第36話 襲撃

ハジの町に近づくと異変に気づいた。

ハジの町の方角から煙が上がっていた、まさか間に合わなかったのだろうか。


「ショウ、馬車は僕たちに任せて先に向かってくれ。ダルクスがいたら無茶はするなよ」


フィリアの言葉に即座に反応する。

手綱を任せると、全速力で町を目指す。


町に着くとどうやら襲われた後のようだ。

いくつかの建物が壊され煙を上げていたが至竜教のやつらはいないかった。

フィリアたちの到着を待って一緒に冒険者ギルドへ向かう。

冒険者ギルドの中では負傷者の手当てが行われていたようだ。

冒険者だけではなく、市民も混じっていた。


「みんな!無事だったのね。ずっと心配してたのよ」


アリアが俺達に気づいたのかこちらに向かってきた。

どうやら彼女に怪我は無いようだ。


「君は無事のようだね。僕たちがいない間に何があったか詳しく教えてもらえるかい?」


アリアの説明によると、至竜教のやつらが昨日攻め込んできたらしい。

もちろんアリアと冒険者たち、そしてグランツで応戦した。

犠牲は出してしまったが何とか退けることができたようだ。


「落ち着いて聞いて頂戴。グランツが私を庇って重傷を負ってしまったの。今は別室で休んでもらっているわ」


話を聞いてすぐ、俺とフィリアは彼の元へ向かった。

ウンディは少し治癒の魔法が使えるので、アリアの手伝いをするために残るようだ。

部屋へ入ると包帯を巻かれた彼がベッドに寝ていた。


「グランツ、大丈夫かい?君の体に傷をつけるなんてやつらも何か切り札を手に入れたようだね」


彼が起き上がる。包帯に血が滲んでいるところを見ると傷は深いようだ。


「すまないねフィリアちゃん、少年にもみっともないところみられちまったな」


アリアの話を聞いても信じられなかった。まさか彼に傷をつけることができるとは思わなかったからだ。


「俺も同じ状況になったことがあるから気にしなくて良いよ、それよりグランツさんに重傷を負わせたのは誰なんだ?」


おそらくダルクスだろうが、やつにそれほどの力があるのだろうか。


「アリアの話ではやつはダルクスと言うらしいな。妙な剣を持っていて私の鱗でも防ぐことはできなかった。まぁ美女を庇っての傷だ。名誉の負傷ってやつさ」


冗談を言えるところを見ると、思っていたより大丈夫なようだ。

しかし止めを刺すこともできただろうが、なぜ見逃したのだろう。


「妙な剣か、君の鱗を切り裂くなんてとんでもない代物のようだね。奴が君を見逃したということは何か伝言でも頼んでいないか?」


フィリアの予想は当たったようだ。グランツが一枚の紙を差し出してくる。

どうやら地図のようだ。そこにはこう書かれていた。


『フィリア、決着をつけよう。明日の朝ここで待っている』


どうやら彼女を誘い出しているようだ。


「フィリア、まさか一人で行く気じゃないよな。もちろん俺もついていくからな」


彼女を一人で行かせるわけにはいかない。当然一緒についていくつもりだ。

それに奴がいるならば、俺が決着をつけたかった。前回の雪辱を果たしたいのだ。


「お姉さまが行くならば、当然ワタクシも行きますわ!」


いつから聞いていたのだろう、ウンディが勢いよく扉を開けて入ってきた。

どうやら負傷者の手当ては終わったようだ。


「私も行きたいがこの怪我では無理そうだ。少年、約束は忘れてないだろうね?」


もちろん忘れてなどいない。彼にもらったこの力で何があっても二人を守るつもりだ。

彼に向かって大きくうなずく。俺の答えに満足したのか、彼はまたベッドに倒れた。


「じゃあ私は休ませてもらうよ。君たちが帰ってくるのを楽しみにしながらね」


俺とフィリア、ウンディの三人でギルドを後にする。

明日の朝、町の入り口で落ち合うことに決めて、それぞれ準備に向かった。


別れた後、俺はボルグの店に向かった。どうやらここは被害を受けなかったようだ。


「坊主か、今この町は大変なことになっていてな。鍛冶師の俺も大忙しだ。坊主も武器の準備か?」


中に入るとボルグが忙しそうに作業をしていた。どうやらかなりの数の剣を磨いていたようだ。

彼の両脇の箱には大量の剣が入っていた。


「俺も刀の手入れをお願いしたくて。どうにか今日の夜までにできないかな?」


明日の決戦に向けて武器の準備は万全にしておきたかった。

刀をボルグに手渡す。ボルグは刀を見ると険しい顔つきになった。


「かなり消耗しているな。まぁ何とかやってみるさ。急ぎなんだろう?夜にまた来てくれ。こんな時だ、金はいらねぇよ」


そういうと彼は店の奥へと消えていった。

これで武器についての心配は不要だろう。


店の外へ出てどうしようか悩んでいると知らない男から声をかけられた。


「やぁ少年。ちょっと聞きたいんだが、このあたりで赤いドレスを着た赤い髪の女の子か、青い髪の美女を見なかったかな?」


男はエルフが愛用している狩人の服を着ていて、頭には羽飾りのついた皮の帽子をかぶっていた。

髪の色は金色で、帽子のせいで顔はよく見えなかった。エルフだろうか?

だがこの男の雰囲気、どこかで感じたことがある。探しているのは恐らくフィリアとウンディのことだろう。


「さぁ知らないな。あんたこそ、その子達に何か用か?」


警戒しつつ返答を待つ。

すると男はゆっくりと俺に近づき、帽子を脱ぐと至近距離でこちらの瞳を覗き込んできた。

男の緑色の瞳が俺を射抜くような視線で見ている。妙な迫力のせいで動くことができない。


「おかしいなぁ、君から彼女たちの気配がするんだけど。まさか嘘をついているのかい?それとも彼女たちを守っているのかな?」


男は笑顔を浮かべると俺から離れ帽子を被りなおす。

この気配、間違いない。確信を得るべく男に尋ねる。


「あんた、もしかして彼女たちと同じなのか?」


俺がこの質問をするのを待っていたのだろうか。

男がニヤリと笑い帽子を取るとまるで芝居がかった仕草で恭しく一礼する。


「ご明察のとおり、原初の4竜の1角。風を司る竜のシルヴァだ。とりあえず自己紹介もすんだし、彼女たちのところへ案内してもらえるかな?」

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