第18話 不穏な気配

フィリアが入ったカゴを背負い、ハジの町をめざし走る。

アルクの小屋を出て以来、彼女とは一切喋っていない。

走りながら彼女の方を見ると、なにやら考えているようだった。

しばらく走っていると、フィリアから声をかけられた。


「僕が思うに、あのゴーレムに薬を使ったのは、おそらく君の因縁の相手だろうね」


思わず足を止めてしまう、いつもなら怒るのだが、フィリアは何も言わなかった。


「それって、俺の村を襲った奴らのことか?」


至竜教。

フィリアが教えてくれた名前を思い出す。

家族を、友人を殺し、自分も殺そうとした奴ら。

心の底から、ふつふつと怒りがこみ上げてくるのがわかる。


「落ち着け少年。おそらく、と言っただろう。まだ確信は持てないんだ」


フィリアがカゴから顔を出し俺をなだめる。

だが、彼女が話してくれたということはそれなりに自信があるのだろう。

あいつらの情報が何か手にはいるかもしれない。


「色々と聞きたいだろうが、とりあえず、ハジの町へ急いでくれ、アリアにも相談したいことがある」


そういうと、彼女はカゴの中に座り直す。

どうやら町に着くまでは、話してもらえないようだ。

俺は話を聞きたい一心で急いで町にむけて走るのだった。


以前は3時間かかったが、今回は1時間で着くことができた。

実戦を通して、力の使い方も上手くなっているのだろう。

カゴから降りたフィリアとともに、ギルドを目指す。

ギルドに着くと、すでにアリアとメリルが待っていた。


「お疲れさま、無事以来を達成したようね。あなたたちに任せて良かったわ」


アリアが優しく声をかけてくれた。メリルも、俺達が帰ってきたことを喜んでいるようだ。


「とりあえず、僕たちが見てきたことを話そうか。アリア、君にも聞きたいことがある。時間はあるかい?」


フィリアの態度から何かを感じ取ったのだろう、アリアは頷き、少し待っててというと、2階へと上がっていった。

アリアが何枚か紙を持って戻ってくる。

メリルとアリアに、体験した出来事を話した。


赤いゴーレムのこと、その宝玉の鑑定結果、そして何者かが薬を使い凶暴化させたこと。

報告と同時に、回収した等級証をメリルに渡す。


「と言うわけさ、僕たちじゃなければ、もっと死人が増えていただろうね」


話し終えたフィリアがため息を付く。


「初めての依頼なのに、大変でしたね。これが報酬の金貨50枚です」


メリルが、同情するような視線でこちらを見ている。

確かに大変だったが、報酬も大きかった。

報酬を受け取ろうと手を伸ばしたが、フィリアが横から手を伸ばし、先に受け取る。


「ありがとうメリル。ただ、今度からは僕の方に渡してくれたまえ」


嬉しそうに中を確認するフィリア。


「なぁフィリア、二人で引き受けたんだし、せめて等分にしないか?」


嫌な予感がしつつも、彼女に尋ねる。


「じゃあ半分は、君の分ということにしようか。そういえば、君はたしか僕に借金があったよね。今朝、アルクに渡した君の分も、借金でつけてあるよ。泊めてもらった上に、情報までもらって、ただじゃ悪いからね」


フィリアがいつもの笑みを浮かべていた。

予感は的中してしまったようだ。


「まぁ今回君はがんばったからね、優しい僕がアルクへの分は払ってあげよう。と言うわけで、残り金貨975枚、がんばって返してくれよ?」


クスクスと楽しそうに笑うフィリア。


「あれだけがんばって、手元に入った金は0なのか・・・」


落ち込み、頭を下げる。

そんなやりとりを見て、アリアとメリルは思わず笑ってしまったようだ。


「さて、本題に入ろうか。アリア、僕たちのほかに、同じ様な魔物と戦ったという情報はあるかい?」


まじめな表情にもどり、アリアに尋ねる。

メリルは別の仕事に向かったため、3人で話を進める。


「あなたの推測通り、ここ最近各地のギルドに、同じ様な報告が届いているわ。通常の個体とは、比べものにならない強さの魔物が出現しているようね」


アリアが、持っていた書類を広げて話す。

そのどれもが、変種の個体と戦った報告書のようだ。


「その変種の魔物には、共通の特徴がある。そうだろう?」


フィリアの問いかけに、アリアは頷く。


「まるで、竜のような爪と牙」


俺は、戦ったゴーレムのことを思い出す。

大きさや、凶暴性も特徴的だが、一番記憶に残っているものは違う。

ゴーレムにはあり得ない、爪と牙。


「どの魔物にも、全て爪と牙があったそうよ。あとは身体的な強化と巨体化、凶暴性の増加と言ったところかしら?」


どの魔物も、ドラゴン級の冒険者か、王国の騎士団によって討伐されていた。

討伐までに、かなりの数の冒険者や、兵士が犠牲になっているようだ。


「僕の考えでは、元凶は至竜教だと思うんだが、アリアはどう思う?」


至竜教の名を聞き、体が硬くなる。


「私もその可能性が高いと思う。変異種が現れ始めたのと同時に、各地で奴らの目撃情報も寄せられているわ」


旧友の同意と目撃情報を得られ、フィリアの疑惑は確信へと変わったようだ。


「僕の思ったとおりか。君の仇は、よほど恨みを買いたいらしいな」


俺は二人の話を黙って聞いていた。

疑問はあるが、奴らが何か目的があって行動していることは間違いない。


「奴らについて、まだ情報が少なすぎる。変異種を追って何か手がかりはないか探そう」


そうしていけば、いずれ復讐するチャンスもくるだろう。


「そこで、事態を重く見た王政府が、こんな指示を出してきたの」


1枚の紙を取り出すアリア、内容はこうだ。


冒険者ギルドは、大陸全土で発生している謎の変異種の討伐、及び発生原因の究明を最優先として活動すること。

可能であれば原因を排除し、解決をはかること。

変異種の目撃情報がでた場合、即座に討伐すること。

変異種との戦闘は、ドラゴン級以外厳禁とする。


「このギルドには、ドラゴン級の冒険者は、あなたたち二人しかいないの。帰ってきて早速で悪いけれど、変異種の討伐に向かってもらうわ」


アリアが依頼書を取り出す。

場所はフィリアと特訓した村の近くのようだ。


「ちなみに、変異種一体につき、金貨50枚の報酬が国から支給されるから、がんばってね」


笑顔でそんなことを伝えるアリア。


「仕方ない、王政府の言いなりになるのは気が進まないが、放って置くわけにも行かないからね。討伐に向かうとしようか」


フィリアがそんな不満を口にしながら立ち上がる。


「やつらに復讐出来るなら、何だっていいよ」


依頼書を受け取り、ギルドを後にする。

町の入口まで来ると、フィリアを乗せたカゴを背負いまた走り出した。

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