第35話 奴らのねらい
翌朝、俺は移動する馬車の上で目を覚ました。体の変化は終わったようだ痛みが引いている。
隣を見ると、フィリアとウンディがお互いに寄り添うようにして眠っていた
馬の手綱を握っているのは、どうやらグランツのようだ。
「目が覚めたか、体の調子はどうだ?」
グランツが俺に気づいたのか、声をかけてきた。俺は彼の隣に座る。
「おはようございます。おかげでだいぶ良いですよ」
特段変化は見られないが、これで彼のような堅さが手に入ったのだろうか。
試してみたいが、今はまだやめておこう。
「なら良いんだが、無理はするなよ?それとそろそろそんな話し方はやめてくれ。君はもう私の守護者なのだからね」
これで3人の守護者になってしまった。寝ている2人が起きたら説明しないといけないな。
「わかったよ、グランツさん。あとは俺がやるから町につくまではゆっくり休んでてくれ。昨日から眠ってないんでしょ?」
彼は豪快に笑うと、俺に手綱を任せ荷台で眠り始めた、あの後ずっと起きていたのだから無理も無い。
ハジの町へつくと3人を起こす。グランツさんはともかく彼女たちはどれだけ寝ていたのだろう。
ギルドへ向かうと、受付でメリルが迎えてくれた。
「お久しぶりです、フィリアさん、ショウさん」
彼女には何も知らせていない。万が一巻き込んでしまっては大変だからだ。
「久しぶりだね、メリル。早速ですまないがアリアを呼んでもらえるかな?」
フィリアの言葉にうなづくとアリアを呼びに行ったようだ。
しばらくするとアリアがやってきた。
「どうやら彼は見つかったようね。私の情報が役に立ったようでよかったわ」
以前案内された応接室で今後のことを話し合う。
「あなたがアリアさんか、フィリアちゃんが信頼できるって言うからどんな人かと思ったが、まさかエルフだったとはね。私はグランツ。彼女と同じ原初の4竜の土をつかさどる竜だ」
二人は初対面だったが、フィリアという共通の知り合いの話題ですぐに打ち解けたようだ。
話題の中心のフィリアは少しだけ居心地が悪そうだった。
「そんなことよりもアリア、僕が頼んだもうひとつの情報については何かないかい?」
フィリアが無理やり話題を変える、ウンディは自分の知らないフィリアの話を聞けていたので、話が変わったことを残念がっていた。
「それについてだけれど、あまり良い情報はないのよね・・・。それらしき人物を見たという話も聞かないし、正直お手上げだわ」
どうやら次の竜については情報がまったく無いようだ。
アリアが見つけられないのならば、やつらにも見つけられないだろうからある意味安全ではないだろうか。
「なぁフィリア、残りは確か風の竜だよな?どんな竜なんだ?」
だが返事は無い。みるとフィリアもウンディも、グランツでさえも眉間にシワを作り考え込んでいた。
「彼はなんと言うか・・・その・・・」
「お兄様は・・・・えっと・・・・・」
「あいつは・・・・そうだな・・・・」
どうやら表現する言葉が見当たらないようだ。
彼女たちにここまで言わせるとは一体どんな竜なのだろう。
「まぁ僕たちに見つけられないのなら、あまり気にしなくても良いだろう。至竜教のほうについてはどうだい?」
アリアが何枚かの紙を机に広げる。どうやらあれから色々と分かったようだ。
「まず、やつらの教主についてだけどダルクスと呼ばれている男のようね。常に鎧と兜を身につけていて素顔を見たものは誰もいないそうよ」
ダルクス。
以前俺に重症を負わせたフィリアの前の守護者。
やはり奴がすべての元凶のようだ。
「そしてやつらの一人から重要な情報を手に入れたの。やつらの本拠地についてよ」
アリアが手に入れた情報によると、どうやらこの町から馬車で3日ほど行った森の中にやつらの本拠地があるらしい。すでに斥候を送っていて情報が間違いないことは確かめてあった。
俺達の次の目的地は決まった。
「よし、では僕たちはそこへ向かおう。グランツはここに残ってアリアを手伝ってくれ。アリアは引き続き竜の情報集めを続けてくれ。二人とも出発の準備が出来次第すぐに向かうぞ」
フィリアが地図を受け取り、俺達三人はギルドを後にする。
「とりあえず、俺は移動に必要な物資を補給してくるよ。二人は情報の整理を頼む」
フィリアとウンディを宿に残し、俺は調達に向かう。
もしかすると長旅になるかもしれない、そう考えて少しだけ多く買っておくことにした。
