第30話 お姉さま???

お姉さま・・・?

俺の聞き間違いでなければこの竜はフィリアをお姉さまと呼んだ。

呆気にとられていると竜はフィリアに襲いかかった。いや、あれは抱きつこうとしているようだ。


「お姉さま!やっぱりお姉さまでしたのね!あの魔力をワタクシが間違えるわけありませんもの!」


フィリアはそんな彼女?を手で遠ざけている。

あんな風に困った表情をしている彼女を見るのは初めてだ。


「久しぶりだね。とりあえず、人間の姿になってもらえるかい?このままじゃ僕と再会のハグもできないぞ」


フィリアにそう言われ、ハッとした表情で口をおさえる。

仕草は女の子だったが竜がそれをやると怖い・・・。

竜を水の渦が包み込む。

その渦の中から青いワンピースを身につけた美女が現れた。

肩で切りそろえられた青い髪。

その瞳は髪と同じく青色だ。

フィリアや俺よりも背が高く見た目で言えば、俺よりも年上の様に見えた。


「ごめんなさいお姉さま。ワタクシったらつい嬉しくて。でも何百年ぶりかしら!会いたかったわお姉さま!」


人の姿になった彼女は、フィリアを思いっきり抱きしめる。

抱きつかれたフィリアは彼女の大きな胸に顔を沈められ、すこしだけ苦しそうだった。


「全く君は!いつになっても変わらないね。嬉しいのは分かるけどとりあえず離してもらえないかな!」


フィリアが顔を離し、彼女に叫ぶ。

名残惜しそうにフィリアを離すと、やっと俺の存在に気づいたようだ。


「お姉さま、この人間はなんですの?」


こちらを指差す彼女。

どうやらフィリア以外にはあまり興味無いようだ。


「彼はショウ。僕の守護者だよ。君もそろそろ自己紹介をしたらどうだい」


フィリアに促され、彼女はしぶしぶと言った形でこちらに話しかけてきた。


「ワタクシ、ウンディと言いますの。お姉さまと同じく原初の4竜の一角、水を司る竜ですの」


ワンピースの裾をつかみ、優雅に一礼する。

動作は美しいが、喋り方で台無しだった。

フィリアの方を見ると、彼女は遠くを見ていた。気にするなと言うことはこういうことか。


「よろしく。ウンディさん。俺はさっきフィリアに紹介されたとおり、彼女の守護者だ」


ウンディは俺の話を聞いていないのか、話している間もじろじろと俺のことを観察している。

何か気になることでもあるのだろうか?


「ふーん、そうでしたの。あなたのようなみずほらしい人間が、お姉さまの守護者だなんて・・・もっとましな人間はいなかったのかしら?」


酷い言われ様だな。

ウンディは俺にはもう興味がないのか、またフィリアを抱きしめると再会を喜び始めた。


「それで、お姉さまがワタクシに会いに来てくださるなんて何かありましたの?まぁお姉さまなら何もなくても会いに来てくださって大歓迎ですけど」


フィリアを抱きかかえ、左右に振り回す。フィリアは頭の上に胸を乗せられ、無表情のまま揺らされていた。


「とりあえず、落ち着いて話ができるところに行かないか?久々の再会だ、食事でもしながら話そうじゃないか」


ウンディは同意したのか、彼女を抱き抱えたまま馬車に座る。


「人間、早く馬車を出すのですわ。お姉さまをお待たせするものじゃありませんわよ」


人間って・・・俺にはショウって名前があるんだけどな。

仕方なく、近くの町へ向けて馬車を走らせた。


町へ着くと冒険者ギルドに向かい、奴らの死体の片付けをお願いした。

どうやら奴らには賞金がかけられているらしく、少しだが報酬を貰うことができた。

ギルドから出て、食事をとるために店を探す。

冒険者でにぎわう店があったので、その店に決めた。


「全く、お姉さまにこんな店で食事させるなんて。気配りが足りませんわね。ささお姉さま、お口を開けてくださいな」


文句を言いながらも、ウンディは届いた料理をフィリアに食べさせている。

フィリアもフィリアで文句を言わずに彼女に食べさせてもらっていた。


「なぁフィリア、そろそろ来た目的を教えた方がいいんじゃないか?」


食事も終わり、さっそく本題を切り出す。奴らがいたのだ、あまりのんびりしている時間はないかもしれないな。


「そうだね。ウンディ今からまじめな話をするから、ちゃんと聞いてくれるかい?」


フィリアがまじめな表情に戻る。

ウンディもまじめな顔になり、椅子の上に正座していた。


「お姉さまのお話なら、ワタクシはいつでも真面目に聞いてますわ。それでどんな用でワタクシに会いに来てくださったの?」


フィリアは今回来た目的を話しはじめた。

至竜教という奴らが、原初の4竜の血を狙っているということ。

湖の上で待ち伏せていたのは奴らで、危険が迫っていること。

ウンディは彼女の話にうんうんと頷いていた。


「なるほど、外が賑やかだったのはそういうことでしたのね。お姉さまが守護者なんて作っているから、ただ事ではないと思いましたけど。やはり人間は面倒ですわねぇ」


話を聞き終わるとため息をつく。

本当にわかっているんだろうか。


「それでだウンディ。君はどうする?この場所はばれてしまったし、留まるのは危険だ。奴らが諦めるまでずっと湖の底に留まるわけにもいかないだろう?」


ウンディは少しだけ考えるような素振りを見せたが、すぐに答えは出たようだ。


「決めましたわ。ワタクシ、お姉さまについていきます」


彼女の返事にフィリアは納得していないようだ。


「それはだめだ。僕たちも奴らに追われている。君を守る余裕なんて無いよ」


確かにフィリアといるのはある意味安全だろう。

だが、フィリアも至竜教に狙われているのだ。そういう意味では危険でもあった。


「ワタクシだってお姉さまほどではないけれど戦えますの。ただの人間ごときに遅れはとりませんわ!」


フィリアは他の竜たちは自分ほど戦えないと言っていた。

実際どれぐらい強いのだろう。


「君がそういうのであれば、彼と勝負してもらおうか。勝てたら一緒に付いてきてもいいだろう」


フィリアの提案にウンディが勢いよく立ち上がり、こちらに指を突きつける。


「分かりましたわ!お姉さまの守護者といえども手加減しませんわよ!」



急に何を言い出すんだこの竜たちは。


「俺は良いといってないんだがなぁ」


俺の意見など全く聞かれず、勝負する羽目になってしまった。


町から離れ湖に戻る。

誰もいないことを確認すると、ウンディは竜の姿に戻った。


「おいフィリア、竜の姿で戦っていいのか?」


てっきり人間の姿で戦うと思っていた俺は、びっくりしてフィリアに尋ねる。


「まぁ仕方ないさ、彼女はその姿じゃないと魔法が使えないからね」


そんなのありか、と内心思ったがフィリアに逆らうわけにはいかなかった。


「怖じ気付きましたの?それなら降参してくれても良いですわよ?」


ウンディが馬鹿にしたような声で挑発してきた。

ここまで言われて黙っていられるわけがない。


「そっちこそ、怪我しても文句言わないでくれよ」


二人の様子を見て、フィリアがやれやれと言った感じで首を傾げているのが見えた。


「じゃあ勝負を始めてくれ。僕が合図を出すか、どちらかが気絶したら終了だ。くれぐれも殺さないようにだけ気をつけてくれよ?」


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