第31話 水の竜の力
俺は刀を抜き、ウンディに向けて構える。
どのような魔法を使うのかわからない。
まずは様子見をする事にした。
「こないならワタクシから行きますわ!」
ウンディが魔力を練り始める。
身構えていたが、魔法が飛んでこない。
隙だらけだった彼女の元へ一瞬で距離を詰めると、喉元に刀を突きつける。
「そこまでだ。ウンディ、君の負けだ。魔法の発動に時間がかかるのは、まだ変わっていないようだね」
フィリアが声をかける。
どうやら勝ってしまったようだ。
「嘘だろ?これで本当にフィリアと同じ竜なのか?」
刀をしまいながら思わずそんなことを口にしてしまった。しまったと思ったときには、もう遅かった。
「ワタクシだって、ワタクシだって、遅いことは自覚してますわ!魔法さえ使えてればワタクシの勝ちでしたのに!」
竜の姿のままじたばたと暴れ出す。
どうやら悔しくて涙まで流しているようだった。
「湖の底でのんびりと暮らして弱点をなおさなかった君が悪い。約束は守ってもらうよ。僕たちに着いてくるのは無しだ」
フィリアがため息を吐いた。どうやら昔からこんな性格のようだ。
「でもフィリア、俺たちに着いてこないならどうするんだ?一人で放っておく訳にもいかないだろ」
この強さでは奴らに捕まってしまうかもしれない。一人にさせておくのは危険だろう。
「その事についてだが、アリアに任せようと思う。彼女なら実力的にも信用できる。ハジの町にいれば、奴らも手出ししづらいだろう」
彼女が信用できると言うなんて、アリアさんはそんなに強いのだろうか・・・。
「とりあえず、町まで一緒に行こうか。ウンディを預けた後、次の竜へ会いに行こう」
ウンディが竜から人の姿に戻る。
人の姿になっても、座り込んだまま泣いているようだ。
「うう、お姉さまとのイチャイチャワクワクの冒険生活が・・・」
いや、勝てたとしても俺も一緒だからね?そんなことを思ったが言わないことにしておいた。これ以上傷つけなくていいだろう。
「とりあえず今日は町に泊まって、明日の朝みんなで出発しようぜ」
うなだれているウンディを連れて3人で町へ帰った。
その夜、部屋で刀の手入れをしているとウンディが外へ出て行くのが見えた。
「どこへ行くきだ?」
気になってあとを着いていくと、彼女と出会った湖についた。
彼女は当たりを見渡したあと、竜の姿に戻り湖で泳ぎだした。
まるで踊るようなその姿に見とれていると、彼女が気づいたのかこちらをみている。
「誰ですの?隠れているのは分かっていますわ。おとなしく出てきなさい」
ばれていたのだろうか。
彼女に声をかけようとしたその時、辺りの暗がりから男たちが出てきた。
その手には剣や斧などが握られている。
一人の男が前に出て彼女に話しかける。
どうやらこいつがリーダーのようだ。
「我らは至竜教の者です。水の竜様とお見受けいたします。どうか一緒に来ていただきたい」
昼間の奴らとは雰囲気が違う。
どうやらこいつらは荒事専門のようだ。
「お断りしますわ。死にたくなければ、さっさと消えるのですわ」
ウンディが奴らを睨む。
男たちから笑い声が上がった。
「仕方がないですね。あまり怪我はさせたくなかったのですが。やれ」
武器を手に彼女に詰め寄る男たち。
見ているわけにはいかない。
ウンディを守るため、刀を抜くと彼女を背に奴らの前に立ちふさがる。
「お前、どうしてここにいるんですの?余計な手出しは無用ですの」
この状況でそんなことを気にするのか。
肝が据わっているのか天然なのか・・・
「部屋から出て行くのが見えて、後を着けてたんだ。狙われてるっていうのに一人で行動するなよ」
彼女はまだ不服そうだった。
思いっきりこちらをにらんでいる。
「乙女の後をこっそり付けるだなんて最低ですわ!罰として、こいつらの相手はあなたがしてくださいまし」
彼女はそう言うと、湖に潜る。
まぁ狙われるよりは安心だろう。
俺が現れたことで、奴らが動揺しているのがわかる。
どうやら底まで強くはないようだ。
さっさと終わらせて帰ろうと思ったその時、奴らのリーダーが叫んだ。
「仕方ない。お前ら、竜に身を捧げろ!」
