第21話 馬車馬のように働く(文字通り)

翌朝、村を出るときに、フィリアが驚くものを持ってきた。

それは、屋根が付いた馬車である。しかし馬はいない。

荷台の部分だけである。


「驚いたかい?以前、村を出るときに、作成をお願いしていたのさ。いつまでもカゴじゃ乗り心地がわるいからね」


荷台に座ったフィリアが説明してくれた。

嫌な予感が頭をよぎる。


「一応聞くけど、馬を借りるつもりはないのか?」


諦めてはいたが、念のため確認してみた。


「君は何を言っているんだい。せっかく君が持ちやすいように作ってもらったんだ。馬なんかにひかせたら、作ってくれた人に失礼だろう?」


クスクスと笑うフィリア。

昨日のこと、まだ怒ってるのかなぁ。

そんなことを思いながら、馬車を引くしかなかった。



町へ移動する途中、昨日思いついたアイデアをフィリアに話してみた。


「アリアが良いって言えば、いいんじゃないか?魔法の才能がない君には、そういう工夫が必要だろうね」


ひとこと余計な気がするが、彼女の了承を得ることもできたし、町に着いたらお願いしてみよう。

期待に胸を膨らませて、町へと急いだ。


ギルドでは、アリアとメリルが待っていた、もはやお馴染みの顔ぶれだ。


「討伐ご苦労様。今回はかなりの数がいたのね」


俺が抱える角を見て、アリアが驚く。

念のため、小さい奴らの分も持ってきたのでかなりの数になったのだ。

メリルから報酬を受け取り、角を渡す。


「今回は沢山いたんですね~、これだけの数を倒すのは大変だったんじゃないんですか?」


メリルが角を受け取りながら、そんなことを聞いてきた。


「俺にかかれば、こんなの楽勝だよ!」

「ほとんど僕が!倒したんだけどね。君は何匹だったっけ?確か、2匹じゃなかったかな」


カッコつけようとして失敗してしまった。

少しくらいかっこつけたっていいじゃないか。

俺たちのやり取りを見てくすくすと笑うメリル。

彼女は、角を奥の部屋へ運ぶと、鑑定をし始めた。

俺は早速アリアに今日一番の目的を伝える。


「アリアさん、あの角って何かに使うんですか?」


角を指さしてアリアに尋ねる。

そう、俺の目的を達成するには、あの角が必要なのだ。


「あの角は、鑑定が終われば、処分する予定よ。もしかして欲しいの?」


察してくれたのか、アリアのほうから申し出てくれた。


「はい!できれば小さいのも欲しいんですけど・・・だめですか?」


アリアとフィリアが目で何か確認しあっている。


「じゃあ、あなたにあげるわ。一本だけ、私たちがもらうね」


奥の部屋で鑑定していたメリルが、小さいものを一本だけ抜きとり、角を返却してくれた。

お礼を言って受け取る、早くもって行きたい。


「じゃあフィリア、あとはお願いしてもいいか?俺はさっきの店にちょっと行ってくるよ。終わったら、例の店でまちあわせな」


フィリアがひらひらと手を振っている。

それを確認すると、アリアとメリルにもお礼を言ってギルドを飛び出していく。


**********************************


「彼、何かあったの?」


フィリアは余り興味が無い、アリアに伝えるほどのことでもないだろう。


「さぁね、彼なりに、色々と思うことがあったんだろうさ。それよりアリア、次の依頼はないのかい?」


メリルは角の鑑定のため奥の部屋に戻っている。

アリアは書類を一枚取り出すと、内容を説明し始めた。

内容を聞いた後、ショウに以来を伝えるときのことを考え、少しだけ悩む。


「これは・・・彼が動揺しないといいがな。とりあえず、今日は準備のためこの町に泊まるよ。何かあったら、宿まで来てくれ」


止まる予定の宿の名前を紙に書き、アリアに手渡す。

依頼書をドレスにしまうと、ギルドを後にした。


**********************************


フィリアに後を任せた俺は目的の店に角を持ってきた。

ドアを開け、店の中に入る。壁や棚には、剣や斧など様々な武器が並んでいる。


「ボルグさん!こいつを使って剣を作ってくれ!」


カウンターに勢いよく角を置き店主を呼ぶ。


奥から店主が姿を現す。

筋骨隆々の素晴らしい肉体、頭にはタオルを巻き、手にはハンマーを持っていた。

以下にも職人という格好だ。


「今朝の坊主じゃねぇか、まさか本当に頼みに来るとわな」


ボルグは、俺が出した角を受け取る。


俺の目的は、倒したウサギの角で武器を作ってもらうことだ。

今朝ギルドに向かう前に、町一番と評判の武器屋に角をみせて加工できないか相談していた。


「しかしこいつはとんでもない代物だな、いったい何なんだ?」


手にしたハンマーで角を軽くたたきながらボルグが訪ねる。

金属よりも固いくせに、軽くて頑丈な。まさに未知の素材だからな。


「俺が倒した、一角ウサギの角だよ。どうかな?これならすごい剣ができると思うんだけど」


目を輝かせて期待する。ボルグのほうもこの素材でどんなものができるか興味があるようだ。

ボルグは角をしまうと、今度は俺の背丈や、手の大きさなどをはかっていく。


「そうだな。坊主が作れるようなやつを作ってみるか、小さい方も、お前さんが使えるようなもんを作っておくよ。明日の朝にはできてるだろうから、受け取りに来な」


すらすらと図面を書きだすボルグ、もう作業を始めたようだ。


「お願いします!」


お礼を告げ、店から出ていく。明日の朝が楽しみだ。

店を出て、フィリアとの待ち合わせ場所に急ぐ。

待ち合わせは、町の中心にある大きな食堂だった。

冒険者や町民たちが、大勢いたが、フィリアを探すと、彼女はすぐに見つかった。

やはりあのドレスは、街中ではすごく目立つ。

席に着くと、料理を頼みフィリアに向き合う。

紅茶を飲んでいるところを見ると、彼女はもう食べ終えているようだ。


「ボルグさん、引き受けてくれたよ。明日の朝にはできるみたいだから、受け取ってから次の依頼に向かおう」


届いた料理を食べながら、フィリアに報告する。


「そうかい。それはそうと、次の依頼が決まったよ。食べながらでいいから聞いてくれ」


フィリアは、あまり興味がないのかさっさと次の依頼の話をしはじめた。


「僕たちの次の目的地は、この町から南にある、古びた遺跡だ」


遺跡の調査でもするのだろうか?どうやら変異種の討伐が目的ではないようだ。

彼女は少し悩んだ表情を見せたが、続きを話し始めた。


「依頼内容は、その遺跡を根城にしている集団の調査だ。そいつらが現れた時期と、変異種の発生時期が近いようでね。何か関係があるんじゃないかと、ギルドはにらんでいるわけさ」


内容を聞いて、腕が止まる。


「そいつらってまさか」


フィリアは、俺の態度から何を考えているかすぐに分かったようだ。


俺が落ち着いていることを確認すると、話を続ける。


「君の想像通り、おそらくは至竜教だろうさ」

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