第17話 頭の角(物理)
洞窟の外へでると、夕日がでていた。
この分なら何とか夜までには宿へ向かえそうだ。
とりあえずアルクの元へと宝玉を届けることにした。
「これが赤いゴーレムの宝玉だ。確認してくれ」
ポーチから取り出した瞬間アルクは眼鏡を光らせ、宝玉を手に取り観察する。
「こんな大きな宝玉は見たことがありません!それに、色も真っ赤なのが気になります!通常の個体だと、これよりずっと小さくて、透明なんですよ。これは大発見です!」
宝玉を持ったまま、アルクが飛び跳ねる。興奮しているのか、言葉使いが先ほどと違う。
そんな光景を見ていたフィリアが、追加の情報を伝える。
「その宝玉の持ち主は、冒険者の死体を食っていたんだ。さらに、そいつはゴーレムが通常持っていない、爪と牙を持っていたよ。まるで竜みたいにね」
フィリアの話を聞き、考え込むアルク。
そんな会話を聞きながら、俺は体を刺されていたことを思い出す。
そういえば、洞窟を出たあたりから痛みを感じない。
気になって傷口を見てみると、すでに傷はふさがっていた。
「本当、とんでもない力だな」
フィリアは、俺がまだ力を半分も使えていないと言っていた。
彼女が、降ってくるゴーレムを両断したことを思い出す。
あれができてようやく、使いこなせたといっていいのだろう。
つぶやいているのが聞こえたのか、フィリアがこちらを見ていた。
「僕が与えた力を、もっとうまく使えるようになってくれたまえ。そうでないと、僕が楽できないだろう?今日だって、僕のアドバイスがなければ、君は逃げるか、死ぬしかなかったさ」
ニヤニヤした顔でそんなことを言うフィリア。
彼女の言うことは正しい。
もっと強くならなければ。
「さて、僕たちはそろそろ村で宿でも取ろうと思うんだが、その宝玉の鑑定には、どれくらい時間がかかりそうかな?」
アルクの方を向き直し、未だに宝玉を持ったまま部屋の中をウロウロしながら考えこんでいる彼女に声をかける。
「そうですねー。今から寝ないで鑑定すれば、朝までには色々解ると思いますよ。それと、あの村には宿なんてないので、良かったらここに泊まっていってください。綺麗ですけど、なんか不気味なんですよねー、この宝玉。お二人がいれば、万が一何かがあっても安心ですから」
アルクが歩くのをやめ、こちらを向いて答える。
俺たちは、彼女の好意に甘え、一晩泊めてもらうことにした。
問題があるとすれば、アルクは一人暮らしなので、当然ベッドも一つしかなかった。
俺は、ベッドをフィリアに譲り、床で寝ようとしたのだが。
「今日は君も疲れただろう?前も言ったけど、僕は気にしないから、一緒にベッドで寝てくれて構わないよ。明日も今日と同じぐらい、働いてもらうからね」
そういうと、彼女はさっさと寝てしまった。
たしかに今日は色々なことがあったし、1日中走り回って疲れたのも事実だ。
少しだけためらったが、フィリアが良いと言っているのだ。
明日のことを考え、ベッドで一緒に眠った。
次の日の朝、俺が目を覚ますと、パジャマ姿のフィリアの寝顔が目の前にあった。
長い髪は彼女の顔にかかり、呼吸のたびにふわふわと揺れていた。
「やっぱ、かなりの美少女だよな」
寝ている彼女を見つめる。
炎のような赤い髪。長いまつげにピンとした鼻筋。
小さな口からは、寝息が漏れている。
寝るときもリボンは外していないようだ、頭からは2本のリボンが見えていた。
ふと、違和感に気づく、リボンだと思っていたものを、じっと見てみる。
それは、角だった。
リボンのように見えていたものは、彼女の頭から生えている?角だったのだ。
思わず手を伸ばす、触れた指先から、岩のように硬い感触を感じる。
「すごい。本当に角が生えてる。なんで気づかなかったんだろう」
夢中になって触っていると、ふいに悪寒が走った。
「そんなに僕の角が気になるのかい?気に入ったのなら、君にもつけてあげようか?クリスタルの角なんてどうだろう?君に似合うと思うぞ」
下を見ると、フィリアが起きていた。
口元は笑顔だが、目が笑っていない。
「フィ、フィリア、、おはよう。起きてたのか」
震える声でなんとか挨拶をすると、彼女が体を起こす。
ベッドの上に立ち上がると、寝ている俺の腹を勢いよく踏みつける。
「全く!君は!一緒に寝てもいいと言ったが!誰も触っていいとは言ってないぞ!今度僕に触れてみろ!骨も残さず灰にするからな!」
叫びながら何度も踏みつける彼女。
『昨日のゴーレムのほうがまだ弱かったな・・・』
そんなことを思いながら、なんとか耐えるのであった。
そんな騒動のあと、フィリアは先に部屋を出ていく。俺も着替えをすませ部屋を出た。
部屋の中央に置かれた机の上には、昨日の薬草とは違い、朝食が並んでいた。
先に出ていたフィリアは、すでにアルクと朝食を食べていた。
席に付き、一緒に朝食を食べ始める。
「おはよう。昨日はよく眠れたかな?さっきはすごい音がしてたけど・・・大丈夫?」
目の下にくまを作ったアルクが声をかけてくれた。
恐らく徹夜で鑑定をしていたのだろう。
「おはよう。今朝はちょっと事故があったけど、夜はゆっくり眠れたよ、ありがとう」
お腹はまだ痛むがもう大丈夫だ。
フィリアの方を見ると、踏みつけてスッキリしたのだろう、笑顔で朝食を食べていた。
いつの間にかいつものドレス姿になっている。いつ着替えたのだろう。
朝食を食べ終えると、アルクが昨日の宝玉を取り出した。
「それで、何かわかったかい?」
フィリアが尋ねる。アルクは徹夜したとは思えないほど饒舌に、わかったことを教えてくれた。
あのゴーレムは、何らかの薬を取り込んで、凶暴化、巨大化していたということ。
そしてその薬には、恐らく竜の血が含まれているということ。
赤く染めている成分が、竜の血液とほぼ同じ成分を示したこと。
竜は、この近くには住んでいないので、恐らく何者かが遠くで薬を作り、ゴーレムに摂取させたということ。
竜のような力も、薬の影響だろうということ。
「どうかな?これってものすごい発見なんじゃないかな!?まさかそんな薬を作っている人がいるなんて!もしそんな薬が完成すれば、人が竜の力を持つことも夢じゃなくなるよ!」
徹夜のせいか、昨日よりややテンションの高いアルク。
フィリアは、最後まで黙って彼女の説明を聞いていた。
「ありがとう、この依頼を受けて正解だったよ」
気のせいか、俺には、彼女の横顔が怒って見えた。
アルクは、まだまだ宝玉を調べてみるということだった。
何かわかれば、ギルドから連絡してもらうようにお願いし、俺たちは彼女の家をあとにした。
死んだ冒険者たちの等級証を返すのと、依頼の報酬を受け取るためにハジの町へ向かった。
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