女を地面に置き、周囲を捜索する。
ところどころ木が倒れ地面には火がついているところもあった。
「やっぱり、フィリアは一人で向かったんだな」
意識を集中させると争っている音が聞こえる。
竜の姿に戻ったウンディと共に急いでその方向に向かった。
「ワタクシ達を置いて一人で向かうなんていくらお姉さまでもひどいですわ」
めずらしくウンディがフィリアに怒っている。俺もフィリアには言いたいことがある。
彼女が負けるはずが無い、そう思いながらも最悪の事態にならないように急ぐしかなかった。
音は近づき、土煙が上がっているのが見える。もうすぐだ。
その時、二人のほうに何かが飛んできた。
木をなぎ倒し地面を転がって止まったそれは、フィリアだった。
「フィリア」「お姉さま!」
二人で急いで彼女の元へ駆け寄る。斬られたのだろう、服は裂け体のいたるところから血が出ていた。
彼女のこんな姿は初めてみた。
「ショウに・・・ウンディか・・・君達が来る前に・・・決着をつけようと思ったんだが・・・どうやら僕は・・・失敗したようだね」
咳き込みながら血を吐く彼女。何とか最悪の事態は免れたようだ。
ガチャガチャと金属同士がこすれる音が聞こえた。彼女をこんな姿にした相手が近づいてくる。
傷ついたフィリアをウンディに任せ、俺は刀を構える。
「どうやら邪魔が入ったようだな。あの時死んだと思っていたが、守護者のしぶとさを忘れていたよ」
竜の形の兜に全身に鎧を身に着けた男が立っていた。その手には漆黒の大剣が握られている。
間違えるわけが無い、ダルクスだ。手にしている剣が竜殺しの武器だろう。
「ダルクス!」
叫び、斬りかかる。
俺の刀を片手で受け止めると、もう一方の手に握った剣で切りかかってきた。
グランツの守護者となったおかげで皮膚は鋼のように固い。
左手で火花を散らしながらダルクスの剣を受け止める。
一瞬ダルクスに隙ができたのを俺は見逃さなかった。右手の刀をやつに向けて振り下ろす。
しかし後ろに飛んでかわされてしまう、兜に傷をつけただけだ。
「ウンディ、フィリアをつれて逃げろ。こいつの相手は俺がする」
ダルクスに斬りかかり刀と剣をあわせた状態で叫ぶ。
とにかくフィリアを助けることが最優先だ。
「分かりましたわ。お姉さま、きついでしょうけど我慢してくださいまし」
離れていく足音が聞こえる。ひとまずフィリアたちは大丈夫だろう。
「面白いことを言うな。少し強くなったぐらいで私を止められると思っているのか?」
合わせていた剣を弾き、心臓めがけて突きを繰り出す。
ダルクスは俺の刀を脇ではさんで受け止めると、剣を振り下ろしてきた。
さっきと同じように受け止めようとしたが、悪寒がしたのですんでのところで剣をかわす。
受け止めようとした手が少し切られていた。やつの鎧に蹴りを叩き込み距離をとる。
「勘が良いようだな。受け止めようとすればお前の腕を切り落とせたのだが」
どうやらこれが風の竜の守護者の力のようだ。
第6感というのだろうか、悪いことが起きる前に悪寒がする。
フィリアの危機を感じ取れたのもこの力のおかげだろう。
素手では切られてしまうが爪なら大丈夫だろう。
左手には爪を発動させ、右手に刀を握りダルクスに向きあう。
切りかかってきた剣を爪で受け止め、やつの首を狙い上から刀を振るう。
ダルクスが手で受け止めたのを確認すると刀を手放し即座に爪を発動させ顔めがけて手を伸ばす。
今度は俺が蹴り飛ばされてしまったが手ごたえはあった。
兜が割れ、顔を抑えるダルクス。抑える手の間からは血が流れていた。
刀を拾い、下から振り上げる。だが左手の籠手を斬っただけのようだ。
そのまま飛び上がり、全体重と力をこめて上から斬りかかるが剣で弾かれてしまった。
片手なのになんて力だ。
ダルクスが顔を抑えた手を離しこちらを睨んでいた。
その顔を見て驚く、まるで焼かれたように真っ赤で皮膚は無かった。左手も同じのようだ。
今回は俺が押している。勝てる、そう確信したその時だった。
「忌まわしい守護者め。遊びは終わりだ」
彼が剣を地面に突き刺す。右手に残っていた籠手もはずしてしまった。
「負け惜しみはよせ、俺はお前より強い。今度こそ確実に死んでもらうぞ」
彼が何を仕掛けてきても負けない自信があった。
4竜の守護者となったことで、それほどまでに力と自信をつけていたからだ。
「それはこちらの台詞だ。今回は彼女の助けは来ない。確実に止めをさしてやろう」
ダルクスは俺と同じような爪を両手に纏った。
先ほどとは段違いの速さでこちらに飛び掛ってきた。
迫りくる左右の爪を刀と爪で受け止める。
刀と爪、爪と爪が高速でぶつかり合い、剣戟が森へと響く。
ダルクスが俺の刀と爪をつかんだ瞬間悪寒が走った。
即座に後ろへ飛んだが遅かった。彼の足に纏った爪が俺の体を切り裂く。
「足もなんて、そんなのありかよ」
幸い傷は浅い、まだ戦える。
「本来竜は手足に鋭い爪を持っている。手にしか纏えないお前が未熟なのだ」
ダルクスは手足すべてに爪を纏うと、まるで4足歩行の獣のような動きで襲い掛かってくる。
これがやつの本来の戦い方なのだろう。掴み合うのを避け、はじくようにして防ぐ。
俺もやつも互いに傷をつけれない、二人の力は拮抗しているようだ。
距離をとりにらみ合う。どうやら奥の手を使うしかないようだ。
「そろそろ決着をつけようか!」
俺は刀を鞘にしまうと腰のベルトに差し、重心を落とした。
鯉口を切り、奴が飛び込んでくるのを待つ。
「そうだな、終わらせてやろう!」
ダルクスが爪を巨大化させ、地面を蹴り飛ばしながらこちらへ向かってくる。
向かってくるやつの腕めがけて、刀を抜く。奴を倒すために何度も練習した居合術だ。
飛び掛ってきたやつの爪ごと両腕を切り落とす。顔を少し切られたが問題ない。
切り落とされた両腕をかかげ絶叫するダルクス。その体を薙ぎ払う。
血を噴出し力なく地面に倒れる。もう戦う力は残っていないだろう。
「俺の勝ちだ」
ダルクスを見下ろし勝敗を告げる。驚いたことにやつはまだ生きていた。
「私が、負けるとはな・・・」
ダルクスは自分が負けたことが信じられないようだった。
確実に止めを刺すために首を切り落とそうと刀を振り上げたその時。
「待ってくれ」
振り上げた刀を下ろし声のほうを向くと、そこには逃げたはずのフィリアとウンディが立っていた。
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