合図とともに、そいつ以外の男が何かを飲んでいるのが見えた。
次の瞬間、男たちは絶叫しながら、竜へと姿を変えていった。
「こいつらあの薬を飲んだのか!?何て奴らだ」
竜へと変貌した男たちが向かってくる。
動きも早く、力も強い。
1体1なら問題なかったが、数が多かった。
反撃しようにも、数に物をいわせた猛攻に手が出せない。
何とか防ぎ続けるが、じわじわと体力を削られてしまっている。
このままではその内やられてしまうだろう。
逃げることはできたが、それではウンディがどうなるか分からなかった。
「まったくいつまで騒いでいますの?これだから人間は嫌いですわ」
後ろを見ると、ウンディが顔を出していた。どうやら逃げていなかったようだ。
「仕方がないから、ワタクシが手を貸して上げますわ」
そう言うと彼女は目を閉じ魔力を集め始めたようだ。
彼女のことを信じ、攻撃を防ぎ続ける。
「人間しては上出来ですわ、ふせなさい!」
しばらくたった後、彼女からの合図がくる。
地面に伏せた俺の頭上を、無数の氷の槍が飛んでいく。
俺が戦っていた竜たちは、槍に貫かれ全て絶命していた。
リーダーの男も同じように貫かれ、木にはりつけにされていた。
「すごい、なんて威力だ・・・」
並の攻撃では奴らの体には傷すら付けられないだろう。
それを容易く貫くなんて、見事としかいいようがなかった。
「当然ですわ!ワタクシを誰だと思っていますの!」
魔法さえ使えれば勝てたというのは本当だったのだ。
安心したら、体中から痛みを感じた。見ると至る所から血が出ている。
どうやら知らない間にだいぶやられていたようだ。
ウンディを見ると、ほめてほしそうな視線でこちらを見ていた。
助かったのは事実だし、彼女の望んでいる言葉をかけてあげるか。
「本当にすごいな。これを勝負で出されたら俺の負けだったよ」
満足したのか、人の姿に戻りこちらに近づいてくる。
「まぁあなたも、人間にしてはよくやった方ですわ。自信を持っていいと思いますわよ」
俺の肩をたたきながら大きく笑う彼女。
傷に響き思わず顔をしかめてしまう。
それに気づいたのか、ウンディが心配そうな顔をしていた。
こんな顔もできるんだな。
「とりあえず、帰ろうか。こんなところフィリアに見つかったら大変だしな」
刀をしまい、傷を抑えて歩き出す。
すると、ウンディに呼び止められた。
「ショウ、待つのですわ。こちらに来なさい」
なんだろう。不思議に思っていると彼女が自分の指を噛んでいるのが見えた。少しだけ傷を付けたのか、指から血が流れている。
「そのまま帰ったらお姉さまにばれてしまいますわ。私の血を飲んでせめて傷だけでも治すといいですわ」
そんなことをして大丈夫なのだろうか・・・。
悩んでいると彼女が指をこちらに突きだしてきた。
早く舐めろということだろうか。
仕方なく彼女の指を口に含んだ。
「な、な、何て事をするんですの!」
なぜか思いっきり蹴飛ばされてしまった。
フィリアほどではないが十分痛い。
「お前が飲めっていったんだろ!なにすんだよ!」
たまらず文句をいうが、彼女は顔を赤くして湖で指を洗っていた。
「だからって口に含む奴がどこにいますの!垂れた血を飲ませるだけに決まっているでしょう!」
そんなこと分かる訳ないだろ!と言いたかったがぐっとこらえた。
確かに口に含んで良いとは言ってなかったからな。
「わかったよ、俺が悪かった。さっさと帰ろ・・」
言い掛けて体に激痛が走り倒れる。
ウンディがニヤリと笑っているのが見えた。
彼女のその顔はフィリアが笑ったときと同じ様な顔だった。
「やっと効いてきたようですわね。そこでおとなしく朝まではいつくばっていると良いですわ。ワタクシはその間、お姉さまと夢のようなひとときを過ごさせてもらいますので」
顔を赤らめて涎を垂らすウンディ。どんな妄想してんだこの竜は!
「じゃあワタクシはこれで。ではまた明日」
ペコリと一礼すると、すごい速さで帰っていく彼女。
痛みで意識を失わないように耐えながら、朝まで過ごした。
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