第24話 彼女の正体
フィリアを荷台に乗せ、近くのギルドを目指し走る。
「もう少ししたら湖がある。そこで休憩しようか」
珍しくフィリアの方から、休憩を進めてきた。
恐らくそこで、彼女の抱えている秘密を教えてもらえるのだろう。
湖にたどり着くと、荷台をおろす。
休んでいると、彼女も荷台から降りてきた。
沈黙が続く。
話してくれるとは言ったが、心の準備が必要なのだろう。
「とりあえず、見てもらった方が早いだろう。言っておくけど、これから見ること、聞くこと、全部他言無用だからね」
決心できたのだろうか、彼女が真剣な顔で確認してくる。
もちろん、彼女の秘密を口外する気はない。
「わかった。二人だけの秘密だ」
大きく頷く。
フィリアは俺の返事に満足したのか、目を閉じ、魔力を集めだした。
彼女の体から炎が吹き出し、全身を覆っていく。
その炎が消えると同時に、中から現れた姿に目を奪われる。
それは竜だった。
巨大な体に太い尻尾、丸太の様な手足には鋭い爪が見えた。背中には2枚の大きな翼が生えている。
額にも2本の大きな角を生やし、その全身は赤い鱗で覆われていた。
「これが僕の本当の姿だ。驚いたかい?」
竜がフィリアの声で話しかける。
俺はあまり驚いていなかった。
今まで彼女に抱いていた数々の疑問、それらがすべて解決した瞬間だった。
もしかしたら、本当に竜かもしれないと思っていた彼女が、本当に竜だっただ。ただそれだけのことだ。
「正直なところ、疑惑はあったし、フィリアは最初から、自分は竜だって言ってただろ。そんなに驚いてないよ。逆に人間じゃないってわかってほっとしたくらいさ」
そんなショウの姿を見て、逆にフィリアの方が驚いたようだった。
再び炎が彼女を包みこむ。
その炎が消えたとき、いつものドレスを身につけたフィリアが立っていた。
「とりあえず、僕が竜だとはわかってもらえただろう。他のことについての説明は、この格好でさせてもらうよ」
荷台に座ると、ティーセットを取り出し、紅茶をいれ始める。
いつもと変わらない光景だ。
俺も彼女の隣に腰掛ける。
「じゃあ、原初の4竜ってなんなんだ?」
奴らが言っていた、フィリアを狙う理由。全く聞いたことのない言葉だけに、その意味を想像すらできない。
「君は、この世界の4大属性を覚えているかい?」
以前彼女に教わったことを思い出す。
確か、魔法の属性でもあったはずだ。
「火、水、土、風、の4つの属性のことか?」
そこに光と闇も加わり、6大属性という地域もあるが、4大属性と言えば、この4つだった。
「そうだ。原初の4竜とは、人間にその属性の魔法を伝えた、伝説の竜のことだよ。僕はその内の一角、火の竜の末裔なのさ」
そんな伝説の存在がいたことにも驚きだが、彼女がその末裔とは、さらに驚きだ。
「これは信じられないかい?でも事実だ。人の姿に化ける力も、人間を守護者にする力も、普通の竜は持っていない。原初の4竜の特権さ」
彼女の言う通り、竜が人に化けるなんてのはおとぎ話でしか聞いたことがない。
守護者にしたってそうだ、こんな力を持った人がいれば、たちまち噂になるだろう。
事実、俺はハジの町では誰もが知る一流の冒険者になっていた。
「そのことがばれたから、奴らはフィリアを狙ってるのか?」
至竜教の奴らは、竜の血を使って竜の力を得ることができる薬を開発しようとしていた。
おそらく4竜の血には、ほかの竜たちと違い特別な効果があると考えたのだろう。
「そうだろうね、恐らく狙いは僕の血だろう。どこからか居場所を突き止め、襲ってきたんだろうさ」
飲み終えたのか、片付けながら彼女は言う。
「僕の血を手に入れない限り、奴らはどこまでも追ってくるだろうね。僕が隠れているという噂があれば、村を襲ったりもした。君が巻き込まれたのは、そのせいだろう」
村が襲われた理由がはっきりとした。
恐らくフィリアが近くで目撃されたのだろう。
そしてたまたま近くにあった俺が住んでいる村に隠れていると思い、襲ってきたのだ。
「これは僕の責任でもある、あの時僕が近くにいなければ、君はこんなことに巻き込まれていなかっただろうからね」
彼女は、自分も常に狙われているというのに、巻き添えで犠牲になった人々の責任を背負ってきたのだ。
何人もの命の責任を感じて生きるなど、どれほど大変なことだっただろう。
俺には想像すらできなかった。
「フィリアが責任を負う必要なんてない、悪いのは奴らだ。あいつらには、きっちりと代償を払ってもらおう」
もう2度と、自分の村のような犠牲を出してはいけない。
そのためには、奴らを壊滅させなければならないのだ。
「そうだね、君という戦力もできたんだ。これからは反撃といこうじゃないか。君には、今以上に頑張ってもらわないといけないが、よろしく頼むよ、僕の守護者」
いつもの笑顔を見せるフィリア、もう大丈夫のようだ。
「フィリア。話してくれてありがとう」
話は終わったのだろう、お礼を聞くと、荷台で昼寝の準備をするフィリア。
「じゃあ僕は寝るから、ギルドに着いたら起こしてくれ。この道をまっすぐ行けば1時間もしないうちに着くはずさ」
そういうと、彼女はすやすやと寝息を立て始めた。
全く、自由なご主人様だな。
彼女を起こさないように、ギルドに向けてゆっくりと走り出した。
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