荷物を積み込むと二人を呼んできてすぐに出発した。
「そういえば二人に伝えておきたいことがあるんだけど、昨日の夜にやつらの襲撃があってグランツさんと二人で撃退したよ。その時に彼の守護者にしてもらってさ。彼ほどじゃないけど俺もかなり頑丈になったよ」
しばらく返事が無かったので、後ろを見ると二人とも黙ってこちらを見ていた。
「まさか、彼の守護者にまでなるとはね。ウンディといい彼といい君の何をそこまで気にいるのか甚だ疑問だよ」
「オジサマが守護者を作ったのって初めてじゃありません?ワタクシ驚きですわ・・・」
どうやら相当驚いたようだ。
幸い移動中はやつらに襲われることも無く、順調に目的の場所へとつくことができた。
やつらの本拠地は、どうやら大昔に廃棄された砦のようだ。
かなり森の奥深くにあったので今まで誰にも見つからなかったのだろう。
砦は木々に覆われていて、天然のカモフラージュが施されていた。
三人で中を捜索するがやつら姿はどこにも無い。
廃棄されたのだろう、割れたビンやなぞの薬草がいたるところに落ちて腐敗していた。
「のこるはこの大広間だけか、なにか情報があると良いんだけどな」
扉を開け中をのぞくと、何か大きな物が部屋の中央にあった。
「おい、あれってもしかして竜じゃないか?」
中にいたのは首輪をつけられ傷ついた竜だった。
手足は太い杭のようなもので地面に打ち付けられている。
竜は傷ついた体を起こしこちらをにらんでいた。
「落ち着いてくださいまし、ワタクシたちはあなたの敵ではありませんの。何があったか教えてくださいまし」
ウンディが竜の姿に戻り、竜に近づく。
同属の姿を見て安心したのか、警戒を解いてくれたようだ。
ウンディと竜は、会話をするように鳴き声をあげている。
「なぁフィリア、なんて言ってるんだ?」
フィリアに通訳を頼む。守護者といえどさすがに竜の言葉を理解できるようにはならないようだ。
「ある日、自分より強い人間に倒され気がついたらここにいたようだね。その後は人間たちに血を抜かれていたようだ。おそらく薬の原料の血は彼のものだろう」
ダルクスがやったのだろう。やつ以外で竜に勝てるような人間が至竜教にいるとは思えなかった。
ウンディが竜の杭を抜こうとした手を伸ばしたとき、急に声が響いてきた。
「まさかこの場所がばれるとは思いませんでしたよ。いやはや冒険者というのは厄介なものですねぇ」
竜の後ろの暗がりから人が現れた。竜の仮面をつけ赤いローブをまとっているところを見ると、どうやら至竜教の一人で間違いないだろう。
刀を抜き、いつでも斬りかかれるように構える。
「僕としては君たちのほうが厄介なんだけどね。誰もいないところを見ると教主は怖気づいて逃げてしまったのかな?」
フィリアが情報を引き出そうと挑発する。
ダルクスがいるならば今度こそ負けるわけにはいかない。
「教主様はほかの信者たちを連れてハジの町へ向かっていますよ。狙いはあなたたちでしたが、どうやらすれ違ってしまったようですねぇ」
どうやらハジの町を襲うつもりだったようだ。しかも狙いは俺達とはたいした自信だな。
「二人とも、やつを片付けて竜を保護したらすぐハジの町に戻るぞ。アリアたちが危ない」
彼女の言葉を聞いてすぐに行動に移す。一瞬で距離をつめ、男の首を切り落とす。
何か罠があるかと警戒したが、呆気なく死んでしまったようだ。
男が倒れるのを確認してウンディが竜の杭を抜こうとしたとき、驚くべきことが起こった。
男が死ぬと同時に、杭が水のように溶けてしまったのだ。どうやら男が魔法で杭を形作っていたらしい。
杭が溶けるのと同時に、竜が咆哮とともに暴れだした。
しばらくすると竜は力なく倒れてしまった。
フィリアが近づき、杭だった液体を調べる。
「どうやら毒のようだね。残念だが彼はあきらめるしかないだろう」
竜が絶命するのを、黙ってみているしかなかった。
「君のミスじゃない。これ以上犠牲を出さないためにもハジの町へ急いで戻るとしようじゃないか」
フィリアが俺にやさしく声をかけてくれた。
ふと手に痛みが走ったので見てみると血が流れていた。
どうやら無意識のうちに爪が食い込むほど握っていたらしい。
こみ上げる怒りと悔しさを何とか抑え、できるだけ急いでハジの町へ戻った。
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