第11-12話 衝撃のデビュー
100年以上前の等級証、メリルははっきりとそう言った。
彼女の言葉に驚いて、フィリアを見る。
彼女の方は何が問題なのかわからない、といった感じで首を傾げている。
そういえば町へ入るとき久々とか言ってたが、それは100年以上前のことなんだろうか。
自称竜の少女をじろじろと見つめるが、俺の視線など特に気にしていないようだ。
「これは間違いなく僕のものさ。この場所で登録したものだ。あれから100年以上すぎていたのには驚いたが。しかたあるまい、僕にとっては100年なんて、ほんのひと時だからね。」
冗談ではなく本気で言っているようだ。
困ったメリルは等級証を預かると、2階へ行ってしまった。
二人きりになったので、俺は彼女に質問してみる。
「なぁフィリア、あの等級証、100年以上前の物らしいんだけど、本当にフィリアのなのか?」
フィリアの見た目は、どう見ても10代半ばの女の子だ。それに人間であれば、100年もすれば死んでいるだろう。
フィリアは少し拗ねたような口調で答える。
「君も疑っているのかい?さっきも言ったが、僕にとって100年なんてほんのちょっとの時間なのさ。しばらく依頼を受けない間に、そんなにたっていたのは驚いたがね。エルフやドワーフみたいな長寿の種族と同じように竜も長生きなのさ。その中でも僕はさらに特別だけどね」
彼女が嘘をついているとは思えない。
しかし、竜だと言うことも信じられない。
腕を組み悩んでいると、2階からメリルが誰かを連れて降りてきた。
長い金髪にとがった耳、すらっとした体躯に、女とも男ともとれる美人が一緒だった。
間違いない、エルフだ。
話でしか聞いたことがなかったが、実物は想像以上にきれいだった。
フィリアも気づき、エルフに向かって手をふっている、どうやら知り合いのようだ。
「久しぶりだね、アリア」
アリアと呼ばれたエルフは、フィリアに等級証を返す。
「彼女は私の古い知り合いだから問題ないわ。ほかのギルドにもそう伝えて頂戴」
メリルがアリアの指示を受けて去っていく。どうやら誤解は解けたようだ。
「久しぶりね、フィリア。元気そうでよかったわ。最後に会ったときのまま、本当に年を取らないのね」
声からするとエルフは女性のようだ。
「君も変わってないじゃないか。しかし君がここにいるとはね。冒険者はやめたのかい?」
笑顔で話をする2人。
自分は置いてけぼりである。
そんな俺に気づいたのか、アリアが話しかけてくれた。
「あなたがフィリアがつれてきたショウね?私はここのギルド長をしているアリアよ。よろしくね」
とびきりの美女に笑顔を向けられ、恥ずかしさから思わず顔をそらしてしまう。小さく返事するので精一杯だ。
そんな様子の俺を見て、フィリアは少し不機嫌な顔をしていた。
「見た目に騙されるな。これでもアリアは、300歳近いはずだ」
そんなフィリアを見て、アリアはくすくすと笑う。
「あなただって、最後に出会った時のままちっとも変わってないじゃない。たしか128年ぶりのはずよ?」
300歳だの123年ぶりだの、短命な俺には耳の痛い会話だった。
「そう言うフィリアは何歳なん・・・」
言い終わる前に、フィリアに足を踏みつけられた。あまりの痛さに足を抑え地面にうずくまる。
「レディに年を聞くものじゃないぞ。アリア、早く彼の審査を始めてくれないか?」
気がおさまらないのか、痛みに耐える俺を踏みつけるフィリア。
「せっかちなのは変わらないのね。ちなみに彼はどれぐらい強いの?」
アリアが頬に手を当てながらのんびりと答える。とりあえず、足をはやくどかしてほしい。
「ギルドの等級で言うと、間違いなくドラゴン級だな。手加減しているとは言え、この僕と組み手して傷一つないんだから、それぐらいの強さはあるだろうさ」
踏みつけたままフィリアが答える。
「困ったわね。ドラゴン級の冒険者なんて、このギルドにはいないし、あなたにお願いするわけにもいかないし・・・」
しばらく考え込むアリア。
「君が戦えばいいじゃないか。たしか君もドラゴン級のはずだろう?」
アリアがショウに腰かけて話す。椅子があるのになぜ自分に座るのか。
「それは無理ね、ギルド長が相手をすれば、不正の恐れがあるから禁止されているのよ。そういうわけで、このギルドにいまいる最高等級は、ベヒモス級ね。ドラゴン級の3つ下にはなるけれど、とりあえず彼との戦い次第で等級を決めるのはどうかしら?ベヒモス級の冒険者を圧倒出来るなら、ドラゴン級からでも文句ないと思うわ」
俺は話に口を挟めず座られたまま黙っていた。
フィリアと組み手しかしてない自分が、そんな上級の冒険者と戦って勝てるとは思えない。1番下のゴブリン級からスタートしてくれてもいいのに。
「それでいい、とりあえずこの子に自信をつけさせてあげなければね。毎日僕にやられてばかりで、プライドはズタボロだろうから。自分がいかに化け物なのか自覚してもらわなきゃ困る」
俺の意見など全く聞かれず、審査の相手が決まった。
審査はギルドの裏の広場で行うと言うことなので、フィリアと俺はひとまず先に移動する。
広場に着くと、椅子に座るフィリア。
「ベヒモス級が相手とは、これは治癒魔法を使える冒険者を用意しておかないといけないな」
彼女が不満そうに口をとがらせる。
治癒魔法が必要なほど、俺は大怪我をするのだろうか?
