第33話 土の竜

目的の町へは4日ほどかかった。

途中何度か奴らの襲撃があったが、特に問題にはならなかった。

フィリアは相変わらず戦わなかったが、俺とウンディの二人で十分だった。

ウンディの守護者となったことで俺は人間の気配を察知する能力が強化されたようだ。

魔力の流れについても、かなりの感度で分かるようになった。

その上、ウンディの魔法は強力だった。

今までは刀で一人一人相手をするしかなかったが、彼女の魔法であれば複数が相手でも一撃で終わらせることができたからだ。


「当然ですわ!ワタクシがいる以上、お姉さまには指一本触れさせませんわよ!」


彼女のおかげで移動中もかなり賑やかになった。

ことあるごとにフィリアに抱きついて彼女から突き飛ばされていたが、気のせいか、フィリアも楽しそうだった。


「そう言えば、今度行く町には何があるんだ?」


移動中にフィリアに尋ねる。

ウンディも気になっているようだ。


「アリアにお願いしていたのは、山が一晩で出来たとか何をしても傷つかない岩があるとかそういった類の伝説だね。彼が現れたなら何かしらの形で情報が残っていると思ったのさ」


アリアにもらった紙を広げながらフィリアが答える。

彼女はウンディの膝枕で横になっていた。


「土の竜ということは今度はオジサマに会えるのですわね。楽しみですわ」


おじさま・・・今度の竜はどうやら男のようだ。

目的の町へ着くと、そこは元炭坑街だった。

まるで崖の中に作られたような町で、空は少ししか見えなかった。。

建物はすべて木ではなく、切り出された石で出来ているようだ。

今は廃坑になってしまった昔の鉱山跡を解放して、観光地として成功しているようだった。


「すごい賑わいだな」


山奥だというのにかなりの人がいた。何かイベントでもあるのだろうか?


「見てくださいお姉さま。賢者の石と書いてありますわよ。どうやらこれで人間が多いようですわね」


町の入り口にのぼりが掲げてあり、そこにはこう書かれていた。


『賢者の石、炭坑跡にて公開中!』


「君たちが見たとおり、僕たちがここへ来たのはその賢者の石と呼ばれている物があるからさ。恐らく僕は彼なんじゃないかと思っている」


宿に着くと、フィリアはこの町へ来た目的を話した。


「そういうことでしたのね。確かにオジサマが寝たままならそう呼ばれてもおかしくないかもしれませんわね」


何でも賢者の石というのは、この炭坑跡で見つかった不思議な宝石のことのようだ。

観客へのイベント向けに、発破を行っていたところ偶然見つけたらしい。

何をしても傷一つつかない不思議な金属で、今ではこの町の名物になっているようだ。


「でもどうするんだ?この町の名物だし、こっそり近づくなんて無理じゃないか?」


先ほどの大通りの人混みはかなり酷かった。

あの人たちが全員見に行くとしたら相当な人が周りにいるはずだ。


「僕たちが話しかけて万が一彼が起きたら大変なことになってしまうだろうね。町の人には悪いが、夜中に忍び込んで会いに行くとしようか。確認して石が彼だったら連れ出そう」


夜に忍び込むなんてあまり賛成できなかったがほかに方法はなさそうだし仕方ないか。

夜にまたフィリアの部屋に集まることにした。


「じゃあまた夜にな」


フィリアはすでに昼寝をするつもりのようだ。

俺は部屋を出ようとしたがウンディはどうやらフィリアのベッドに入りこむつもりのようだ。


「仕方ありませんわね」


フィリアのベッドに入ろうとするウンディ。

そのたくらみは失敗し俺と一緒に部屋を追い出されてしまった。


その夜、フィリアの部屋に集まった俺たちは3人は石が展示されている鉱山跡に向かった。

入り口まで来たときに異変にきづいた。なぜか見張りの人の姿がない。


「どうやら先客がいるようだね。二人とも気をつけてくれよ」


フィリアは何かに気づいたようだ。

彼女の言葉で俺は刀を抜き、ウンディは竜の姿になる。

展示場所へ着くと、至竜教の奴らが石の周りでなにやら細工をしているようだった。


「どうやら彼をこのままどこかへ連れて行くつもりのようだね。ショウ、ウンディ、君たちの出番だ」


彼女の言葉を合図に、俺達は物陰から飛び出す。

一番近くにいた男の首を斬り落とし、そのまま次の相手へ斬りかかる。

3人目を切り倒したところでウンディが魔法を放ち残りの男たちを串刺しにしていく。

運良く魔法から逃れた男を俺が倒すと、ようやくあたりに静けさが戻った。

賢者の石と呼ばれる宝石はかなりの大きさの銀色の球体だった。

鏡のように周りの景色を反射している。


「お疲れさま、さてそろそろ彼に起きてもらおうか」


しかしどうするのだろう、爆発させても何も起きないのならそれ以上の衝撃が必要だろう。

それに爆発を起こせば、町の人に騒音で気づかれてしまうだろう。


「ではここはワタクシの出番ですわね。」


ウンディが魔法を唱え始めた。石を水で包み込む。

しばらくすると、石から気泡が出てきた。


「起きたようだね。ウンディもういいだろう」


フィリアの合図でウンディは魔法を解き人の姿に戻る。

石は小刻みに震えていたが、やがて卵が割れるようにヒビが入った。

パキパキという音を立て、石が立ち上がる。

そこには角はなく、翼もない竜がたっていた。

その全身は光沢のある金属のような銀色の鱗で覆われていた。


「すごい、本当に竜だったんだ」


俺はいまだにその光景が信じられなかった。

賢者の石が発見された地層からすると、800年以上前の物だと説明されていたからだ。少なくともこの竜は800歳以上と言うことになる。


「おはよう。グランツ、久しぶりだね。まさか僕たちのことを忘れたりはしていないだろう?」


グランツと呼ばれた竜は当たりを見渡しフィリアとウンディに気づいたようだ。


「フィリアちゃんにウンディちゃんか。久しぶりだね。それでここはどこだい?」


この二人をちゃん付けとは、すごい竜だな。


「お久しぶりですわ、オジサマ。ここは人間の町の中ですの。オジサマは寝てる間に人間たちに見つかって見せ物にされていたのですわ」


ウンディが事情を説明すると、状況を理解したようだ。


「ありがとう二人とも。それで本当の用件はなんだい?君たち二人が守護者を連れてくるなんてただ事じゃないんだろう?なぜかまわりは人間の死体だらけだしね。詳しく説明をおねがいできるかな」


まだ紹介していないのに俺を守護者と見抜くなんて、なにか特別な力でもあるのだろうか?


「その件については、ここを出てから話そうか。とりあえず人の姿になってもらえるかい?」


至竜教の仲間が来るかもしれないし、さっさと離れた方がいいだろう。


「わかった。久々だからうまくいくといいけどね」


のんびりとした口調で答えているが大丈夫だろうか・・・。

グランツの周りを岩が覆っていく。

その岩が崩れたときに、中から筋骨隆々の大男が現れた。

肌の色は黒く、銀色の髪を短く刈り上げている。

前が大きく開いた灰色のジャケットを身にまとい、丸太のように太い足はぴっちりとした黒のズボンで覆われていた。

年は30代に見えた。オジサマという理由が何となく分かった気がした。


「どうやらうまくいったようだね。とりあえず、僕たちの宿へ向かおうか。そこで何が起きているのか、把握してもらおう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る