第25話 終わった後のこと

ギルドへ着くと、すやすやと寝ているフィリアを起こし二人で報告へ向かう。


「というわけで、あの遺跡の調査と捕虜たちの扱いはこのギルドに任せるよ。僕たちが手伝うのはここまでだ。何かわかったらハジの町のギルドへ連絡してくれ」


報告を聞いたギルド員は、急いで冒険者の手配を始めた。

これで調査が進めばもっと手がかりが手に入るはずだ。


「じゃあ僕たちはハジの町へ帰ろうか」


ギルドを出ようとしたところ、呼び止められて振り向く。


「お待ちください、フィリア様、ショウ様」


立派な髭をたくわえた老人が立っていた。髭も髪も真っ白だ。

なにか用でもあるのだろうか?二人で老人のもとへ向かう。


「何かようかな?僕たちは忙しいんだけどね」


特に用事はないはずだが、フィリアは面倒ごとはゴメンだと言わんばかりの態度だった。


「急に呼び止めてしまい申し訳ありません。ワシはこのギルドの長をしておりますダレスというものです。お二人のおかげでこれ以上犠牲が出ることはないでしょう。本当にありがとうございます」


こちらに向かって恭しく礼をしている。

この老人はどうやらギルド長のようだ。


「構わないさ、それで要件は何だい?お礼を云うために呼び止めたわけじゃないだろう?」


なにか察したのか、フィリアの顔が険しくなる。

ダレスは髭をいじりながら笑うと、呼び止めた理由を話し始めた。


「察しが良くて助かります。ご存知の通り、今回あなた方が向かうまでに4人の犠牲者を出しております。みなドラゴン級の実力者でした。お恥ずかしい話ですが、このギルドにはもうドラゴン級の冒険者がおりませぬ。先ほど変異種が目撃されたため、あなた達に討伐をお願いしたいのです」


そういうことであれば、引き受けないわけには行かない。

それに、情報が入ったらすぐに知ることができるようにこのギルドに残りたい気持ちもあった。


「引き受けよう。その代わり、ハジの町のギルドへの報告は君たちにお願いする。それと報酬金も変わりに払ってもらえるかな?」


フィリアも同じ気持ちだったようだ。

ダレスはギルド員に報奨金の準備と、ハジの町への報告を指示する。

ダレスの案内で応接室へ向かい、そこで話を聞くことにした。


「今回目撃されたのは、スライムです。この町から東に行った草原にいるようです」


スライムだって?スライムの特徴といえば、弱いことぐらいだ。

ヌメヌメとした体で動きは遅く、力もない。

冒険者は見かけても全く相手にしないし、子供が遊びで倒してしまうような最弱の魔物だ。


「スライムぐらい、ドラゴン級じゃなくても倒せるんじゃないですか?」


おもわず口を挟む。いくら変異種とはいえ、スライムがそこまで強くなるとは思えない。


「ワシもそう思い、ベヒモス級の冒険者を向かわせたのですが、逃げ帰ってきましてな。そやつが言うには、何をしても死ななかったそうです」


何をしても死なない?どういうことだろう。

奴らは核を透明な体の中に持っている。

それを壊せば水が蒸発するように消えてしまうはずだ。


「その冒険者は今どこにいるんだい?僕からも詳しく話をききたいね」


フィリアが楽しそうな顔をしている。

これはまた何か無茶をやらせるつもりだな。


「やつなら今ギルドにいたはずです。お呼びいたしましょう」


ダレスが部屋を出て呼びにいく。

しばらくすると、冒険者を連れて戻ってきた。


「なんだ?話を聞きたいってのは、嬢ちゃんたちか」


男は俺たちを見て驚いたようだ。

まぁいつものことなので気にしないことにする。


「まぁいいや、で何が聞きたいんだ?」


男が向かいの席に座ると酒の匂いがしてきた、

顔は真っ赤で頭はフラフラ揺れている。どうやら相当飲んでいるようだ。


「君が戦ったスライムについて話を聞きたい。死なないとはどういうことだい?」


気にせずにフィリアが話しかける。


「あーあいつのことか、そのまんまの意味だ。核がねぇんだ。適当に何度か槍でぶっ刺したけど、全く手応えがなくてよ」


仕方ないからそのまま帰ってきたらしい。

動きは遅かったから、逃げるのは簡単だったようだ。


「もういいだろ、やつは死なねぇけど危険でもねぇんだ。ほっときゃいいさ」


男がでていく。こんだけ飲んでいるのにまだ飲む気でいるようだ。

俺とフィリアもダレスから報酬を受け取ったあと、ギルドを出る。

もう夕方になっていたため、今日はこの町の宿に泊まるようだ。


「僕はちょっと行くところがあるから、君は先に宿を取っていてくれないか?」


俺の返事を待たずに、彼女はどこかへ行ってしまった。

用事だなんて珍しいこともあるもんだな。

そう思いながら先に宿へ向かった。


宿で夕飯を食べているとフィリアが帰ってきた。

どうやら用事は終わったようだ。

俺を見つけると同じ席にすわり、料理を注文する。


「遅かったな、どこ行ってたんだ?」


答えてはくれないだろうけど、訪ねてみた。

すると意外にも、彼女は行き先を教えてくれ。


「荷台を改良しようと思ってね、明日の朝には受け取れるようにお願いしてきたのさ」


確か腰が痛いとか言ってたもんなぁ。長距離の移動は相当堪えたようだ。


「そういえば、君に聞いておきたいことがある。今日君が見たように僕は簡単に人を殺す。それでも君は僕についてくるかい?」


彼女は明日の天気でも聞いてくるかのような軽い調子で尋ねてきた。

俺は突然こんなことを聞かれて固まってしまう。


「もし君が着いてこないといっても、殺しはしないから安心して答えてほしい。今から僕と離れて、冒険者として気ままに暮らしてもいいし、普通の村人として暮らしてもいい。どうする?」


断ると殺されてしまうと心配していると思ったのか、彼女がこんなことを言い出した。

俺は彼女に自分の意思をはっきりと伝えた。


「俺はフィリアにどこまでもついていくよ。とりあえずは奴らを壊滅させるまでが目標だな。そのあとのことは、その時に決めるさ。俺にここまでしておいて、いまさらフィリアのほうから嫌だなんて言わせないぞ?」


冗談っぽく答えたが、いまさら彼女と離れるつもりなどない。

俺の復讐もまだ終わっていないし、彼女の悩みもまだ解決していないのだ。

その先のことはまたその時に二人で話し合おう


「その時に僕が嫌だと言わないで済むように、頑張ってくれたまえ」


俺の返答を聞いて彼女は満足したようだ。

丁度料理が来たので、上機嫌にそれを食べ始めた。


「じゃあ俺はもう寝るぞ、明日も頑張らなきゃな」


彼女を残し、部屋へ戻る。

今日もいろいろあったけど、変異種の討伐のほうが大変だったな。

そんなことを考えながら眠りについた。

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