「俺は冒険者に詳しくないんだけど、ベヒモス級ってやっぱり強いんだろう?」
たまに村に来る冒険者しか見たことがなかったし戦っているところを見たことはない。
けれどもみなそれぞれ剣や鎧を身につけておりとても強そうだった。
「さぁ、どうだろうね。僕からすれば人間の強さなんて、どれも弱いとしかいえないからね。とりあえず君にアドバイス・・・というよりは注意をしておこうか。決してやり過ぎるんじゃないぞ」
そう言うと、ドレスの中からティーポットとカップを取り出し、紅茶をいれはじめた。
先ほどの等級証もそうだが、一体どこにどうやってしまっているのだろうか。いつか聞いてみよう。
そんな話をしていると、アリアとメリルが相手の冒険者をつれてやってきた。
なぜか他の冒険者たちも続々と広場に集まっている。
「待たせてすまないね。早速だが審査をはじめようか」
アリアが連れてきた冒険者は、頭からつま先まで全身を鎧で覆っており、背中には俺の背丈ほど有る大剣を背負っていた。
「君が審査の相手かな?よろしく」
彼は俺に握手を求めるように手を差し出してきた。
「よ、よろしくお願いします」
握り返す手がふるえてしまった。
審査とは言え、自分よりかなり大きい男と今から戦わなければならないのだから怖いもの怖い。
「緊張しなくても大丈夫さ。私も初めはそうだった。それに今回は実戦じゃないから、怪我をしても死ぬことはない。ちゃんと手加減するからね」
震えに気づいたからか、彼は優しく声をかけてくれた。
広場に移動し、距離を取り向き会う。
その周りをギャラリーの冒険者が囲む。
フィリアは椅子から動こうとしないどころか、こちらを見てもいない。
審査のことなど全く興味がないようだ。
アリアは彼女の向かいの席に座り、こちらを見ていた。
メリルが広場の端に立つ。
「今から冒険者ショウの等級審査を行います!どちらかが戦闘不能になるか、ギルド長アリアの合図で終了とします!」
ギャラリーから歓声が上がる。
ドラゴン級の冒険者が新米を連れてきたということで、みな興味があるようだ。
相手の冒険者が剣を抜き、こちらに構える。
刃の付いていない方とはいえ、当たれば打撲どころではすまないだろう。
俺も拳を握り構える。俺は武器を持っていない。
フィリアに武器を使いたいと何度かお願いしたこともあったが、素手で十分だと用意してもらえなかった。
「始め!」
メリルの合図とともに、相手が動く。
あっという間に距離を詰めると、構えたまま動かない俺の横腹に、なぎ払うように剣を振るう。
大剣をふるっているはずなのに。まるで木の棒でも振っているかのような動きだった。
さすが熟練の冒険者だ、無駄がなく速い。
だが、俺の目にはすべて見えていた。
まるで止まっているかのような速度で動く大剣を左手でなんなくつかむと、目の前の鎧に向かって、右の拳をたたきつけた。
相手の体が吹き飛び、ギルドの壁にたたきつけられる。
そのまま地面に力なく横たわってしまった。
彼が着ていた鎧の真ん中には、俺の拳の形にへこみがあり、前面に亀裂が入っていた。
静まりかえる冒険者たち。
メリルもアリアも、信じられないといった表情で目を見開いている。
フィリアといえば、気にすることもなく紅茶を優雅に飲んでいた。
誰もが驚き、言葉を発せないでいる中、多分俺が一番驚いていた。
全力どころか、半分も力を込めていないのに、大男を一撃で吹き飛ばすことができた。
今までフィリアとしか戦ったことがないから、俺は自分の強さをよくわかっていなかったのだろう。
以前素手で十分とフィリアが言ったのは、意地悪ではなく必要ないからだったのだ。
しばらく沈黙が続いた後、アリアが1番最初に口を開く。
「勝負ありね。メリル、彼の治療をお願い」
メリルが周りの冒険者の手を借り、気絶している相手を建物へと運んでいく。
落ち着きを取り戻したのだろう、残った冒険者たちがざわつき出す。
アリアは俺に近づくと、懐から等級証を取り出し、何か書いている。
「おめでとうショウ君。なくさないように大事にしてね」
そう言うと、等級証を手渡してきた。
そこにかかれた等級を見て驚いた。
「俺がドラゴン級!?本当にいいんですか!?」
あわててアリアに詰め寄る。
急に近づいたせいか、一歩下がりながら焦った口調でアリアが答える。
「君が吹き飛ばした相手は、このギルドの最高等級であり、冒険者の中でも上位の部類に入る強さなのよ。そんな彼をあんな風に倒してしまうなんて、ドラゴン級にふさわしい強さね」
等級証を上に掲げ、何度も見直す。
あこがれの冒険者になれただけでなく、まさか最上級のドラゴン級をもらえるなんて夢のようだ。
「終わったかい?ならさっさと依頼を受けに行くよ」
紅茶を飲み終えたのか、フィリアが中へ戻っていくのが見える。
俺は等級証をしまい、あわてて後を追いかける。
この衝撃的なデビューにより、俺は一躍有名人となった。
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