第16話 竜の鉤爪

受け止めていた腕をはじき、距離をとる。


「殴ってだめなら、こいつはどうだ!」


勢いをつけて飛び上がり、体の中心に向かって、全体重を加えた蹴りを放つ。

ゴーレムの体が、地面を削りながら少しだけ後ろに下がる。全く効いていないようだ。

空中で身動きがとれないところに、ゴーレムの腕が振り下ろされる。

慌てて両手で受け止めるが、空中では踏ん張ることも出来ず、地面に押しつけられる。

地面が割れるほどの勢いで叩きつけられ、ゴーレムの鋭い爪が体に突き刺さる。


「くそ、離せ!」


押さえつけられた腕を殴りつけ、なんとか脱出する。

立ち上がり、拳を構え直す。

痛みはあるが傷はそんなに深くない。まだ戦える。

それにしてもこの体に突き刺さるなんて、何て鋭さだ。


「竜の力を持ってるって言うのは、本当みたいだな」


殴っても蹴っても効かない堅い体。

ゴーレムとは思えないような力に速さ。なるほどほかの冒険者が勝てないはずだ。


どうするか考えていると、またゴーレムが突っ込んでくる。

こちらの打撃がきかない以上逃げ続けるしかない。

幸い、集中していれば、避けることは難しくない。

だがこのままではいずれやられてしまう。


「何か手は無いのか、何か!」


攻撃をかわしつつ、打開策を考える。

蹴りも殴りも効かないのだ。

ふと、周りに落ちているクリスタルが目に入った。


「こいつだ!」


落ちているクリスタルを何本か拾い、ナイフのように構え、ゴーレムに向かっていく。

迫り来る腕をかわし、クリスタルの尖った方をゴーレムに向け、思い切り振り下ろす。


クリスタル同士がぶつかる高い音が響き、ゴーレムの表面がわずかに削れた。


「これでもだめか!」


この程度の傷しかつけれないのでは、いつまでかかるかわからない。

攻撃をよけつつ、次のアイデアはないか考える。


フィリアは、俺が必死にゴーレムと戦うのを眺めていた。


「そろそろアドバイスをしてあげるか。自分で気づけるか期待してみたが、僕の見立てが甘かったみたいだね」


フィリアがそうつぶやくのが聞こえた。

なすすべなく攻撃を避け続ける俺に、座ったまま声をかける。


「いつまで逃げているつもりだい?君は竜の力を持っていると言っただろう。そいつを倒したいなら、その力をもっと使えるようになるんだね」


ゴーレムの攻撃を避けながら、俺は彼女の方を見ずに答える。


「もうとっくにやってるよ!でも殴っても蹴ってもびくともしないんだ!どうしたらいいんだ!?」


額に手を当て、やれやれと首を振るフィリア。


「君はまだ、力を半分も使えていない。肉体の強化は、おまけみたいなものさ。竜にあって、人間には無い物。それを考えて見ると良い」


この身体能力が、おまけということに驚いたが、今はそんなことを考えている場合ではない。

竜にあって、人にないもの。

ゴーレムの攻撃を必死にかわしながら、考える。

そういえば、このゴーレムも竜の力を持っていると言ってなかったか?

普通のゴーレムと、こいつの違いを観察すれば、何か見つかるかもしれない!

道中見かけたゴーレムと、こいつの違い。

体のおおきさに硬さ?それともこの力に素早さか?いや、それは肉体の強化だ。もっと何か、違う点があるはずだ!

そこまで考えて、気づく。

そう言えば、こいつは死体を食べていた。普通のゴーレムには、あんな牙は生えていなかったはずだ!

それに、さっき俺の体を刺した爪、もしかすると、竜のような爪と牙を、俺も使うことが出来るのかもしれない!

指先に意識を集中させる。

体を流れる魔力が集中し、指先が熱を持ち始める。

竜のように鋭い爪をイメージし、魔力を整える。

見た目に変化はない。

だが俺の目には、鋭い爪が生えているように見えた。


迫り来るゴーレムの腕に向けて、爪を振り下ろす。

轟音を響かせながら、ゴーレムの腕が地面に落ちた。


「できた・・・」


切り落とされたゴーレムの腕と、自分の両手を交互に見つめる。

上手くできた喜びがこみ上げる。

攻撃が効くとなればこっちのものだ。

残った腕を切り落とす。

手を失ったゴーレムは、最後のあがきと言わんばかりに突進してきた。

避けるさいに、右足を切り落とす。

片足では立つことすら出来ないのか、地面でうごめくゴーレム。


「これで、とどめだ」


ゴーレムの頭を切り落とすと、ようやく動きを止めた。


「やっと終わったようだね。この程度の相手にどれだけ時間をかけているんだか」


フィリアがこちらに近づいてくる。

そうは言っても、こんな力を使えるとは知らなかったのだから仕方ないだろう。


「勝てたんだからいいだろ。それより、核を回収してさっさと戻ろうぜ」


ゴーレムの核は、人間で言うと心臓の部分にあるようだ。

傷つけないように慎重に取り出す。


「これが核か!綺麗だな」


取り出してみて驚いた。俺の握り拳の4倍ぐらいはある、赤い宝石のように輝く丸い核。

これを届ければ依頼は完了だ。


「早く届けて、宿にでも向かおうぜ。さすがに、今日は疲れたよ・・・」


そんな様子の俺を見て、フィリアはクスクスと笑う。


「まぁ君が力を使えるようになったし、今日のところは、文句を言わないでおこうか」


出口に向かうフィリア。

初めて優しくされた気がする。

そんなことを思いながら、彼女の後に続こうと立ち上がる。

その瞬間、彼女の頭上から、赤い影が降ってきた。

先ほどのゴーレムだ。

なんと、もう1体いたらしい。


「危ない!」


慌てて叫び、爪を発動させ走っていく・・・間に合わない!

あきらめかけた瞬間、信じられない光景を目撃した。


フィリアは、落ちてくるゴーレムに気づいていないのか、見向きもしない。

潰される。そう思った瞬間、まるで彼女を避けるように、ゴーレムの巨体が真っ二つになった。


土煙を上げながら、地面に落ちるゴーレム。

おそらく彼女が斬ったのだろうが、守護者の俺の目を持ってしても、彼女の動きは全く見えなかった。

フィリアは何事もなかったかのように出口に向かう。


「何をボサっとしているんだい?ゴーレムたちと夜を過ごしたいなら、止めはしないがね」


やっぱ化け物だな。

そんなことを思いながら、彼女の後を追いかけた。

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