第13話 冒険者としての出発

室内に戻ると、フィリアは受付に座り、メリルと談笑していた。

俺もフィリアの隣に座る。


「彼は大丈夫?」


俺は、先に運ばれた相手のことが気になり、メリルに尋ねる。


「彼なら大丈夫ですよ、気を失っていましたが、全身打撲程度でしたし、治癒魔法もかけてもらいましたから。鎧はだめになっちゃいましたけどね」


ひとまず無事なようで良かった。

ほっと胸をなで下ろす。


「早速だけど依頼を受けたいんだが、何かいいのはないかい?」


審査結果のことなど気にしていないのか、早速依頼を受けようとするフィリア。


「少しくらい祝ってくれてもいいんじゃないか?ドラゴン級だぞ!」


嬉しくてフィリアに等級証をみせつける。

そんな様子の俺を、横目で見るフィリア。

かなり不満そうな顔をしている。


「あのな、君がドラゴン級を取るのは当然だろう。君は僕の力を与えられた守護者なんだから。もしそれ以外だったら、どんな罰を与えてやろうか考えていたところだ」


彼女からすれば、ドラゴン級をとって当然だったようだ。

とれなかったらどうなっていただろう、その恐怖で少しだけ顔が青くなる。

そんなことを考えていると、メリルではなくアリアが依頼書を持ってきた。


「君たちにお願いしたい依頼があるの。というよりは、危険すぎて君たちにしかお願いできないのよね」


フィリアが受け取り内容を確かめる。

どんな内容なのだろう。横からのぞこうとしたら、隠すように反対を向いてしまった。

仕方ないので、もらったばかりの等級証を眺める。

ランクの欄に書かれているドラゴンの文字が輝いて見えた。


「おもしろいね。この依頼、僕たちが引き受けよう」


ニヤリと笑うフィリア。

こういう顔をするときの彼女は、大抵ろくなことを考えていない。


「ありがとう。じゃあメリル、後はよろしくね。フィリア、久々に会えて嬉しかったわ。ショウ君もこれから頑張ってね」


彼女に頭を下げる。フィリアは返事こそしなかったが、ひらひらと手をふってこたえていた。


「相変わらず不器用ね」


そうつぶやくと、メリルに後を任せ、アリアは2階へとあがっていく。

ギルド長ともなると、忙しいのだろう。


「じゃあこの依頼はお二人にお任せしますね。詳しい内容については、現地で依頼人から聞いてください」


フィリアが依頼書をドレスにしまい、等級証に見とれていた俺の方を向く。


「じゃあ初めての依頼を受けに行こうか。今日は忙しくなるぞ!」


笑顔でギルドを出て行くフィリア。

等級証をしまい、遅れないようについて行く。


町の入口まで来ると、フィリアはまた俺の背負うカゴの中に入りこむ。


「とりあえずここから北の村へ向かってくれ。詳しい話は、依頼主から直接聞いてもらおう。もちろん全速力で頼むよ」


カゴの中からそんな指示を出すフィリア。

目的地もよく知らされないまま、俺は走り出すしかなかった。


走り始めて少したっただろうか、武器を持った男たちが道を塞いでいたため、仕方なく止まる。


「何か用か?」


不穏な気配を感じながら尋ねる。

男たちの一人が、剣を抜きながら前に出てきた。


「どんな手を使ったかしらないけどよ、お前みたいなガキがドラゴン級ってのはおかしいよなぁ?その等級証、俺たちがもらってやるよ」


なるほど。こいつらは俺がイカサマをして、等級証を手に入れたと思っているようだ。

いきなり現れた若造が自分たちより高い等級をもらって噂になっているのが、気にくわないのだろう。

フィリアに相談しようとおもいカゴを見ると、どうやら眠っているようだ。

長い髪で器用に目をかくし、すやすやと寝息をたてている。

起こさないように気をつけながら、カゴをおろす。

彼女を背負ったまま戦うわけにはいかない。

万が一起こしてしまったら、面倒なことになるのは明白だ。

拳を握り、男たちの方へ構える。

人数は5人、見るからに弱そうだ。


「あまり手加減するのはなれていないんだ。大怪我しても恨まないでくれよ」


言い終わると同時に、男たちが一斉に飛びかかってきた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

カゴの中でフィリアが目を覚ましたようだ。


「なぁまだ着かないのか?まだかかりそうなら、そろそろ休憩したいんだけど」


俺は息を切らしながら尋ねる。


「そうだな、このペースなら、ハジの町から3時間ってところか。残り時間は自分で計算してくれ、村に着くまで休憩は無しだ」


カゴから顔を出し、速度を確認してフィリアは答える。

あと1時間以上も走らなければいけないのか、先のことを考えると悲しくなったが、止まるわけにもいかない。

走り続けていると、今度はフィリアから声をかけられた。


「そういえば、途中でさぼったりしなかっただろうね?おろされたような気がしたんだが・・・」


背中越しに俺を見ながら尋ねるフィリア。


「ないない、絶対さぼってないから!ずっと走ってたし何にもなかったから!」


慌てて返事をする。

さぼってはいないのだが、ばれると面倒なので黙っておくことにした。


*******************************


男が目を覚ます、どうやら気を失っていたようだ。

殴られたのか、顎が痛い。

周りを見ると、仲間が同じように倒れていた。

生きてはいるようだが、ボロボロになり、気を失っているようだ。

イカサマで等級証を手に入れて、調子に乗っているガキを懲らしめるつもりだったのだが、返り討ちにあってしまった。

一斉に斬りかかったところまでは覚えている。

なにをされたのかわからないが、次の瞬間には気を失っていた。


「あんな化け物、関わらない方が賢明だな」


命が助かっただけで、幸運だろう。

倒れた仲間を起こすと、町へと帰ることにした。

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