第15話 赤いクリスタル
赤いゴーレムが目撃された洞窟は、アルクの家から、そんなに離れていない場所にあった。
「ここがゴーレムの住処か」
中をのぞくと、どういう原理だろうか、天井や壁が淡く光っていた。
「ここの洞窟は蛍石を多く含んでいるのさ、色んなアイテムの原料になるから、彼女も近くに住んで
いるんだろう」
そんなことも知らないのか?と言いたげな、そんな表情で笑うフィリア。
「そんなことより注意してくれよ、中から僕と同族の気配がする」
洞窟に向き直ると、怪訝そうな顔で中を見つめるフィリア。
同族とはどういうことだ?確か自称とはいえ彼女は竜だと名乗っていた。
「まさか竜が住んでいるっていうのか?」
慌てて彼女に尋ねる。
ゴーレム退治と思いきや、竜退治になってしまってはたまらない。
「安心したまえ。微弱すぎて、何処にいるのかわからない、その程度の相手さ」
そうはいっても怖いものは怖いのだが・・・
「とりあえず中に入ってみようか。早く終わらせないと、洞窟の中でゴーレムと夜を過ごすなんて、僕はまっぴらごめんだからね」
悩んでいても仕方がない。とりあえず俺たちは、洞窟の中へと進むことにした。
洞窟の内部も、天井や床が光を発している。これなら松明も必要なさそうだ。
しばらく進むと、少し開けた空間があり、ゴーレムが数体いた。
大きさは俺と同じかそれより少し大きいくらい。
壁に体をくっつけ、何やらごそごそと動いている。
「なぁフィリア、あいつらなにしてんだ?」
ゴーレムたちは、全くこちらに気づく気配がない。
「あれは食事をしているな、蛍石は、ゴーレムたちの大好物でもあるのさ。だからこの洞窟は、ゴーレムの住処と言われているんだろう」
フィリアがゴーレムを観察しながら答える。
そう言われてよく見てみると、壁につけている部分には口があるようだ。もそもそと動いている。
「まぁ彼らは邪魔をしたり、鉱石を採ろうとしない限り襲ってくることもない。さっさと奥に行こうか。赤いゴーレムが目撃されたのは、最深部ということらしいからね」
ゴーレムのことなど気にせず、さっさと奥に進んでいくフィリア。
「急に襲ってこないだろうな・・・」
ゴーレムを初めて見る俺は、一応警戒しながら、彼女の後をついていった。
10分ほど奥へ進んできただろうか、何度か先ほどのような小広間を通り過ぎたあと、かなり広い空間がある場所へたどり着いた。
地面のあちこちから、結晶のようなものが生え、洞窟の中とは思えないほど明るかった。
広場の奥に、何かが山積みになっているのが見えた。
「これって・・・以前依頼を受けた冒険者たちの装備か?」
近づいて確認すると、山積みになっているのは血まみれの服やポーチ、それと折れた剣などの武器だった。
中を漁ると、冒険者の証である等級証が出てきた。
以前依頼を受け、戻ってこなかった冒険者たちの物だろう。
「やっぱりみんなやられちゃったのか。等級証だけでも、持ちかえってやろうぜ」
等級証をポーチにしまう。
フィリアのほうを見ると、あごに手を添え考え込んでいる。
「何か気になることでもあるのか?赤いゴーレムもいないし、とりあえず今日は帰って、明日また来ないか?」
立ち上がったその時。
「上だ!よけろ!」
フィリアが叫ぶ、慌てて彼女のほうへ飛ぶ。
その直後、俺が立っていた場所に、赤いクリスタルが降ってきた。
地面にめりこみ、洞窟全体が揺れているような衝撃が走る。
落ちてきたクリスタルが震え、手足を出して立ち上がる。
その体は、洞窟の光を反射して赤く光っていた。
こいつが例のクリスタルゴーレムのようだ。
途中で見かけたゴーレムとは、比べものにならないほど多きい。2倍どころか、4倍以上ありそうだ。
赤いゴーレムを見て何かを把握したのか、彼女がゴーレムを指さす。
「死んだ彼らの装備はここにあるのに、どうして死体がないのか疑問だったんだ。ゴーレムは人を殺すことはあっても、その肉を食べたりはしない。だがどういうわけか、おそらくこいつが死体を食べてしまったんだろう」
ゴーレムの口の周りは、血の跡だろうか、赤黒く変色している。
開いた口の中には、鋭い牙が並んでいる。
「そして、僕が感じていた同族の気配の正体は、こいつのようだね。姿が見えて確信したよ。このゴーレムは、微弱だけど竜の力を持っているぞ」
フィリアが話し終わると同時に、ゴーレムが体を丸め、とてつもない速さでこちらに飛んできた。
別々の方向にかわす。ゴーレムが突っ込んだ壁は、体と同じ大きさにおおきくへこんでいた。
あんなのを食らえば、人間などひとたまりもないだろう。
どうしてそんな力を持っているのか、考えている時間はない。
俺はこぶしを構え、ゴーレムに向き合う。
「悪いが時間がないんだ!さっさと終わらせてもらうぞ!」
渾身の力をこめ、ゴーレムの体を殴る。
だが、ゴーレムの体には傷一つついていない。殴った俺のこぶしのほうが痛いぐらいだ。
丸太のような腕が、こちらに向かって振り下ろされる。
足が地面にめり込みつつも、何とか両手で受け止める。
フィリアと言えば、なんと入り口付近の岩に座り、のんきにこちらを眺めている。
手伝うつもりは全くないようだ。
「さてと、そろそろ彼には、新しい力を使えるようになってもらわないとね」
必死に耐える俺を見ながら、彼女はニヤリと笑うのであった。
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